X−DAY 1
2月がやってくる。 カカシは1月のカレンダーをピリリと剥がしながら思わず唸った。 「……今年もやってきたねえ……恒例のイベントが」 毎年2月14日には数えきれない程のチョコレートをもらってしまうカカシだ。 それこそ幼稚園の頃から大学生の今現在に到るまで。 幼馴染みで同居人、そして親友兼恋人の男も同様。 彼もその日は結構な量のチョコレートを毎年受け取っている。 「去年は凄かったよなあ…イルカと同居し始めて初めてのヴァレンタインは」 カカシは昨年の惨状を思い出して苦笑した。 お互い断りきれずもらってしまった大量のチョコレートを抱えて学校から戻ったら、郵便 受けには無理矢理突っ込まれたらしい様々な包みがはみ出しており、更に玄関先には誰が 置いた物かダンボール箱が設置されていてその中にラッピングされた色とりどりの小箱が 幾つも重なり合っていたのだ。 さすがに呆れて、互いに互いを指差して「どういうつもりだ、てめえ」と思わず罵り合っ てしまった。 「今年は一つでももらえるだろうか」と毎年その日が憂鬱な巷の男達から見たら贅沢な状 況だろうが、何事も『過ぎたるは及ばざるが如し』なのである。 甘いものをあまり食べないイルカはその大量の箱から洩れる甘ったるい匂いだけで顔を顰 めていたし、そこそこ甘いものを食べるカカシもあまりにも大量のチョコレートに囲まれ ると素直に嬉しいとは思えない。 中には真面目に告白してくれている女の子もいるのだが、大半の女の子はゲーム感覚。 人気投票と同じだと思っているようだ。 芸能人のアイドルに贈っても、どうせ事務所が処分してしまう。 ならば、もっと身近な『キャンパスのアイドル』に贈った方が面白い。手渡しも出来るし、 食べてもらえる確率も高いし、うまくいけばホワイトデーのお返しがあるかもしれない、 というのが彼女達の考えらしい。 そんな彼女達のゲームに巻き込まれるイルカとカカシはいい迷惑なのだが、それも『好意』 が大前提にあるかと思うとあまり文句も言えない。 だが今、彼は近いうちに訪れるチョコレート地獄を憂えて唸っているのではなかった。 「……どーしよーかなあ…」 自分達はやっとただの『幼馴染みで親友』から『幼馴染みで親友で恋人』になった。 お互いの気持ちを確かめ合って、同性という高い壁を乗り越えて結ばれたのだ。 やはり恋人達の一大イベントには何かしたいではないか。 だが毎年そんな状況だから、今更その日に贈り物をしたところでイルカは何の感銘も受け まい。 (でも………やっぱさ、『本命』って違うモンじゃねえ? ああ、ちくしょ…オレ何で女に 生まれなかったのかなあ……この時期、恥ずかしくってチョコ売り場にも行かれねえしよ 〜男は。あ、何もチョコにこだわる必要はねえか。あれは確か日本の製菓会社の陰謀…い や、販売戦略だったってのテレビで見たことあるしな……そういやあ、ヴァレンタインは 女から男に告白する日、なんてのにしちゃったのも日本じゃなかったっけ…?) ヴァレンタインデー発祥の地、欧米では特に『女から男に』などという決まり事など無い。 恋人、家族、親しい友人にカードや花、プレゼントを贈る『愛の日』なのである。 当然、男からも女に贈るのだ。 だから、男である自分が『恋人』に何か贈りたいと思うのはおかしな事ではない。 ないはずだ、とカカシは一人頷く。 「こういうのは気持ちだもんなー……それでなくてもクリスマスは二人っきりじゃなかっ たしさあ……」 クリスマスは、ナルトが「ウチでパーティするんだってばよ! イルカ兄ちゃんとカカシ 兄ちゃんもぜーったい来てくれよなっ!!」と例の子犬の眼攻撃で迫ってきたので断わる に断われず、彼が養子に行った先の刑事さん宅で行われたホームパーティに参加してしま ったのだ。 家庭で普通に行われるクリスマスパーティなど初めてだっただろうナルトは本当に嬉しそ うだったので、それはそれで良かったとカカシも思っている。 (ま、オレ達も、ああいうタイプのクリスマスパーティはあまり経験が無かったからな… 結構面白かったからいいけどさ…) イルカの両親は「ウチには暖炉はないからサンタなどというものは来ない。それにあれは キリスト教徒がやる行事だ」と堂々と言い放ち、クリスマスイベントは一切行わなかった 頑固者だったからだ。(なので、子供時代半分イルカと一緒に育ったカカシにも当然クリス マスは無縁な物になってしまった。) そんな家庭で育ったイルカの頭には当然、「クリスマスとは恋人と夜景の見えるロマンチ ックなホテルでイイ事をする日」などという享楽的な定義はインプットされていない。 ナルトの家でパーティが無かったとしても、恋人同士の甘いクリスマスは期待出来なかっ ただろう。 が、カカシとしては恋人同士になってから初めてのクリスマスくらい何かしてもバチは当 たらないだろうと思っていたのだ。この際、かの宗教が同性の恋を禁忌としている事など 関係ない。楽しそうなイベントは楽しめばいいではないか、というのがカカシの持論だ。 (…それにお正月だって…二人きりじゃなかったし…) 年末年始は二人とも強制的に帰省させられ、イルカの実家で紅にこき使われて終わった。 あと盛り上がれるイベントと言えば、このヴァレンタインを逃したら5月末のイルカの誕 生日まで無いのである。 「…イルカに呆れられてもいいから…絶対に何かするぞ!!」 決戦の日(?)まで後二週間。 役目を終えた1月のカレンダーを握り締め、カカシは己に気合を入れた。
|
◆
◆
◆
ああそうか、『現代編』ならヴァレンタインネタ書いてもいいなあ、と思い立ったもので、つい他のSSほったらかして時節ネタに。 いつもより短い1話目ですが、リアルタイムにUPしてみました。(笑) 今日は1月の31日です。 でもヴァレンタイン前って、いつもは無い変わったチョコとか、可愛いチョコとか、有名店のものが手頃価格でラッピングされてたりして見ていて楽しいです。 友達同士で贈りあうのも既に年中行事。ついウケ狙いでチョコを選ぶ私・・・(笑) |