うたかた −続・ヒミツの花園− 1

 

木の葉の里は意外と広い。
だから、その噂はある一部地域で広がったに過ぎないのだが…―――
それは閉鎖的なその場所では、好奇心を伴ってあっという間に広がっていった。
イルカが見慣れぬ美女をエスコートしている、という噂が。

「火影様のご親戚だそうだ」
「いやいや、隣国の貴人だって話だぞ」
「どこぞの大名の姫君が視察にお見えなんじゃないのか?」
「え? 女優さんじゃなかったの?」
噂はどこが発信源なのか、バラバラである。
だが、彼女がイルカに関わりがある人物だという噂は一向になかった。
「イルカはいかにも真面目に見えて安全そうだし、火影様の信頼も篤いから案内役と護衛を兼ねて彼女をエスコートしているのだろう」
と、誰もがそう納得している。
イルカを羨ましがる声も聞かれたが、『役得だ』程度で、そう激しいものではない。

「…要するに俺、安全牌…っつうか、貴方みたいな美女が俺を相手にするわけないって思われてるんですよね。…失礼だなあ、皆。ま…普通はそうか」
噂は当人達の耳にも入り、その内容にイルカは苦笑する。
美女はすり、とイルカに甘えるように身体を寄せ、可愛らしく微笑った。
「ホント、失礼ですよねー。イルカ先生はいい男なのに」
普通なら、これだけでイルカは真っ赤になっただろうが、今回ばかりは違っていた。
彼は『彼女』とここ二週間べったり一緒で、この程度の事には慣れてしまっていたのだ。
「ま、貴方が守って下さっているから妙なムシが寄って来なくて助かります」
「男が煩わしいんなら、もう少し大人しい格好なさったらいかがです? 
カカシ先生」
美女―――カカシは自分の服装を見て首を傾げる。
「似合いません?」
「似合うから言っているんですけど。…せめて、スカートの丈をもう少し長くしませんか。
もう、男の気を惹くカッコしなくてもいいんですから」
膝上15センチのミニタイトスカート。
胸のラインがはっきりわかるハイネックのノースリーブセーター。
「よーするに、イルカは面白くないんですね?」
「ええ」
「男共の視線がオレのチチやらシリに行くのが」
さすがに自分も男だけあって、表現が即物的だ。
「…そうです」
イルカは顔色も変えず、淡々と答えた。だが、声は何となく不機嫌そうだ。
イルカのその反応にカカシは肩を竦める。
「んじゃ、火影様がお戻りになるまで、オレはイルカせんせのおうちで大人しくしてよっかな。…なら、いいでしょ。見るのは貴方だけですもん」

それにしても、とカカシは息をつく。
「……あのジジイときたら…貴方にかけた術だけ解いて、オレの事なんか待ってもくれないで出かけちゃうんだもんなー…」
このカカシのぼやきには、イルカも同情的な表情になる。
「俺もギリギリだったんですよ。もう少し待って下さいってお願いはしたんですが、火影様、お急ぎのご様子で…あれ以上お引止め出来なかったんです。すみません」
「…ちょっとトイレ行ってただけなのにな〜…だから年寄は嫌なんだ、せっかちで」

任務を果たしたカカシとイルカは里に戻ってから真っ直ぐに火影の所に報告に行ったのだ。
だが、生理現象というものは変化をしていようがしていまいが、あるものだ。
カカシが報告の前に手洗いに寄った所で、誰も非難は出来まい。
イルカは報告の巻物を持って、一足先に火影の執務室へ行った。
火影は何やら出掛けるところだったらしく、慌しくイルカにかけた術を解いてくれ(その時はイルカもまだ少女の姿のままだった)、労いの言葉もそこそこに出て行ってしまったのだ。
もちろん、イルカは引き止めた。
カカシはすぐに来る筈だ。だから、彼にかけた術も解いてから出掛けて下さい、と。
それに対する火影の言葉は無情だった。
「ああ、帰ってきたら解いてやる! わしは急いでおるのじゃ。あやつなら、女のままでも特に困りはせんじゃろう!」
そして、火影が行ってしまった後で彼らが知った現実は…火影が帰って来るのは数日後だという事だった。

「…7班は、アスマが代理で指導してくれているんでしたっけね。…ま、いっかー、もう少し面倒見てもらおっと」
正確には、代理というよりは、アスマは担当している10班の子供達と一緒にナルト達の面倒も見てくれているのだ。
スリーマンセルだけではなく、もっと多い人数のチームで任務にあたるのも勉強。
だが、イルカは7班と10班のメンツを思い浮かべ、アスマ上忍にそっと同情した。
きっと、普段の倍以上大変に違いない。
「とにかく、俺のうちで良ければ戻って休みましょう。…カカシ先生、写輪眼使った後、ろくに休息取らずに里まで戻って来たからお疲れでしょう?」
カカシはイルカの腕に自分の腕を絡め、無意識に体重を預けていた。
それに気づいたイルカは彼の体調を気遣ったのだが、カカシは微かに赤面した。
「…眼…べ、別に戦闘で使ったわけじゃないですから、大丈夫ですよ」
波の国で写輪眼を使い過ぎて倒れた事がイルカに知られていたって不思議ではない。
サスケはともかく、あと二つもスピーカーがあっては。
上忍ともあろう者が、己の残存体力も見極められずに限界までチャクラを使ったあげく、依頼人の前で倒れたというのは、あまり格好がよくない。
いくら相手が強くて、自分しか戦う人間がいなかったとしても言い訳にはならなかった。
「そうですか? あ、じゃあどっかで飯でも…あ、いややっぱり帰った方が…」
カカシは照れ隠しのようにきゅうっとイルカの腕にしがみつく。
「メシ! いいですねえ。任務も無事終了しましたし! 本物のデートみたいでいいじゃないですか。この際だから、野郎同士じゃちょっと行きにくいムーディなレストランなんてどーでしょー?」
美女に化けているカカシとデート。
それは、イルカにとってもちょっぴりワクワクする事で―――結局、イルカはカカシの提案にのってしまった。
普段だって、やろうと思えば出来る事なのであるが、わざわざ変化の術を使ってまでそんな事をするのは恥ずかしい。
だが、今のこの状況は不可抗力。
イルカもカカシもそんなふうに自分に言い訳をして、『この状況』を楽しむ事にした。


イルカはカカシとの任務を終えた次の日からは通常通りの勤務に戻った。
アカデミーでの授業、任務受付所での事務。
皆はイルカが二週間いなかったのは火影の使いをしていたのだと認識していたので、特に問題も摩擦も無く―――ただ、好奇心から件の美女について訊いてくる人間が多かったのが少し鬱陶しいだけであった。
イルカは噂を否定せず、三代目に頼まれて客人を案内していただけで、自分も彼女については詳しく知らない、と誤魔化した。まさかあれは上忍のカカシだとも言えない。

その美女は、イルカの家で彼の帰りを待っている。
きっと、退屈している事だろう。

イルカは仕事を終えると、同僚の誘いも振り切って急いで家に帰った。


 



 

カカシ女体モノパート2。
『イルカは男』編。(笑)
有栖川さま9999HITリク。

前回、『イルカも女の子にしちゃったんですけど、いいですか?』とUP前にお訊きしたところ、『イルカが女だと受けっぽい感じなので、出来ればイルカは男の方が…』というお返事。
でも、もう半分以上書いてしまっていたんで、イルカちゃんも女の子編は8000、今回のを9999のリクって事にして頂きました。

イルカが女だと受け…そうかもしんない…^^;;

 

NEXT

BACK