魔法のコトバ−1
「みなとせんせい」 可愛らしい声でカカシ君が僕を呼び、見上げていた。 カカシ君はまだ三歳だけど、もう忍としての修行を始めている。 何たって、あの『木ノ葉の白い牙』の息子だ。 この子が父親から受け継いでいるのは、その美貌や髪の色だけではなかった。 忍者としての天才的な才能を持って生まれた、まさに神童。 そんなカカシ君が僕を『先生』と呼んでくれるのは、父親のサクモさんが、自分だけが教えたのでは教育内容が偏ってしまいそうだという理由で、僕に可愛い息子の指導役(別名子守りともいう)を任せてくれたからだ。 僕なんてまだ若輩者だから、『先生』なんておこがましいと言うか、恥ずかしいのだけど。 まあ、そこは相手がまだ赤ん坊から幼児に進化…いや、成長したばかりの三歳児だから、釣合いはいいのかもしれない。 「何かな? カカシ君。読めない字でもあった?」 ううん、とカカシ君は首を振る。 「あのねえ、きのうね、おとーさんにしてあげたら、とってもよろこんでくれたこと、みなとせんせいにもしてあげる」 「………な、何を、かな?」 うふ、とカカシ君は嬉しそうに笑った。 ああ、可愛いなあ………サクモさんが息子にメロメロなのもよーくわかる。 ………このぷにぷにのやわらかほっぺなんて、一度触るとクセになっ………あ、いや、僕は幼児趣味じゃないから。可愛くて触り心地の良いものを愛でるのはヒトとしての本能的なものだから。 「せんせい、べすとをぬいで、そこにねて」 一瞬、耳を疑った。 この幼児、今何て言った? ―――服を脱いでそこに寝ろ? 「カ、カカシ君、あのね………」 「せんせい、ねて」 重ねてお願い(?)され、僕は折れた。 ベストを脱いで、草の上に寝転ぶ。 「こう?」 「ちがうのー。おせなかがうえ」 ああ、うつ伏せになれって? よっこいしょ、と腹ばいになる。 「こうかな?」 「うん」 カカシ君はよいしょ、とサンダルを脱ぐと、勢い良く僕の背中の上に乗った。 「ふみふみ〜〜〜!!」 うおおおおおっ!!!!!! そ、そうか。 マッサージか―――ッ カカシ君はこの足踏みマッサージにおいても天才だった。 何と言うか、ツボを心得ている。恐ろしい三歳児だ。 きっと、サクモさんが気持ちいい、と言った場所を正確に覚えているのだろう。 人間、押されて気持ちいい場所なんて似たり寄ったりだから。 カカシ君はバランス感覚もとても良かった。さすが忍者のタマゴ。何にもつかまらず、ひょいひょいと身体の上を歩いてツボを押していく。 「せんせい、さんだる、ぽい」 カカシ君は僕のサンダルを抜き取り、足の裏も踏んでくれた。 あああ、そこ、いい………思わず恍惚としてしまう。 三歳児の体重と、小さな足指が醸しだす絶妙のワザ。 まだ十五なのに背中や足の裏を子供に踏まれて気持ちいいだなんて、やっぱり結構身体を酷使しているんだなあ………僕も。 「せんせい、きもちい? いたくない?」 「う、うん。とっても気持ちいいよ」 「じゃ、もっとしてあげるね」 …………………何か。 これと同じよーなセリフがお師様の書いていた原稿にあったような。 お師様はコッソリ書いているようだけど、クズかごに投げ込んであった書き損じを偶然目にしてしまったんだ。別に隠さなくてもいいのにね、恋愛小説くらい。 ―――というのはともかく。 ふみふみふみ。 カカシ君の可愛らしいあんよは、僕のツボを確実に押していく。 たまにすごくいい所に入って、思わずヘンな声が出そうになってしまう。 これはヤバイ。 「カ、カカシ君」 「あい」 「んっと、もういいよ」 「いいの?」 「うん」 カカシ君はぽん、と背中から降りた。 僕は身体を起こし、ウン、と両手を突き上げて伸びをした。 「あー、何かほぐれた感じ。…ありがとう、カカシ君」 「ど、いたしましてです」 カカシ君は神妙な顔でぺこんとお辞儀した。 ああ、やる事がイチイチ可愛い。 抱き込んでわしゃわしゃーっと撫でまわしたくなってしまう。 「…カカシ君」 「あい」 「昨日、お背中ふみふみしてあげた時、お父さんは何かご褒美くれた?」 ん〜? と首を傾げる三歳児。凶悪なまでにカワ………………(以下略。) 「ごほーび?」 「うん。何か言ったとか、くれたとか」 カカシ君はコクンと頷いた。 「ありがとって、ちゅーしてくれた」 おう、感謝のキスね。なるほど、妥当だ。 さすがサクモさん。子供に過剰なご褒美は禁物だものね。 でもそれって、僕がやってもいいものなんだろうか? 子供のほっぺにちゅう。 ………別に問題はナイような気もするけど、師弟としてはいかがなものなのだろう。 「せんせいも、ちゅー?」 「………していい?」 こういう事を子供に向かって訊くのも変かも。 しかし。 「せんせいも、ちゅう!」 カカシ君は高らかに言い放ち、嬉しそうに―――なんと、僕の唇にぶちゅ、と可愛い唇をぶつけてきたのである!!! うわわ、三歳児に唇奪われた………って言うか! サクモさんってば、カカシ君にこういうキスをしてたわけですか!! ………でもソレって、ちょっとマズイんじゃなかろうかと思う。 親子でちゅう、はまあいいとして。(カカシ君が小さいうちだけだろうし) カカシ君が誰にでもこういう『ぶっちゅ』をするようになったら、絶対にマズイ。危ない。 「あ、あのね、カカシ君」 「あい?」 「今みたいな、ちゅう…ね、あんまり色んな人にしちゃダメだよ?」 カカシ君はキョトンとした。 「だめ?」 「……んっとね、だから……お父さんとかならいいけど、他の人にちゅうしたら………」 あ、とカカシ君は得心したような声を出した。 「あい! おとーさんも、ちゅうはだいすきなひとにしかしちゃだめって。おんなじ?」 あ、良かった。 一応サクモさんもそれは注意しておいたんだ。 「そうそう。おんなじ」 ―――って! カカシ君にとって、僕は『だいすきなひと』にあてはまるわけ? 「………僕にちゅう、はいいの?」 あい、とカカシ君は頷いた。 「みなとせんせい、だいすき」 ………イカン。ちょっとジ〜ンとしてしまった。 三歳児の無邪気な『大好き』なんだから。 イチゴとかお気に入りのクマのぬいぐるみとかと同じ括りだから! 落ち着け、自分。 でも、面と向かって『大好き』って。 あまり言ってもらえない言葉だよね。 何だか、すごく嬉しい。 「せんせいは?」 あ、そっか。きっと、「おとうさん、だいすき」ってぶっちゅしたら、サクモさんも「大好きだよ」ってカカシ君に応えてあげているんだろうな。 「僕も、カカシ君が大好きだよ」 ちっちゃい身体を抱き寄せてほっぺ(一応お口は避けた)にキスして。 ぎゅ、と抱きしめる。 きゃー、とカカシ君は嬉しそうな歓声を上げた。 「せんせい、だぁいすき」 ああもう、無敵の可愛さ。 君の為なら何でもしてあげる、と自然に思う。 君が笑うと、僕も嬉しいから。 『大好き』 ―――これはきっと、魔法の言葉だね。 人を幸せにする呪文。
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コピー誌『魔法のコトバ』(08年4月発行)より。 ミナトくんと仔カカ。 カカシ先生、『純真無垢』だった頃ギリギリ。 たぶん、3歳くらいまで…?^^; 萌えツボは『ひらがなでしゃべるカカシくん』(笑) …未来の四代目さま、カカシくんを愛するあまり、ちょっと壊れ気味。(笑) 2009/1/4 |