愛をください−4

 

イルカはカカシの顔に視線を戻し、ふわりと微笑んだ。
「…やっぱり、そうだったんですか……」
カカシは思わず目の前の男の襟首をつかみ、馬乗りになったまま真っ赤になって叫んでし
まった。
「カマかけやがったなこの野郎―――ッ!!」



「痛いです、カカシさん」
「やかましい!」
二人分の体重で地面に叩きつけられたイルカの背中には、大きな痣が出来ていた。
カカシはぶつぶつ文句を言いながら、それでも背中に湿布を貼ってくれていた。
「背骨は痛めていないみたいだから、安心なさい。ヘタしたら貴方、歩けなくなるところ
ですよ。……何が男のサガですか。…ったくもう…オレ一人なら何とか途中で体勢整えら
れたのに…」
「…眩暈を起こされたように見えましたので。…余計な真似を致しました」
カカシは無言でぴしゃりともう一枚湿布を貼る。
「いてえっ」
「……当然でしょ。ケガしたら痛いのは。良かったですね、痛覚がちゃんとあって」
「…カカシさん、怒ってます…?」
カカシはごそごそと背嚢から晒しを出してきた。
「両腕上げて。ホラ、バンザイ」
イルカは素直にバンザイする。
カカシは晒しをぐるぐるとイルカの胸から腹に巻きつけ、ぎゅうっと締める。
「うげ」
「我慢なさい。…オレはいつも巻いているんですよ」
「………」
イルカは脱いでいた上着を頭から被った。
カカシはそれきり黙って、手当てをした道具を片付けている。
「…カカシさん」
「………」
「カ…」
イルカの呼びかけを遮り、カカシは振り返った。
「いつ、気づきました」
睨むようなカカシの眼に、イルカは気まずそうに視線を逸らす。
「…何となく、変だと思いだしたのは一緒に行動し始めて三日目くらいだったでしょうか
…あの、男同士ならこういう風に一緒に行動していれば、生理現象なんかを相手に隠した
りはあまりしないんですよ。…ぶっちゃけた話、一緒に立ちションなんかもしたりする事
もあります。…そりゃあ、気位が高い上忍なんかは中忍とそんな風に打ち解ける事を嫌が
る方もいらっしゃいますが、貴方はそんなお高い態度は取らない。…ご自分の知らない事
は知らないと仰るし、俺の意見も素直にお聞きになる。…そんな方にしては、不自然だっ
たんです。…水浴びはおろか、俺の前で着替えようともしない事が」
イルカは静かに視線を戻し、カカシの剥き出しの右手を手に取った。
「…綺麗ですね。……白くて、細くて…骨が…筋肉のつき方が男とは違う。…三枚目の起
爆符から貴方を庇って腕の中に抱いた時に、『やはり男じゃない』と思いました」
「それでも…黙ってたんですね。態度、全然変えずに…オレに合わせて…」
「貴方がそれを望んでいらっしゃるみたいでしたし。…でも、お聞きしていいですか? 
何故…男の振りなんかしてたんです」
カカシは肩を竦めた。
「……ちょっとワケ有りで……その方が楽だったし。…あのね…オレ、自分が女だってこ
と、知らなかったんですよ」
「え…?」
イルカは驚いてきょとんとした顔をした。カカシは悪戯っぽく笑う。
「知らなかったの。…ほら、頭が半分おかしい爺さんに育てられたって言ったでしょ? 
爺さんは、オレを女の子として育てなかったんです。…お前は男なんだからって、事ある
ごとに言われてねえ…あの人、本当にオレを男の子だって思い込んでいたんじゃないか
なあ…」
カカシは思い出したようにクスクス笑った。
「里にオレを連れ帰った四代目は、先ずオレを綺麗にしようとして風呂に突っ込もうとし
たんですよね。…オレ、人間かサルかって感じにボロボロだったから、無理ない話ですけ
ど。……オレを裸にひん剥いた時の彼の顔ったら、傑作でしたよお。今でも覚えているく
らい。……結局、オレはどこかのおばちゃんに綺麗に洗ってもらったっけ」
イルカは恐る恐る訊ねた。
「それ…幾つの時の話ですか…」
「えっと、五歳くらいじゃないかな」
「…それでどうして? 五歳なら、それから幾らでも女の子として…その…軌道修正とか
出来たでしょうにっ」
カカシはカリカリと頭を掻いた。
「そーれがね〜…もう下忍クラスの忍並にムダに力はついちゃってるし、オレは頑なに自
分は男だと思っているし。…だいたい、男女の別って言う概念が頭に無かったから。…面
倒になった四代目が、もうオレを『坊主』って呼んで、周りもオレを男の子扱いしちゃっ
たんですよ。…そのうち何とかなるだろうって、思えば無責任な大人どもだったな…」
イルカはがくりと肩を落とした。
「…それで…そのまま今日まで来ちゃったんですか……」
「いや、流石にね、十くらいでどーもおかしいって気づきはしたんですよねー…その頃は、
読み書きもまともに出来るようになってたし。…ああ、決定的だったのはやっぱ、アレで
すね。初潮」
イルカの顔がばっと赤くなった。
「ケガもしてないのに、ズボン血だらけになっちゃって、パニクってたな。…オレじゃな
くて、四代目の方が」
「…ずっと…四代目と…?」
「ああ。…拾った以上、責任あると思ったんじゃないですか? 面倒、見てくれてました
よ。……その、オレに女の子の印しが来るまではね。…それからは、彼とは引き離されま
した。…そして、オレは、やっと自分が彼とは違う生き物だったのだと…理解したんです」
カカシはするりと額当てをはずした。
「この眼…わかりますか」
イルカは、しばらく口が利けなかった。
痛々しい傷痕。
そして、明らかに右とは違う色の瞳。
瞳術使い特有の、常人とは違う構造の目。
「…写…輪眼…」
カカシは目を伏せた。
「……そうです。これをオレが継いでしまってからは、火影様の命で、意図的に女性であ
る事を伏せるようになりました。…対外的にオレは男だと思われていましたから、丁度良
かったんですね。……他国に妙な理由で狙われたらたまらんですから」
「でも…よく今まで…ばれませんでしたね……」
「貴方だって、最初は男だと思ったでしょう?」
イルカは、はた、と思い返した。
そうだ。
『女性みたいに綺麗な』という言葉は浮かんだが、『女だ』とは思わなかった。
「あ…そういえば…」
カカシはクスクス笑った。
「『気』ですよ。男は『陽』、女は『陰』。…意図的に、常時戦う為の男性の『陽気』を纏っ
ているんです。それで、結構誤魔化せてしまいます。……そして、姿形からの先入観。こ
の忍服は男性のもので、オレは晒しだけで体形が誤魔化せるような色気の無い女ですから。
凹凸少なくってねー…。声も、どっちとも取れる声でしょう?…あまり低くない男の声に
も、低めの女の声にも聞こえる。…良かったですよ。あまり女っぽい声だったら、薬で咽
喉を潰さなきゃならなかったから」
イルカは顔を顰めた。
「…そこまでしますか…!」
「します。…オレは、忍ですから」
イルカは、額当ても口布も取ったカカシの素顔を見つめた。
傷痕があるものの、綺麗な女だった。
不憫だ、と感じ、即座にそれはカカシに対する侮辱だ、と己の感情を否定した。
彼女は上忍で、自分の意思で忍として生きているのだから。
だから、これしか言えなかった。
「貴方は…綺麗なひとですね……」
カカシは驚いたように目を瞠った。
「…オレ……が? だって、顔にはでかい傷痕あるし、それに身体も結構傷だらけだし…
その、全然…き…れいなんかじゃ…」
だんだん声が小さくなり、カカシは俯いてしまった。
「…綺麗ですよ。……ねえ、カカシさん。…貴方は上忍だ。俺より強い。……だから、嫌
だったら俺をどうとでも出来ますよね…? そう、殺す事も出来る……」
「…イルカ先生……?」
訝しく思ったカカシが顔を上げた時、もうイルカの顔はすぐ近くにあった。
「…綺麗です……」
あ、接吻されている、とカカシがようやく認識した時、既にイルカの唇は離れていた。
「………」
カカシは茫然として自分の唇を指で辿った。
「……ひっどい……」
「え?」
カカシはぷっとふくれた。
「オレ! ファーストキスだったのにっ…よくわかんないうちに終わっちゃった!!」
「…はあ?」
どうも、最初に覚悟していたのと抗議内容が違う。
「…カカシさん…その…」
カカシはキッとイルカを睨み据えた。
「もっかいやって!」
カカシは薄っすらと涙まで浮かべてにじり寄ってくる。
「え…よ、よろしいんでしょうか…」
「自分からやっといて、今更グズグズ言うなっ!」
「はいっ」
イルカは慌てて、カカシの肩を両手でそっと抱いた。
「眼…つぶって下さいよ…」
「んーと、こう?」
カカシは素直に目を閉じる。
イルカはそっと、その唇にキスした。
ゆっくりとした、触れるだけの口付けを。
離れようとしたイルカの首をカカシはつかまえ、今度は自分からイルカに唇を押し付ける。
「んっ」
イルカは慌ててカカシを引き剥がした。
「カカシさんっ ダメですっ」
途端にカカシは怒りだした。
「何? 嫌なの? 嫌なのになんでキスなんかしたの? あ! もしかしてオレに同情した
の? それでキスしたわけ?」
「違いまーすっ!!」
イルカは叫び返す。
「俺はっ!! 普通の男なんです! こんな山の中で、好きな女の子にくっつかれたら理
性がぶっ飛ぶでしょうがっ!!」
叫び終わってから、イルカは慌てて自分の口を手で塞いだ。
見る間に真っ赤になっていく。
「好き…っつった…?…今…」
カカシはイルカの、首筋まで赤くなった様子に口元を綻ばせた。
「ねえ…理性ぶっ飛ぶと、どーなんの?」
イルカはううう、と唸った。
「……普通は、抱きたくなるんです…」
赤くなって声を絞り出す男に、カカシは困った顔をした。
「…あのね、でも…きっと、がっかりするよ…? オレ、傷いっぱいあるし、それに…胸
だって小さいし……オレ、イルカ先生にがっかりされたくないから…」
「カカシさん…?」
「あのね、キスしてくれてありがとう。…オレ、一生しないで終わるかもって思ってた。
…オレもね、イルカ先生好き……一週間、一緒に仕事出来て楽しかったです…好きだって
…言ってくれてありがとう…」
イルカは、目の前がクラクラした。

微笑むカカシが可愛くて、愛しくて―――たまらない―――

 

 



 

・・・すごい。今までで一番ウブなカカシ様。
何と、イルカ先生がファーストキスの相手!
グラマラスでお色気たっぷりの美女だと、女体
変化したカカシと変わらんので、敢えてAカップ
の洗濯板女にしてみました。
自分の容姿には自信皆無のカカシさん。
女の価値は胸じゃないぞーっ
(個人的な叫びTT・・・
でも、でかい乳は見るのも描くのも好きだな・・・ゴニョゴニョ///)

 

NEXT

BACK