ハロウィン・ラプソディ -1

 

夏を過ぎた頃から、街の中を歩いていると、黒とオレンジ色の飾りがチラホラと目に付くようになった。
………また、イルカの親父さんが機嫌悪くしそーなイベントの季節到来か。(笑)
クリスマスぅ? 花祭りもやらんと何やってんだー! とか言う親父さんだもんな。
ハロウィンだぁ? カボチャなんぞ飾ってる余裕があるなら、ちゃんとお盆にご先祖の墓参りをせんかいっ! …って、言いそう。
いや、ハロウィンなんてきっと眼中にねーだろうな、あの人は。
はろいん? 何だそれは。美味いのか? ってな感じだろう。
ま、十人十色。色んな考えの人がいて、それを許容されているのが日本のいいところだから、ソレはソレで良いんだと思う。
やりたくない人は、やらなきゃいいのだ。
ちなみにオレは、ハロウィンだってクリスマスだっていいじゃん、楽しくやろうぜ、というタイプである。
―――んでもって、今現在のオレのバイトの雇い主は、と言えば。
オレ以上のお祭大好き男だからして。
こんな楽しげなイベント、知らんフリするワケがない。
ハロウィンパーティやるよー、と随分前からオレ達は告知されてたっけ。
ちなみに、参加者は全員仮装すること。
まあ、これは当たり前…といえば当たり前かな? そういう祭だものな。
オレは、朝食のパンを齧りながら相棒に訊いた。
「イルカ〜、教授が言ってたハロウィンパーティ、仮装どーするー? ハンズで適当に何か買ってくっか?」
最近は、簡単コスプレ用のグッズ、売ってるものな。
イルカは仮装なんかあんまり興味ないかなーって思ってさ。ああいうのでお茶を濁しておくか? とオレは提案したつもりだったのだが。
イルカはフッと笑った。
「まず、何に仮装するかだろう。どうせなら、ちゃんとやるさ」
…お? 意外だね。そういうノリ? ノッちゃうわけね?
あ、いやイルカはこういう男だったな。『やるからには半端な真似はしない』っていう。
おかげさまで、ちょっとふざけて乗っかって、誘う素振りを見せたら最後、きっちり御仕舞までいたされてしまうのだ。オレのバカ。
―――ってのは、置いておいて。
よーし、んじゃ、オレもちゃんと考えよう。
先ずは相棒の仮装を考える。
イルカが抵抗無く扮装できて、教授にもウケそうなのは………あ、そうだ。
「なー、イルカさ、新撰組とかどう? 似合いそう」
ふむ、とイルカは頷く。
「そういうのでもいいのか? あまりハロウィンらしくはないが」
「いーんじゃねえ? そういうの、こだわらなくても。ここ日本だし。単なるイベントだろ? 仮装なら何でもアリじゃないかな」
「ふーん、そういうもんか。…そうだなー…じゃあ、いいかもな。刀ならあるし、着物も袴もある」
「ウチにあんのは木刀じゃねえの?」
イルカは意味深な笑みを浮かべた。
「いや? あるよ、日本刀」
「おじさんのじゃなくて?」
「俺のだよ。高校受かった時、進学祝でじい様が譲ってくれたんだよ。ちゃんと登録してあるから大丈夫」
………高校進学祝に、日本刀くれるってのも、凄い話だな。
「へー………じゃあ、後は、あのダンダラの羽織と、ハチマキみたいなのがあればOKじゃん」
「ハチマキじゃなくて、ハチガネ、な。…ま、これはそのテの店に行けばあるだろう。時代物、流行っているし」
…ってワケで、イルカさんの仮装は簡単に決まってしまった。
「………オレはどうしようかなあ………」
「お前もやれば? 新撰組」
「えー? やだよ。オレ、着物似合わないもん」
イルカさんは首を傾げる。
「そーかなぁ………そんなこと無いと思うけど」
「着物も袴も持ってないし、オレ」
持っているのは、空手の道着くらいだ。でも、たぶんもうサイズが合わないだろう。空手は、中二でやめたから。
「お前とは別のやるよ。何がいいかな」
イルカはしばらく考え、ポンと手を打った。
「んじゃ、モンローとか、どーだ?」
コーヒー噴きそうになった。………何でいきなりそーなるッ?
お前新撰組で、オレ女装? しかもモンローってナニ。マリリン=モンロー? よりにもよって、マリリン? 昭和のオヤジかお前は。
「あ〜? ………オレに笑いを取りに行けって言うの? 絶対キモイよ。まるっきりオカマだぜ、きっと。モンローは却下!」
「そーかー、意外性を狙ったんだけど、ダメか。お前、化粧したら美人になると思ったんだけどなあ」
だから真顔で美人とか言うな。
「あのなぁ、モンローはナイだろ。モンローのコスプレって、大抵あの白いドレスだろ? 下からの風でブワーッとなっちゃう、有名なアレ」
似合うわけがないだろう。
「ええと…じゃあ、クレオパトラとか?」
「だから女装から離れろって」
そんなにオレに化粧させたいのか、てめえ。
「だって、ハロウィン定番の洋風モンスターじゃなくてもいいんだろう?」
「まあね」
定番って、ゾンビとか吸血鬼とか狼男とかミイラ男とかフランケンとかだよなぁ。
こだわらなくてもいいとは言ったけど。…別にそれでも構わないかなー…とも思う。
ああいうモンスターは、向こうモノの映画にもよく出てくるし………あ、そーだ。
「スター・ウォーズとか、どうかな」
「まさか、ダース・ベイダーか?」
「いや、第一作のルークとか」
「……あれは、周りにC‐3POとかR2‐D2とかいないと、盛り上がらないだろう」
「それもそうか」
………うーん、映画ネタ、悪くないと思ったんだが。でも、映画ネタは集団でコスプレするからいいってのは、確かにあるか。
ルークなら衣装も簡単そうな気がしたんだけどなぁ。アバターみたいなんじゃ、メイク大変だし……あれって特殊メイクだよな。………あ、そうだ!
「………特殊メイク頼める人、いないかなー。トンガリ耳とか、そういうのだけ、作ってもらうの」
イルカはうん? と首を傾げたが、やおらポンと手を打った。
「ああ、いるいる。知り合いで、特殊メイク勉強中のヤツ。…もしかするとハロウィン前は忙しいかもしれないけど、相談してみるよ。トンガリ耳、頼めば作ってくれるかも」
「マジ? 材料費もちろん、こっち持ち。御礼もちゃんとするからって、言って」
「ああ、わかった」
よし、オレも仮装の方針が決まったぞ。
トンガリ耳にシッポとかつけて。
悪魔のメイクなら、ソレっぽくていいんじゃないか? 
一歩間違えると、虫歯君とかバイキン君になりそうだけど。そこは衣装でナントカするってことで。
定番モンスターとはちょっと違うけど、ハロウィンらしくっていいんじゃないか?
少なくとも、モンローやクレオパトラよりはずっと平和だろう。(オレの心が)
 

 



NEXT

 

季節ものは当日に間に合わないとUPし辛くなってしまうのですが。
ここまで間に合ってないといっそ清々し…くもありませんが、せっかく書いたので季節ははずしましたがUPしていきますね。
遅れてきたハロウィンです。(笑)

2010/11/14(埼玉県民の日)

 

 

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