孔雀草の花言葉−1

(注:カカシさんが バリバリのくノ一『Nightmare』設定/過去話です)

 

ランクBの楽勝任務を終えた後。
自来也先生に、「来い来い」と手招きされた。
我ながら、まるで飼い主に呼ばれた犬のようだと思いながらも、「ハイッ」と元気良く返事して先生の元まで走る。
だってオレは先生を尊敬しているし、大好きだから。
呼ばれたら喜んでシッポ振っちゃうんですよ、ちくしょー。
「何ですか? 先生」
「悪いがな、ミナト。使いを頼まれてくれんか? ワシはこれからちょいと約束があるんでな」
「はい」
先生は、ゴソゴソとカバンから小さな包みを取り出した。
「………はたけ上忍の家を知っておるか?」
―――うっ………ま、まさか………
手足の指先が、すうっと冷たくなるような感覚。…嫌な汗まで出てきそう。
「………………先生。………まさかですけど。まさか、ソレをはたけ上忍に届けろとか言うんじゃないでしょうね………?」
先生は明後日の方を向いてガリガリと頭をかく。
「うんまあ………その、まさかだのぅ」
「はたけ上忍って………白い牙とか言われている………?」
「ああ。その、白い牙だな」
「えぅ………っ………」

いやああああぁあぁッ………!!!

その人、その人、敵も味方も容赦なく殲滅するバーサーカーって言われているヒトでしょおおぉぉぉっ!! 血を見るのが三度のメシより好きな鬼だとかアクマだとか噂されている!! ………怖いです、いくらオレでもっ!!
一気に蒼褪めたオレを見て、先生はため息をつく。
「…お前が今、何と思ったのか大体想像はつくが。………あのな、別に取って食われやせんわ。ちゃんと言葉も通じるし、一応の常識も持っておる。そういう相手に対して、何を怖がる必要があるんじゃ」
先生に『コイツは臆病者だ』と思われるのもイヤだから。
ものすごぉく気は進まなかったけど、結局オレは「ハイ」としか言えなかった。


 

先生から託された小さな包みを胸に抱き、教えられた住所へ急ぐ。
そうだ。
こんなお使い、ササッと行ってササッと帰ってくればいいのだ。
里の住宅密集地からは少し外れた場所に、その家はあった。
へえ、一軒家だ。しかも、庭なんかもあって、結構大きい。…やっぱ上忍って稼ぎがいいんだろうな。
オレは、少しドキドキしながら玄関に近づいた。
その時だ。
「だーれ? ウチに用?」
いきなり声を掛けられ、オレは内心飛び上がった。
だって、気配無かった! 全然わかんなかった!
そろ〜っと振り返ると、木ノ葉の標準装備である草色の胴衣が目に入った。そのまま、そろ〜っと視線を上げる。
買い物袋を抱えた、背の高い人がオレを見下ろしていた。
その顔を見て、思わずポカンと口を開けてしまいそうになる。
………うわ〜〜〜、いい男。
オレもよく顔立ちを褒められたりするけど。………この人はまた、すっごい美形だな。
それに、髪の色も木ノ葉では珍しい白銀。
…あ…そうだ、いけない。ちゃんと挨拶をしなきゃ。自来也先生に恥をかかせてしまう。
さっと一歩引いて、お辞儀をする。
「はじめまして! オ…私は、波風ミナトといいます。自来也先生の使いで参りました」
彼は、「おや」というように口元を綻ばせた。
「ああ、自来也の弟子? そっか。…オレははたけサクモです。よろしく、ミナトくん」
………えっと………まさかだけど、この人が『白い牙』? ………ウソ。
噂と全然違うじゃないか。…優しそうだし。
「………つかぬ事をお伺いしますが」
「はい?」
「………この御宅に、貴方以外のはたけ上忍はいらっしゃいますか?」
彼は、一拍置いて軽くプッと笑った。
「…いらっしゃいませんよ。この家に、はたけ上忍はオレだけ」
「………では、貴方が………白い牙?」
「そう呼ぶ人もいるね」
彼はおかしそうに笑っている。
「まあ、上がれば? お茶くらい出すよ」
「いえ、そんなお構いなく。………これをお渡しするように、ことづかって来ただけですから」
オレは自来也先生に頼まれた、小さな包みを彼に見せた。
途端、彼が「あっ」と声をあげる。
「それ、自来也が? うわあ、なくしたと思っていたよ。良かった」
彼はニコニコとオレの肩に手を掛ける。
「やっぱり、お茶飲んでって。わざわざ届けてくれた御礼」
―――そう白い牙に言われて、逆らえる人間が木ノ葉にいるだろうか。
オレはぎこちなく頷いて、「お邪魔します」と蚊の鳴くような声で応えたのだった。


ほわん、と甘いいい香りのするお茶が目の前に置かれている。
オレは緊張して畏まりながら正座していた。
………………何でこんなコトに。
先生からの預かり物をお渡しして、ソッコー回れ右する予定だったのに。
ナニ『木ノ葉の白い牙』にお茶なんか淹れてもらってるの、オレ。
………でも、彼が想像していたような怖いヒトじゃないとわかって、少しホッとした。
あんまりにもスゴイ噂しか聞かないから、取り付く島も無いような、無愛想でおっかない危険人物を思い描いてたんだよね。
彼は、包みを手にニコニコしているけど、それを開けようとはしない。
「いやあ、ホントに良かったよー。てっきりどこかに落としちゃったと思ってね。ガッカリしていたんだ。…あれかな、任務の後で行った小料理屋かな? あそこで自来也と顔合わせているし。あそこで忘れたのかな」
「いえ。オレは詳しいことは………ただ、お届けしろ、と言われて来ましたので」
「そう。あ、遠慮しないで飲んでね」
「はい、頂きます」
緊張して(だって、何か高そうな湯呑なんだもの!)お茶を手に取る。
そっと口をつけると、香り通りにほんのり甘くて優しい味のお茶が口中に広がった。
「おいし………」
思わずそう呟くと、彼は嬉しそうな顔をした。
「嬉しいね、お茶の味がわかる子で。そういう感覚は大事だよ。忍にとってもね」
―――噂って、いい加減。
本当に全然違うじゃないか。何処が血を見るのが好きなバーサーカー?
彼は、目下の人間にもきちんと接してくれる、いい人だ。お茶を淹れるのも上手だし。
そこに、廊下から小さな軽い足音がパタパタと聞こえてきた。
障子の陰からパッと飛び出してきたのは、ちいさな女の子。
「おとぅしゃま!」
「やあ、カカシ。おっきしたんだね」
彼は、そのちいさな女の子を愛しげに抱きしめた。
「…娘の、カカシだよ。この子がお昼寝していたから、その間に買い物に行ってたんだ。…カカシ、お客様だよ。ミナトお兄ちゃんだ。ご挨拶は?」
―――娘。
え………子供、いたの…この人。
そうは見えないけど、妻帯者だったんだ。へえ。
ちいさなカカシちゃんは、恥ずかしそうに父親に身を寄せながら、おずおずとこちらを振り返った。
「………こんにちは、みなとおにぃちゃま」

ずっぎゅーん。

………胸を射抜かれたかと思った。(マジに痛かった)
なにコレ、なにコレ!
可愛い、可愛い、可愛い、可愛い、可愛い〜〜〜〜〜〜〜!!!!!
なんておメメ!
オレ、オレ、こんな可愛い子初めて見た!!!
ふわふわの白銀の髪、柔らかそうな白い肌、瑠璃珠みたいな瞳。目鼻パーツの配置も絶妙!
うわー、造形の神様グッジョブ。
お父さんのはたけ上忍が、超のつく美形なんだから、この子の将来も推して知るべし。
とびっきりの美女になること、間違いなし!
うわうわ、心臓がドキドキし始めた!
「こ、こんにちは。カカシ…ちゃん。はじめまして」
なんとか、落ち着いた声を出そうと思ったけどちょっと震えてしまったかな。
それを取り繕うように、彼女の制作者に正直な感想を述べる。
「………とっても可愛いお嬢さんですね。はたけ上忍」
途端、木ノ葉の白い牙は笑み崩れた。
「そーだろうっ! 可愛いだろう! 世界一可愛いんだ、ウチのカカシは!」
こういうのを『親馬鹿』と世間では言うのかもしれない。―――本来なら。
でも、『親馬鹿』の一言で切り捨てられないな………この場合は。
だって本当に、天使みたいに可愛いんだもの。
カカシちゃんはますます恥ずかしそうに、白いほっぺをピンク色に染めている。
………ヤバイ。
ヤバイよ、自来也先生。
オレ、ロリコン趣味はないけど。―――この幼女に惚れそうです。
「…ミナトくん」
どきん、としながら父親の方に視線を移す。…こっちもこっちで眼福なご面相だけど。
「はい」
「キミ、この後用事ある? 忙しい?」
「いいえ。特には………」
「じゃあ悪いけど、オレが夕飯の支度している間、この子を見ていてもらえないかな?」
はい、お父様! 喜んで! って………あれ?
「………はい。それは構いませんが。………あの、貴方が食事の支度…を?」
彼は苦笑して肩を軽く竦めた。
「ウチ、奥さんいないもんでね。男ヤモメなんだよ、オレ」
「…すみま…せん。立ち入ったことを………」
「いや、いいんだよ。別に隠すようなことじゃないし。…この子にはちょっと、寂しい思いをさせているけど。…ね、カカシ。カカシにはお母さんはいないけど、お父さんがいるものね」
ウン、とカカシちゃんはコックリする。
「かかし、おとうしゃまだいすき」
カカシちゃんは、オレを見上げてにこーっと笑う。
「あのね、おにぃちゃま。…かかしのおかぁしゃまはねぇ、おそらにいるの。おそらでかかしをみているの」
―――イカンッ……涙腺がっ………さっきとは別の意味でヤバイ…ッ
こういうの弱いんだ、オレ。(動物映画とかいつも泣く)
「そうだね。お母さんはいつでもカカシを見ているのだから、いい子にしてなきゃいけないよ。……じゃあ、お父さんがゴハンの支度をしている間、このお兄ちゃんにご本でも読んでもらいなさい。…ミナトくん、よろしく」
「はいっ」
「はぁい、おとぅしゃま」
こんな可愛い女の子のお父さんが、鬼アクマのわけないじゃないか。
イヤだなあ、噂って適当で。
カカシちゃんが「これ」と選んだ本は、可愛い絵本じゃなくて………忍法書だった。
カエルの子はカエル。
―――じゃなくって!
台所に向かって叫ぶ。
「はたけ上忍!」
「サクモでいいよ。堅苦しい」
「…サクモさんっ! もっと子供向けの本は無いんですかっ!」
だって、カカシちゃんはどう見たって2〜3歳。
こんな難しい本を読んで聞かせられて面白いか? いや、その前に理解出来るのか?
「………子供向けの本? そんなもの、あるのかい?」
あります。絵本とか、童話とか。
「………わかりました。この家には、無いんですね」
わかった。
この人もきっと、『情操教育お構いナシの英才教育組』だな。
忍といえど、あまりに非道なシステムの所為で各所から非難が出たという話で、今はやってないんだけど。
聞いた話では、相当ハードな育成システムだったらしい。
見込みのありそうな子供に、幼い頃からガンガン忍法や体術を詰め込んでいって、ついて来られた子供以外は切り捨てる。つまり、篩いにかけるんだな。
そうして残った子は早くから実戦に投入し、そこでまた淘汰されて生き残った子に、更にエリート教育を施す。以後、ソレの繰り返し。
―――つまり、その淘汰の末、生き残ったこの人は相当優秀な『忍』なのだ。
この生き残り組は当然の事ながら優秀揃いで、それこそ常軌を逸するほど強い人達が多い(自来也先生もそのひとり)のだけど、あんまりな子供時代を送った所為で常人とは感覚にズレがある人が多いのも事実だ。
その実例を目の当たりにした気がした。
「みなとおにぃちゃま?」
カカシちゃんは、澄んだ眼でオレを見上げている。
「あ、ごめんね、カカシちゃん。このご本でいいの?」
「うん。…あのねえ、かかしはちゃくらぞくせいのおはなしがすき。おもしろいの」
チャクラ属性か。…なるほど、それなら子供にもわかる事………なのかな?
彼女の髪から、子供らしい甘い匂いがして少しソワソワしてしまう。こんなに小さい子を膝に抱いて本を読むなんて、初めてだ。
何だか、いいな。…こういうの。
オレと本の間に座ったカカシちゃんは、大人しくオレの読む声を聞いている。
「…わかる? もっとゆっくり読もうか」
ううん、とカカシちゃんは首を振った。
「みなとおにぃちゃま、ごほんよむのおじょうず。…おとうしゃまは、よむのがはやいの」
台所の方で、サクモさんが笑った。…耳、いいな。さすがに。
 



 

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『Nightmare =ナイトメア =』設定。
四代目のプロポーズ大作戦ネタです。

原作に倣ってミナトくんの一人称を『オレ』にしたところ、性格が変わりました。
ついでに、サクモさんの一人称も『オレ』にしてみたところ、これも面白いように性格が………(笑)
やはり、性格付けに一人称って大事ですね。
カカシが父親になったら、たぶんこんな感じ。
ここのサクモさんは、ちゃんとゴハンが作れる模様です。

(09/04/13)