cross-over 5

 

「火影様も興味津々ってお顔だったけど。今回の件、内々にしておいた方がいいというご
判断をなさったわ。…カカシ達に任せるとの事よ。ここに隠れ家…いえ別荘かしら? を
造った事は大目に見てくださるって。良かったわねえ、カカシ。その代わり、お客様の面
倒をしっかり見る事、ですって。それから、事の詳細は後で報告する事。わかった?」
はい、とカカシは頷いた。
「火影様公認…と言うか、見て見ぬ振りをして下さるって事ね。よぉくわかりました。で
も、やっぱ報告しといて良かったね。何か後ろめたいモンなあ、コソコソ隠れるのは」
紅はちらっとカカシに視線を走らせ、ため息をついた。
「はー……やっぱ、こっちのかかしちゃんを見た後だとアンタも結構ゴツイわよね。…割
と優男系だと思ってたけど…普段は比較対象がアスマやイルカ先生だからかしらねぇ」
「ゴツくて悪かったね。…あのさ、紅。オマエ、そういう趣味あったわけ? さっきから
彼女にくっついて」
紅はソファの上でかかしにぴったりと寄り添うように座っていた。
「バカ言ってると殴るわよ、カカシ。…ったく、何で男ってのは即そういう思考になるの
かしらね。ねえ、かかしちゃん」
「あ…あのさ、結局……今回のこれ…関係者って言うか…知ってるのは誰と誰?」
紅にくっつかれているかかしは、どことなく落ち着かない様子で彼女に訊いた。
「まず、イルカ先生にカカシにアスマ。…ここら辺は最初から関わっているわよね。火影
様に、私。……それからねえ…」
「まだいるの?」
「それがね、実は……」
紅が言い終わらないうちに、玄関から賑やかな声が聞こえてきた。
「すっげーな! こんな山奥に別荘持ってんのかー! カカシ先生ってばよ!」
「…ナルト?」
カカシはすぐさま腰を浮かし、玄関に向かう。
玄関には、それぞれ大荷物を背負った七班のメンバーが疲れた顔で立っていた。
「何だあ? お前ら…」
「おー! カカシ先生! 七班任務遂行中だってばよ!」
お調子者のナルトが一人元気にびしっと指を立てて笑った。
「……任務だと?」
カカシは視線でサクラに説明を求める。サクラはよいしょ、と背負っていた荷物を降ろし、
腰嚢から何やら紙片を取り出してカカシに渡した。
「…火影様からよ、先生。七班は特別任務ですって」
カカシは紙片に目を走らせ、こめかみを指先で押さえた。
「………カカシ隊第七班特別任務、ね。ああもうご親切に……」
「だって、こんな不便な所じゃない。やっぱり、お使いをしたりとか、お手伝いをしたり
とか、手は必要なんじゃない? それに、期間がわからないんでしょう? その間私達、
何をしてたらいいのよ。自主訓練ばかりじゃダレちゃうし…」
サクラは言葉を切って眼を見開いた。ナルトやサスケも同様である。
「…………うわあ、本当にかかし先生といるか先生がもう一人いる……」
カカシに続いて、いるかとかかし、紅が玄関に出て来たのだ。
「ナルト…サクラ……サスケ…」
いるかが口の中で子供達の名前を呼んだ。彼には、寸分の違いもなく自分の教え子達に見
える。
「あっいるか先生だっ! マジ双子みてえ! ソックリだってばよ!」
ナルトはいるかの方に関心を示して目を輝かせた。
「でもよ、ソックリでもアレだなっ…分身とかよ、変化とは違うんだなーっ! 何となく。
なあなあっ先生も先生なのか? オレの事わかる?」
いるかは苦笑を浮かべた。子供達の顔を順番に見る。
「…わかるよ、ナルト。…俺の知っているナルトは…賑やかで明るくて…ドジだけどくじ
けない。……サスケは実技が優秀。体術や忍術はもうアカデミーで教える事などなかった。
サクラは学年一頭がいい。記憶力と応用力に長けてて、真面目だ。…三人とも、俺の自慢
の生徒だったよ。……同じ、かな?」
子供達はそれぞれ照れたような、複雑な顔になったが、微かに頷く。
「……ヘンな感じ……別の世界にも、あたし達と同じ人間がいるなんて……」
サスケはボソッと口を開いた。
「アンタの世界のコイツもドベでウスラトンカチか?」
彼は顎でナルトを指す。
「何だとサスケーッ!」
顔中口にしてわめくナルトをやれやれといるかは眺めた。
「………仲が悪いのも同じか。…まあ、そう言えばサスケはよくナルトをそう呼んでたな」
サスケは納得げに頷いた。
「よし。…それならやっぱり同じようだな」
サクラはかかしから眼を離さない。興味深そうに彼女を見ていた。
「……カカシ先生の…妹さんみたい…よく似ているのに、違うのね……」
かかしは、ナルトの声を聞いた瞬間に口布を引き上げていた。カカシもいつもの習慣で口
布をしていたので、余計似て見える。
そのかかしは、「はあ」とため息をついた。
「……何でお前等まで全く同じなんだよ……一人くらい…例えばサスケが女の子とか! 
サクラが男の子とか! 性別違っててもいいじゃないよ〜…何でオレだけ違うのさ…」
サクラはかかしのセリフをリピートした。
「サスケ…君が女の子……かっ…可愛い…かも…」
どうやら脳内でサスケを性転換させたらしい。サスケは嫌そうに身震いした。
「やめろ…サクラ」
サクラはぺろっと舌を出した。
カカシは気を取り直して、改めて子供達を眺める。
「……ま、とにかく、来ちゃったモンは仕方ない。…物資の輸送、ご苦労さん。じゃあ、
お前等はちょいと一休みしたら仕事な。…まだこの家掃除が終わってないんだ。掃除はサ
クラ、お前がリーダーだ。家の中チェックして、手分けしてやってくれ」
サクラはハイ、といい返事をする。男の子達は掃除と聞いて渋い顔をした。
「そーいや、イルカ先生は? お前等だけでここまで来れたのか」
「そのイルカ先生に地図描いてもらったもの。方向も距離もバッチリで迷わなかったわよ。
イルカ先生は、少し遅くなるけど、来るって。たぶん夕食までには来るんじゃないかしら」
「……成る程。んじゃ、各自休憩してよろしい。14時半から掃除開始。わかったかー?」
カカシの指示に、子供達は口々に了解の返事をして外に出て行った。
紅は肩を竦めてかかしに笑いかける。
「……ってわけでね、かかしちゃん。関係者はプラス七班の子供達ってワケ。…事情を知
っているのはここまでよ。あの子達にも、アンタ達の事は迂闊に他に漏らさないようにキ
ツク言ってあるから」
カカシはナルト達が持ってきた荷物を確認し始めた。
「お、あいつら米持ってきてくれた。…そういや紅、お前んとこのガキ共は?」
「キバ達? もちろんアスマに任せてきたわよ。七班をこっちに巻き込んだのはそういう
事情もあんのよね。まさか、アスマに九人も面倒見させるわけにはいかないじゃない。あ
の個性派揃いの子達だもの。六人が限界ね」
わははー、とカカシは笑った。
「ま、お前の班との合同任務ならまだ平和だろうよ。ウチとじゃ、サスケをめぐるサクラ
といののいがみ合いが絶対あるからな。ヒナタは大人しい子だから、いのも仲良くやるだ
ろうし」
「あら、いのちゃんだって優しい子よ? オトコの事さえ絡まなけりゃ、サクラちゃんと
だってケンカなんかしないでしょうにねえ…サスケも罪な男だこと。ホーッホッホホ……
ったく、ガキのくせに色恋で三角関係だなんて十年早いわよね。ねえ、かかしちゃん」
かかしはカカシを手伝って梱包を解きにかかっていた。
「…そうだね。まだそんな事に気を取られている場合じゃないだろうけどねえ……仕方な
いんじゃない? 普通あの年頃なら…特に女の子は恋愛に興味あるんだろーし。…まあ、
気の毒な事に三角関係ったって、サスケにその気がないんじゃ女の子達だけでカラ回って
るだけなワケだし。…オトナの色恋と違って、ナマナマしい泥沼な修羅場にはならないで
しょ」
「……つまり、そっちの世界でもサクラVSいのの騒ぎはあるわけね…うるさいだろ」
カカシが苦笑すると、かかしは首を振った。
「いや、オレはひょんな事でサクラ達と面識はあるけど、あいつらの教官じゃないから。
ただ見物してるだけ」
紅は首を傾げる。
「ん? じゃあ、サクラちゃん達の教官って、誰?」
「……環ってヤツ。…こっちにもいる?」
カカシと紅は顔を見合わせた。
「……たまき? 知ってるか紅」
「ん〜? ……あ! 彼女じゃないかしら! いるわよ、そういう名前のアカデミーの忍
師。イルカ先生に聞けば知っていると思うわよ。ちょっと清楚っぽい美人さんよぉ」
かかしは「えっ」と紅に向き直った。
「彼女? もしかしなくても女?」
「環ちゃんでしょ? もちろん立派なくノ一よ。噂じゃ元暗部だってさ」
やったー! とかかしはバンザイした。
「聞きました? いるか先生! 環、こっちじゃ女だって! やっといたよ〜性別違うヤ
ツ! あー、オレだけじゃなかったよ。嬉しい〜」
「た…環先生が女性ですか……そりゃ、何というか…」
やはりそういう事もあるのだと知ったいるかは、瞬間性別が違うのが自分でなくて良かっ
たと思ってしまった。こちらの『自分』が女だったら、結構ショックだろう。
それを思うと、かかしとカカシの気持ちが改めてわかるような気がした。
(かかしさんが…あまり女オンナしてない所為もあるだろうけど…あのカカシさん、偉い
かも…彼女をすぐに受け入れたものな……)
「成る程ね。ま、何から何までソックリの世界じゃないってこったね。…それくらいの違
いは可愛いもんでしょ。たぶん捜せばまだいるんじゃねえ?」
かかしは恐る恐る尋ねる。
「こっちのガイ…男?」
「ん? もちろん」
そのカカシの言葉に、いるかとかかしは安堵の息を吐いた。
「よ、良かったですね…かかしさん…」
「うん。…安心した」
カカシと紅は首を傾げる。
「どうしたの?」
かかしはへらりと笑って答えた。
「ガイが男で良かったなーって。…だってさ、想像もしたくないもん。あんな濃ゆいのの
女版」
「うげっ…」
カカシと紅はノドに引っかかったようなうめき声を上げ、引き攣った微笑を浮かべる。
「そ…そりゃあ…スゲエや…」
「……ワタシは今、自分の想像力を呪ったわ……」
拳を震わせていた紅はやおら顔を上げると、かかしの肩をがっちりと捕まえた。
「よくもキショイものを想像させてくれたわね〜このコは〜……」
そして、カカシを振り返った。
「ねえ、もう温泉って入れるんでしょ? いいわよねえ、入っても」
コクコク、とカカシは頷いた。
「ハイ。…どうぞ…丁度淑女用に囲いも出来たとこです…脱衣所も作りました」
紅はにっこり微笑む。
「ですって。さ、行きましょう、かかしちゃん」
「あ? え? これから? オレも?」
ふふふ、と低く紅は笑った。
「……気色悪いもの想像させてくれたんだから、付き合いなさい!! 温泉でも入って、
さっぱりと気分転換よ!」
「…はい……」
その迫力ある微笑みに逆らえる人間は、その場にはいなかった―――



ぽつんと岩に腰掛けて休憩していたサクラも巻き込み、女性陣は温泉に到着した。
「女同士、一緒に入っちゃった方がいいわよ。後で独りでなんて、イヤでしょ?」
「そうですねー、紅先生。…掃除したら、また汗かいちゃうけど…」
サクラはそう言いながらも嬉しそうだ。
「露天風呂って初めてなんです、あたし。入ってみたかったんだー」
かかしは戸惑っているようだったが、紅がさっさと脱ぎ始めてしまったのでそれに倣う。
彼女も戦闘の後、風呂を使っていなかったので身体は洗いたかったのだ。
それでもどこか躊躇いがあり、かかしは紅達には背を向けて服を脱ぎ始めた。
胴衣を脱ぎ、アンダーを脱いだところで紅はかかしの晒しに気づいた。
「…かかしちゃん。アンタ、いつもそんなの巻いてるの?」
「あ、うん……一応ね。聞いていない? オレ、女だって事、周りには内緒なんだよ。い
るか先生とか、アスマとかさ、ごく一部の人しか知らないの。まあ、物心つく頃にはもう
男として育てられていたから…結構みんな、騙されてくれているよ」
ま、と紅は口を押さえた。
「…何か、しゃべりが男っぽいとは思ってたけど…そうだったの。まあ…大変でしょうに」
かかしは背を向けたまま、少し振り返って苦笑を浮かべた。
「まあね。もう慣れっこだけど」
晒しを取ったかかしは胸元を見て少し顔を顰めた。
「どうかした?」
「あ? いや、何でも無いよ。…先、入ってて」
「そう? じゃあ、お先。行くわよ、サクラちゃん」
紅はしつこく追求せず、先に行ってくれた。先に行け、と言うからには、何か理由がある
のだと察してくれたらしい。
かかしはふう、と息をついた。
(…チドリが飲んでくれないからな…少し、染み出ちゃった……)
汚れた部分を内側にして晒しをたたみ、ズボンと下着を脱いだかかしは手拭いで前を隠し
て風呂に向かった。
紅とサクラはもう中に入っている。
「気持ちいいわよ、早くいらっしゃいな。そこに手桶があるから、ざっと流すのに使った
らいいわ」
「ああ、ありがと」
湯煙で視界が少し曇っているのはありがたい。
かかしは湯を汲んで身体にかけ、ざっと洗う。
(はー、やっぱりお湯で洗うのはいいねー…気持ちいい。ゴメンね、いるか先生。先にお
風呂しちゃって)
かかしはそうっとお湯に身体を沈めた。
「うー…染みる……」
紅とサクラは心配そうな顔で振り向く。
「何? どこか怪我?」
「大丈夫ですかあ?」
「あ、大した事無い。大丈夫。大丈夫……ん? どうかした? サクラちゃん」
サクラは目を丸くしてかかしを見ていた。
「…わー、かかし…先生、綺麗〜! 美人ですねえっ」
「や、やだ…オレ、先生じゃないし〜…く、紅…サンの方がよっぽど綺麗じゃない。サク
ラちゃんも色白で可愛いし…オレなんか、傷だらけだよ?」
ううん、とサクラは首を振る。
「すっごく綺麗! わ〜、もしかして、かかし先生…じゃない、かかしさんに似ているな
らカカシ先生も結構顔いいのかなあ…私達、カカシ先生の顔、見たことないからァ…うわ
うわ、大発見だ〜!」
「ま……そうね。カオだけはいい男よ、アレは」
紅に肯定されて、サクラははしゃいだ。
「きゃー! やっぱり! こーなったら、いつか見てやるぞー! カカシ先生の素顔!」
「へえ? 彼、顔見せないんだ。どーしてかね? オレみたいに性別隠しているわけでも
ないのに」
かかしは何気なく髪をかき上げた。
その仕草を見ていたサクラが、目敏く彼女の薬指に気づく。
「あれっ…? かかしさん、もしかして…」
「ん?」
「結婚してます? それ、結婚指輪じゃない?」
かかしはハッとして左手を右手で隠し、湯の中に沈めた。
 
 



 

七班合流。
サクラを一緒に風呂に入れたかっただけですが。(笑)
オリキャラなので遠慮なく環を女にしちゃいました。
このお話には関係ない人だし、既存のキャラこれ以上
性転換させられないし。
やるなら、全員の男女逆転が面白そうですけど。
ガイの女バージョンか〜・・・想像出来ません、私・・・

 

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