続・幸せの法則−2
「…で、何で俺がその勝負内容…賭けか? の内容を考えなきゃならんのだ?」 アスマは不思議そうにイルカを見た。 居酒屋の一角。余程大声をあげない限り、会話が洩れる事はないだろう。 「公平を期すためです」 イルカは静かにアスマを見た。 「俺もその勝負に参加しますから。参加しない方に勝負内容を決めてもらうのが一番不公 平が無いので。…すみませんが、考えて頂けませんか?」 アスマは冷酒を口に運んだ。 「…命に関わるようなヤバイのじゃダメなんだよな?」 「そうです。怪我をする危険性があるものや、毒物を使用するような賭けは避けて下さい。 あの、その人間が持つスキルなどが全く関係ないのがいいんです。極端な話、上忍だろう がアカデミーの子供だろうが八百屋のおばさんだろうが勝つ可能性がある様な勝負がいい んです」 「何だ? 季節外れの運動会でもやるのかよ」 イルカは笑った。 「……何かいいのありませんかね。負けた方も「ずるい」とか思わずに済むような…公平 且つ平和な勝負」 そうだなあ、とアスマは自分のヒゲをちょいと引っ張った。 「じゃあ、カンが勝負の賭けってのはどうだ? 場所を選らばねえなら、街角で次に道を 曲がって来る人間の性別を賭けるとか。ああ、もちろん単独で歩いている奴だけが対象だ。 二人連れや団体は除外。…公平にって言うんなら、同じ回数当てっこをして、当てた回数 が多い方が勝ち」 イルカは頷いた。 「…いいかもしれませんね。……どうです? カカシさん」 アスマは驚いて顔を上げた。 イルカの座る席の後ろには衝立があった。その陰から、カカシがひょっこりと顔を出す。 「…いたのかよ、お前」 「いたんだよ」 カカシの気配ならよく知るアスマだったが、カカシは気配を殺すのが上手い。 「なーんだよ、珍しくイルカから誘われたと思ったら…どういうワケだ? お前らがやる のか。…その、勝負を」 イルカは頷いた。 「はい。すみません。回りくどいお願いをしました」 公平な勝負、と言ったイルカの言葉の意味が今更ながらにわかる。確かにイルカとカカシ では、持っているスキルが違い過ぎるだろう。普通の『勝負』ではやる前から結果が見え ている。 「ケンカをしているわけでもなさそうだな。…何故勝負なんかするんだ?」 「そ…っ…それは…」 途端に歯切れが悪くなるイルカを庇うようにカカシが彼の隣りに腰を下ろした。 「……ま、武士の情けってコトにしてくんない? あんまし大声で言いたい事じゃないん だよね。…ま、アスマには結果くらい報告するからさー。ね? 今は深く追求しないで」 ココ奢るから〜とカカシはシナを作ってみせる。 「やめんか気色の悪い。…わーかったよ。今は追及しないでおいてやる。だけど人様巻き 込んだオトシマエはつけろよ?」 うん、とカカシは頷く。 「よっしゃあ、そいじゃあココはカカシの奢りってえコトで、おーい姐ちゃん、熱燗頼む わ〜。焼き鳥も追加!」 「こらァアスマ! ちっとは遠慮しやがれこのクマ!」 翌日。 木ノ葉の大通りから一本入った路地に二人はいた。 「んじゃ、ここらがいいでしょう。適当な通行量があり、尚且つ周辺施設で人種が限定さ れない場所」 ただ突っ立っていたのでは怪しまれるので、すぐ側にあった茶店に入る。道に面した縁台 に座ると、暖簾の陰から道は見えるが通行人からは見えにくくて丁度いい。そこで葛きり と醤油団子を注文してからイルカはカカシを伺った。 「……で、どうします? 勝った方が好きに選べるって事でいいんでしょうか」 カカシは微笑んだ。 「オレはそれでいいですよ。イルカ先生が勝ったら、オレは貴方の希望に従います。…喜 んでね」 「……では、五回勝負。先攻はコインで決めましょうか。表が出たら貴方から始めて下さ い」 「いいですよ」 イルカは親指の先でコインを弾いた。手の甲に落ちてきたコインを受け止め、もう片方の 手で素早く押さえる。 コインは裏だった。 「では、イルカ先生からどうぞ」 イルカは一拍考えたが、すぐ「女性」と答える。どちらにせよ、確率は二分の一なのだ。 十秒ほど道の角を睨んでいると、三十代くらいの女性が角を曲がって来た。 「…先ずは当たり、と」 教師らしく、こういう時は紙に記録するものだと思っているらしいイルカは几帳面に枠線 を引いたスコアを持っている。 そこの『1』のイルカの欄に○、と書き込んだ。 「じゃあ、次はオレですね。…では、次も女性」 カカシがそう言った途端に勢い良く5歳くらいの女の子が走りこんできた。 「……一応オンナだったみたいですね」 「立派な女性です。カカシさんも○、と」 次は…とイルカは角を睨んだ。 「男」 二分ほど誰も来なかったが、近所のご隠居さんのような初老の男がふらりと姿を見せた。 「○」 「んじゃ、次。んー…女」 「カカシさん×、と」 「え?」 イルカは座り位置の所為で、カカシより先に見えたらしい。イルカがスコアにバッテン、 と線を引いているうちに角からはひょいっと忍服を着た男が現れる。 「ちえ、はずしたか」 「では、次ですね。……男」 二人して道の角を眺めていると、声から先に若い女がやってきて店の前を駆け抜ける。 「きゃーっ! いやあん遅れちゃうーっ!」 一瞬沈黙したイルカだったが、冷静に線を引く。 「……×、と」 カカシはカラになった皿を掲げて店の奥に向かって叫んだ。 「…おばちゃーん、草団子一皿ちょうだい」 「俺には磯辺焼き下さい」 「あ、それもいいなあ」 「じゃ、半分こしましょ。団子と磯辺焼き」 「そうですねー。この店、結構美味いですねえ」 賭けているものは決して軽いものではないはずなのだが、いたって呑気な雰囲気で勝負は 続けられる。 カカシはさて、とまた通りに眼を向けた。 「ええっと、次オレか。…男! …と、ありゃ、またハズした。カン悪いなオレ」 カカシがカリカリ、と額当てを掻いている前をスタスタとくノ一らしき女性が通り過ぎて 行く。 「五分五分ですからね、確率は」 ここまで三回ずつ当てっこをしてイルカが二勝一敗、カカシが一勝二敗。四回目はイルカ が外し、カカシが当てて同点になった。 そこへ注文した団子が来る。 「ハイ、お兄さん達お団子に磯辺焼きね」 「どーも。五回目の勝負の前に、先にモチ食っちゃいましょう。硬くなる」 「ですね」 磯辺焼きは一皿に二つ乗っていたので一つずつ取って食べる。モチを頬張りながらイルカ はチラリとカカシを見た。 今更だが、彼は本当にこんな遊びのような賭けで事を決めてしまっても後悔しないのだろ うか。 イルカはカカシが好きだと思うし、彼と一緒にこうして同じ皿からものを食べるのは楽し い。そして正直、白くて秀麗なカカシの顔を見ていると男として当然好きな相手を抱きた いと言う欲求が頭をもたげてしまう。 だがもしカカシが勝ち、イルカに女房役を望んだ場合は潔くそれを受け入れなければいけ ない。 (俺は…この人と別れたくない…一緒にいたいんだから…) 「…では、五回目いきましょうか」 「はい」 そして五回目、イルカは運に見放された。「男」と答えた直後に女の子がやって来たのだ。 「…さて、次で決まるか…延長戦か、ですね。……どうぞ、カカシさん」 カカシは黙って道の角を見据えた。ややあって、徐に「女」に賭ける。 二分後。 ふうっとイルカは息を吐いた。 二人の目の前を、華奢な白い足首がゆっくりと歩いて行く。 それを見送り、イルカは微笑んだ。 「……カカシさんの勝ちですね」 「あ……ハイ」 カカシは何となく戸惑ったように小首を傾げる。 「カカシさん?」 「…えーと、オレ、好きな方選んもいいですよ…ね?」 「もちろんです」 その為の勝負だ。 カカシもやっとにっこり微笑んだ。 「じゃあ、イルカせんせ。オレを嫁にして下さい」 |
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だってイルカカなんだもん、ウチ。(笑) |