るいとも 1
………ちょっとな、今月ヤバイ。 軽くヤバイどこじゃねえ。かなりヤバイ。 何がヤバイって、オレの懐だ。財布だ。 ナンかね、ちょー寂しくて軽いのよ。 これじゃ昼飯もろくに食えねーってくらい軽い。 実はね、ドジっちゃってね、バイクで派手にコケちまって。 ま、オレのケガは大した事無かったんだけど………バイクは修理さ。(涙) オレの足なんざ時間が経てば治るけど、バイクは修理しなきゃ直らないからなー。 それに大した事ないケガって言っても足を捻っちまってる上、どうやら骨にヒビが入って いるらしく、結構痛い………ので、しばらくバイトは出来ないし、修理代は高いしでまさ に踏んだり蹴ったり。 (ちなみにイルカにケツ叩かれて、やっぱり病院には行かされた) 救いは、誰かにケガをさせたとか、車を壊したとかで、他に迷惑を掛けなかったことだ。 ………でも、ヤバイ。 どうしてかってーと、今月はイルカの誕生日だからだよ! オレ、まだ何も用意してねえのに。こんなお寒い財布でどーしよーってんだ。 昼飯よりもそっちの方が深刻だっつーの。 アイツはさ、たとえプレゼントが土手で摘んできた野草でも笑って受け取ってくれるだろ うけどさ。 それじゃオレの気持ちが! アイツを軽んじているみたいでイヤなんだよ! いや、草花を摘んで贈る行為を否定してるんじゃねえぞ? 小さな子供とかがやるなら微 笑ましいし、大人だって本当に野草摘むしか気持ちの表しようが無い時なら、それはそれ で美しい行為かもしれない。 だけど、そういうのとは違うんだ。 見栄を張るのとも違う。 『高い贈り物さえすればいいってものじゃない』っていうセリフが当てはまるのは、裕福 で買おうと思えば幾らでも物が買えて、それが全く懐に響かないヤツにだけではなかろう か。 大多数の庶民は、誰かに何か贈り物をする場合、それにかける金額ってのは『気持ち』に 比例すると思っていい。もちろん、個々に経済状態には差があるから、同じ一万円の贈り 物が、人によっては精一杯のものだったり、相手を軽く見た結果だったりするだろうが。 要は、自分の限られた手持ちから、他人の為にどれだけ出せるか。 これって、やっぱり気持ちの問題だとオレは思っちゃうんだ。 その論法でいくと、今手持ちの無いオレは無いなりのコトをすればいいのかもしれんが、 相手はただのお友達じゃないんだぜ? オレの、大事な恋人なんだからっ!! マジ恋の相手の誕生日プレゼントに、それなりの気合を入れたいのは当然だろう? ああ、歩き回らなくても出来るバイトねえかな。短期でカネになるの。 オレは松葉杖(前にイルカが使ってたヤツ)で身体を支えつつ、キャンパス内にある掲示 板を眺めていた。掲示板には、色々なバイト募集も貼られているからだ。 ん〜と、もう家庭教師はコリゴリだからパス。 あ、これなんか良くねえ? 地味だけど座ってられそう。 「………バイト探しているの?」 「…………うん、まあ………」 背後から掛けられた男の声に、オレはナマ返事で応える。 こういう風に話しかけてくる輩は初めてではない。 大抵、ロクでもねーアヤシイバイトのお誘い。 「でも、キミ怪我しているじゃない。………ここで募集しているバイトは無理なんじゃな いかな」 ―――ソレは言われんでもわかっている。大方、無理だ。でもっ! 「んなコトない。………道端で通行人の数をカウントするだけのバイトなら、座ったまま 出来る」 「でもそれ、募集期限過ぎてるよ?」 …………あ、ホントだ。………剥がすの忘れてやがんだな。怠慢な。 むっつりと黙り込んで掲示板を睨みつけているオレに、背後の野郎は苦笑を抑えているよ うな声を投げかけてきた。 「………あのさ、キミ、ウチでバイトしない?」 ホラな、きた。 「悪いけどオレ、こー見えてカタイ方だから。…怪しげなバイトはパス………」 そう言いながら、オレは背後を振り返って―――声を呑み込んだ。 ………ビックリした。 何と言うか………男のオレでもドキッとするようなイイ男だ。 淡い金髪、空色の瞳。年はよくわからないけど、たぶんまだ若い。 「やだなあ、怪しくは無いよー。ここの学生さんでしょ? キミ。学生さんにヤバイお仕 事なんかお願いしたら、こっちの首が飛んじゃうし」 男は懐からカードケースを出して、名刺を一枚抜き取り、オレに差し出してきた。 「僕はこういう者です。…ね? 怪しくないでしょ?」 反射的に名刺を受け取ってしまったオレは、そこに印刷されていた肩書きにまた驚く。 はう? プロフェッサー?? 「………ウチのガッコの教授………デスか?」 オール英語(しかも筆記体。読みにくッ…)の名刺には、確かにそう記されていた。 ええと、………M・W・ファイアライト……? ……やっぱ外人か。でも すげえ流暢な日本語だよな。もしかしたらオレみたいに日本育ちか? スーツなのでかろうじて『教える側』に見えなくもないが、ラフな格好でその辺ウロつい てたら学生にしか見えねーだろ、なファイアライト教授はにっこりと微笑む。 「うん、来月から。…今日はね、ちょっと下見。ホラ、最近教授が一人辞めてるでしょう。 あれのね、穴埋めって感じ?」 ああ、そーいや………痴漢だかなんだかで、免職になったバカがいたっけな。 「………そーですか。その教授が何でバイト斡旋なんてしてらっしゃるんです?」 「いや、斡旋ってんじゃなくて………単に、ちょっと手伝いが欲しいだけ。個人的に」 はあ…個人的に? 「実はようやく住まいが見つかったところでね。部屋がまだ全然落ちつかなくて。でも書 斎くらい先に何とかしたくて、人手募集中なの。こっちとしても真面目な子に来て欲しい から。それでキミに声を掛けてみました」 オレは首を捻った。 今までパッと見で、『真面目そう』だと言われたことなんか一度も無い。それはイルカの専 売特許だ。あいつ見て真面目そうってんならわかるけど、何でオレ? そんなオレの心を読んだかのように、教授はまたもやニッコリ。 「………松葉杖ついてまで学校に来ていて、アルバイト探すのに学校の掲示板見ている子 は真面目なんじゃないかなー、と思ったんだけど。そしたらキミ、カタイ方だって自分で 言うじゃない。いやー、ナイス僕の勘。………キミ、学部は?」 ホントに教授なのかこの男…と思いつつ、オレはポケットから学生証を出した。 「法学部法律学科、2年。はたけカカシです」 「はたけカカシ君、か。ちょっとサングラス外してもらえる?」 「…別にいッスけど………」 この季節、強くなってきている紫外線は眼に厳しいんで、オレは大抵サングラスをかけっ ぱなしだ。ファッションじゃなくて、必需品。 サングラスを外したオレの顔見て、教授は素直に驚いた顔をした。…こんなデカイ傷跡が あるとは思わなかったんだろうな。この正直者。 だが、彼が発した言葉はコレだった。 「おー、美人さんだねーっ!」 ―――コケそうになった。 自分よりも美形な男に美人って言われても…………いや、そういう問題じゃねえ。 「目立つ雰囲気のコだなーって、最初に見た時も思ったんだけど。モデルにスカウトされ たりしない? キミ、背が高くてスタイルもいいし」 「スカウト…されたコトはありますけど。オレ、興味無いんで…そういうの。お金にはな るかもしれないけど、何か………そういうのでお金貰うのって抵抗あるんですよ、オレ」 オレはさっさとサングラスで眼を覆った。 教授はニッコリと微笑む。 「…感心だね。最近の若い子は、楽して儲けたいとか、目立ってチヤホヤされたいっての が多いのに」 「………………」 ―――ひょっとして、これは『面接』なのかもしれない、とオレは気づいた。 この人は、オレを判定しているんだ。自宅に入れて仕事をさせても大丈夫な人間かどうか。 自分から誘っておいて失礼な話だが、最近の物騒さを考えれば当然だな。 たまたま出会った人間を簡単に自宅に入れるようでは、常識が疑われる。 「………怪我をした理由はお訊きにならないんですか?」 「それって、足の方? ………それとも顔の方?」 「…それは、どちらが気になったかによるんじゃないですか?」 教授の笑みが微妙に変化した。面白いものを見つけた子供の顔だ。 「そうだね。…どちらも、キミという個人を知る材料にはなるね。…そう訊いたって事は、 双方どちらの怪我を負った原因も、他人には話せない事情なんかは無いんだろう?」 「………他人に自慢出来るような話ではないけど、隠すような事でもないです。…どっち もドジを踏んだことに変わりは無いですけどね」 ふむ、と教授は頷いた。 「じゃあ、取りあえず足の方を訊いておくかな。怪我の程度も知っておかないと」 まあな。…普通はそうだな。 「えーと、これは交通事故です。バイクに乗ってて転びました。………飛び出してきた猫、 避けようとして………バランス崩して」 「―――………猫は………どうなった?」 何でそんな、恐る恐る訊くんだ? 「あ、たぶん無事に逃げました」 良かったねー、と教授は我が事のように胸を撫で下ろした。 「猫を轢き殺すと、七代祟るんだよ! 良かったねー、キミ」 ………祟りかよ。言うこともヤケに日本人クサイ外人だな。 「………で、怪我の具合は?」 「打撲に捻挫、足の骨にヒビ。………大した事は無いです。…ちょっと今、杖がないと移 動しにくいくらいで。…でも、これじゃ今のバイト先では仕事にならないんで………」 「そっか。…災難だったねえ………。で、本題だけど。バイト、する気ある?」 「でもオレ、お役に立ちますか? あまり動けないんですよ?」 「ん! それは大丈夫〜。肉体労働じゃないから。だったら最初から松葉杖ついている子 に声はかけないって」 ………それもそうか。じゃ、こっちは雇われる側として確認するべき事を訊こう。 「ちなみに、給金はどれくらいですか? それと、一日の拘束時間は? 何時から何時で す?」 「あ、ごめん。そうだよね、条件聞かなきゃ、やるもやらないも無いよねえ。バイトって、 普通は時給かな。…相場はよくわからないんだけど、一時間2000円くらいでいいか な?」 マジですか。それは今のバイト先よりもいい時給だ。…っていうか、バイトの中味によっ ては、貰い過ぎになるだろう。もしそうだったら、やっぱ言うべきかな。 「時間はねえ………キミの都合でいいよ。授業が終わってからとか、休みの日とか。もち ろん交通費も出すよ」 「あ、どちらなんですか? その、御宅は」 あまり遠いと行けねーぞ。 「んーとね、ここ」 教授は手帳を出して、付箋がついているページを開いて見せた。 それを見たオレは、「う」と思わず唸った。 「………交通費、ゼロ………」 「あ、キミんちと近かった?」 「ええ、とっても………」 見慣れた文字の列。 そこに書かれていたのは、オレんちと同じ住所だったのだ。最後の、部屋を示す番号が違 うだけの。 |
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一応、イルカさんのBDにちなんだSS。(………なのにイルカがいない………) とうとう大学生Verに四代目様登場っすv
以前、小ネタのネタ募集をやった時に頂いたお題のひとつ、『大学生イルカカで、カカシがチャクラ切れ(体力無いってことで)みたいな感じでバテてるところをうっかりナンパされてイルカが慌てる(ま、最後は無事なんだけどヒヤヒヤしちゃう〜)みたいなお話が読みたいです。』 ところでカカシくんがまだ2年生なのは、留年じゃないです。サザエさん現象です。(^^;) ++++++++++++
原作に四代目様のお名前が登場しましたので、微妙に教授のお名前も変更。^^; |