− HAZAMA −4

 

「貴様! 何処の手の者だ! 吐け!」
取り押さえた他国の忍者を締め上げ、アスマは叫んだ。
「……ムダだ、アスマ。…そいつからは何も出てきやしない。もう、舌を噛んでいる」
「ちっ……」
いまいましげにアスマは死体を地面に叩きつけた。
「こいつが術者か?」
カカシはチャクラの残存軌跡を追うように左目を見開いて死体を凝視した。
「……の、一人だな。あの大掛かりな呪術はこいつ一人の仕業じゃない。…だが、こいつが死んだ事であの術が消滅しているとは思えないね。むしろ…悪化したかもしれん」
「おい、それじゃ…」
カカシは頷いた。
「ここを頼む。オレは城に行く」
木ノ葉の国の中核にある城。
その中で政を司る大名も大事な存在だったが、城自体が国にとっての要だった。
国を安泰に治める為に地脈を読み、計算され尽くした末に建立された城。
それを邪まな力で砕かれるわけにはいかない。
下手をすれば木の葉の存亡にかかわる。
他国の忍者によって仕掛けられた大掛かりな術は、城を破壊するのに十分な威力を持っていた。
それを阻止するのが木の葉隠れの忍者―――この国の防衛武力集団である彼らの役目だった。

城で城主の警護を担当している中忍に、下忍が慌てて報告に走ってきた。
「隊長、まずいです。…奴等の呪術、コントロールを失ったようです。威力だけを保ったまま、暴走を始めた模様」
「…術者の抹殺に失敗したのか? …いや、そうではないな。射手が死んでも、放たれた矢が消える事はない…そういう事だな。……だが、操り手がいなくなった今、あの竜巻…我らで何とかせねばなるまいな」
隊長、と呼ばれた中忍は苦々しげに宙を仰いだ。
そこへ、別の中忍がすっと姿を現す。
「ヤツデ」
「…イルカか。お前まで駆り出されていたのか」
「緊急事態だからな。…それより、城の床下で呪符を見つけた。…おそらく、術はこれに向かうように施されているはずだ。一見コントロールを失ったように見えても、あれは確実に城を襲う。捜してくれ。これ一枚という事はないはずだ」
ヤツデは即座に事態を理解し、イルカの言を受け入れた。
「俺はここを動けん。カササギ、イルカの指示に従え。他の奴らにも申し伝えろ。この呪符を捜すのだ」
「はっ」
ヤツデの部下はイルカを仰ぎ見た。
「ご指示を」
「この呪符から感じる念の異質さ、わかるな? この手の術ならばあと六枚はこの城の何処かにある。見つけたら呼子を鳴らせ。破れぬように剥がし、全部俺の所へ持って来てくれ。…いいな、くれぐれも符を破損せぬように」
下忍は頷き、速やかに行動を開始した。
「イルカ……どうする気だ?」
「まだ、間に合う。…あの竜巻が都を襲う前に…人家のない方へ誘導する」
「上忍の部隊も動いているだろう。意見を仰がなくてもいいのか?」
イルカはふっと微笑んだ。
「俺達の任務は、都と城を守る事。……それを完遂するのに一番確実な方法となれば…たぶん、同じ道を示すはずだ…あの人なら……」



どきん、どきんと自分の心臓が脈打つのが感じられる。
伝い落ちる汗の感覚が不快だった。
せめてイルカの匂いのするベッドで寝れば、あの不安な夢は見ないで済むかもしれない。
そう思ったカカシの淡い希望は脆くも崩れ去った。
真っ暗な天井を凝視して、カカシはふう、と息をついた。
「…オレ、テレビの見過ぎだって…。何? 忍者? …忍者にしては格好が変だったよなー……」
水でも飲もう。
カカシはのろのろとキッチンへ向かった。
夕べは、イルカが抱いてくれた所為もあって、夢も見ずに眠れた。
「イルカの婆ちゃん…イルカ、オレに返してよ…早く、元気になってよ…」
急にカカシは自分が情けなくなってコップを流しに叩きつけた。
ガチャン、と嫌な音がしてガラスが飛び散る。
欠片が一つ飛んできて、カカシの頬を傷つけた。
「…イルカ、怒るかな…怒るな。物、粗末にすると怒るんだよな…あはは、変なところで主婦みたいなんだよなー…あいつ」
イルカがここにいたら。
癇癪でコップを割った事を怒り、カカシが怪我をした事でまた怒り、そしてぶつぶつ文句を言いながら怪我の手当てをしてくれるだろう。
小学生の頃、木から落ちたカカシを助けようとして巻き込まれ、イルカは顔に大きな傷を負った。イルカ自身が顔を血だらけにしていたのに、彼はカカシの怪我の方を心配して、大騒ぎしていた。
実際、眼の上をざっくり切ってしまったカカシの方が重傷だったのだが(――その時の影響で、カカシの左目は今でも弱視のままだ――)その騒ぎ方がおかしくて笑ってしまったら、イルカに怒られた。
その時の傷痕は、お互いしっかり顔に残ってしまった。
「……あれからあいつ、オレが怪我すると怒るんだよなー……」
ふふ、と思い出し笑いをしてカカシは砕けたガラスを拾い始めた。「…あの時はイルカの婆ちゃんも怒ったっけ…怒って、泣いて……イルカの頭、ぶっ叩いてたなー…何でもっとちゃんとカカシちゃん助けられねえのか、おめえは! …って。無理言う婆ちゃんだよな。大事な孫を巻き込んで怪我さしたん、オレなのに…」
ぽと、と涙が流し台に落ちた。
「…イルカ……オレ、お前に迷惑ばっか、かけてんなー……」
夢の続きを見たくなくて、カカシはベッドに戻らずリビングの椅子に腰
をおろした。
眠りたくない。
だが、そう思えば思うほどカカシの瞼は重たくなっていく。
抵抗虚しく、ついに彼は夢の世界に戻ってしまった。





「それで、その呪符を集めた中忍、どこへ行った?」
カカシが城に着いた時、城に貼られていた呪符は既に集められ、指示を下したイルカによって城外に持ち出されていた。
「は。…人里から引き離すように竜巻を誘導すると…方角は定かではございません。しかるのち、解呪を試みると…」
ヤツデは城に駆けつけたカカシに状況を説明した。
「その中忍、解呪の心得があるのか」
「アカデミーで教鞭をとっている者です。術の知識は並の中忍よりあるかと思われます」
カカシの目許が微かにひくりと痙攣した。
「…教師…か」
「はい。イルカと申す者です」
カカシはぎゅっと拳を握り込んだ。
「ヤツデと言ったな。…あんたは引き続きここの警護を。まだ気を抜くな。多少は片付けたが…敵が全員退いたという確証はない。里に結界を張っている連中にもまだその場を動かないように各所に伝令を送れ。それと、信頼できる者を選んで事の次第を火影様に報告。…オレはその…イルカの後を追う」

――― なんて無茶を!

カカシは奥歯をぎり、と噛み締めた。
いくら知識があっても、あの膨れ上がった術を解呪するには相当のチャクラを要する。
下手をすれば、命と引き換えになるだろう。
イルカはそれを百も承知の上、一人で行った。
犠牲が己一人で済むように。

カカシはいったん高みに上がって、竜巻の気配を追った。
「…北東……海岸の方へ誘導する気か…?」
カカシは呼吸を整え、地を蹴った。
山を越えて、イルカに追いつく為に。

 



 

ああ、やっと1話目に繋がった・・・^^;

本物のイルカの傷の由来を勝手に書くワケにはいきませんが、パラレルの方ならいいでしょうって事で。

話の都合上、勝手に命名した中忍とか出て来ていますが、オリキャラというほどのモノでもないです。
忍者バージョンの方も、半分パラレルみたいなものですね・・・
最初は九尾みたいな妖怪相手にしようかと思ったんですが、他国の忍による術による危機にしてみました。

 

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