ぴんく −1
我が七班の紅一点、サクラがクッキーを焼いてきた。 厳しい上忍師なら『遊び気分か、お前は』と怒るかもしれないが、オレはそんなにカタくはない。ンな事言ったら、任務監督中にエロ本読んでるのはどーなのよ、と突っ込まれてしまうしな。 今日は通常の任務ではなく、室内での講義の日だし。休憩時間に雑談しながらクッキーかじるくらい、かえって甘味が脳の栄養になっていいんじゃないか? クッキーは、あらかじめ一人一人に配れるよう、綺麗に可愛らしくラッピングしてあった。 どうせ、サスケ(だけ)に渡したかったに違いないが、全員に配るという形を取れば渡しやすいし、サスケが受け取ってくれる確率がグンと上がるからだろう。 涙ぐましい…というか、けなげだ。可愛い。 サクラは一番にサスケに手渡したいのをガマンして、教官であるオレに「ハイ、カカシ先生」と手渡してきた。 「おや、お菓子焼いたんだ。ありがとーね、サクラ」 ここはひとつ、快く機嫌よく愛想よくニッコリと微笑んで受け取ってやる。 教官であるオレが喜んで受け取ってるんだ。礼の一つも言って受け取ってやれよ、サスケ。 やっぱね、恋するオトメとしてのサクラの気持ちは痛いほどわかるんだよねー。 ………いや、オレはオトメじゃない………けど、何か難物のオトコに惚れたって点は一緒だものねぇ………サスケと、オレの惚れた男は、『難物具合』の方向性が違うんだけど。 ついでに言うなら、オレは既にそのオトコをゲットしているって点でも彼女とは違うって言えば違うんですけど。(………サクラに殴られそうだな………) ま、ゲットするまではスッゴク大変でしたから! つい、応援してやりたくもなるってモンじゃない。 「はい、サスケくん」 うおっ…偉いぞ、サクラ。何というさりげなさ。きっと、その薄い胸の中ははちきれんばかりにドキドキしているだろうに。(薄いは余計か。…スマン) その指も声も、微塵も震えてはいなかった。お前はきっと、ひとかどのくノ一になれるぞ。 「………ああ。サンキュ」 やったね、サクラ! テキはボソボソとだが礼を言ったし、素直に受け取った。先生、我が事のように嬉しいよ。 サクラはにこーっとして、オマケのように「ハイ、ナルトも」と残りの男子一名にもほいっとくれてやる。 「ありがとーだってばよっ! サクラちゃんっ!」 女の子(それも意中の子)の手作りお菓子なんて初めてなんだろうなー、お前。なんか、一番嬉しそうで涙を誘われるね。 オレはお前の気持ちもわかっちゃうからさー………とか思いながら、オレは無意識に手にしたお菓子を持ち上げて匂いをかいでいたらしい。 目敏くそれを見つけたサクラは、ちょっと上目遣いに軽くオレを睨んだ。 どう見ても、菓子の匂いを楽しんでいるというよりも検分している、というのがわかってしまったのだろう。 「やーね、先生。ヘンな物なんか入れてないわよっ!」 「や…スマンスマン。…そんなつもりは無いけどな〜…コレはもはや習性なのよ。忍者って悲しいねえ、アハハ………」 知らない人にもらったモンを無防備に食ってはいけません。 知っている人にもらったモンも以下同文。 ―――と、今は亡き尊敬する師に事あるごとに言われたのが、骨の髄までしみているのだ、オレは。 一度なんかその師匠本人に一服盛られてしまい、痺れてピクピクしているオレを見下ろした彼に「だから言っただろう? カカシ」なーんて、言われてしまった事もある。 この世で一番信用している師匠がくれたものも疑わなきゃならないなんて、なんて因果な商売かとオレは物悲しくなったものだ。 今はオレも、猛毒をくらわない限り、すぐにどうこうなるようなヤワな身体じゃないけどね。それもまたそれで、何となく物悲しい気もするが。 オレは、自分の師匠に言われた事を、そのまま目の前のチビっこどもにも伝授する。 「別にサクラを疑っているワケじゃない。でもま、もらったモノを何でもかんでも無防備に口に入れるなよ。………お前らはまだ、身体を毒に慣らす訓練はしていないし、解毒方法も知らんだろう?」 子供達は途端に不安そうに瞳を揺らす。………可愛いねー、素直で。 「まあ、忍者相手に食い物に毒物を仕込むってのは、相当なスキルが必要だけどね。……食べ物自体の匂いがキツかったり、味が濃いものには仕込みやすいから注意することー」 サクラが眉根を寄せてオレを見上げてきた。 「…注意って…具体的にはどうするの? 先生」 「ま、確証が無い時は、自分の勘が頼りだねえ。…アヤシイと思ったら食うな。以上」 エーッと言う予想通りのブーイングを聞きながら、オレはサクラがくれた包みの口を縛っているリボンを解いた。 包みを開けると、紅茶の葉を混ぜ込んだとわかる、クッキーの香ばしい匂いがする。ふぅん、お世辞抜きに美味そうだ。 「上手に焼けたじゃないか、サクラ」 途端にサクラは嬉しそうな顔をした。 「でしょ? 我ながら上手くいったと思ってるの! …だから、持ってきたんだけど」 サスケとナルトは、包みを解かずに手のひらにのせたクッキーをじーっと眺めている。 どうせ、『毒入りか、そうじゃないかなんてどうやって見分けるんだ?』とかグルグル考えているんだろう。 その時オレは、クッキーの包みについているリボンの色がそれぞれに違うことに気づいた。 サスケは赤、ナルトは橙、オレのは………桃色。 「………サクラ」 「何? 先生」 「…このリボンの色って………何か意味ある?」 単に同じ色のリボンが無かっただけかな〜、と思いながら一応聞いてみる。 サクラはふふっと含み笑いをした。あ、やっぱり意味あるな? 「ん〜。特別な意味合いじゃないんですけど〜、ちょっと、イメージカラーって言うか。サスケくんは内に秘めた情熱の赤、とか!」 言ってから、サクラはキャー、と照れて頬に手を当てて身をくねらせた。 まあ、サスケは表面クールを装っているが、結構熱しやすい子だ。あながち間違ったイメージではない。 サスケも、満更でも無さそうな顔で手元の包みに目を落としている。 要するに、一番綺麗に上手く焼けているクッキーをサスケに渡したかったんだね。その為の目印なんだろう。もしかしたら、女の子らしく何らかのおまじないを施している可能性もあるな。 「………ナルトの橙は何となくわかるけど。………何でセンセーが桃色なのかな〜?」 ナルトは、普段の任務時に着ているのがオレンジ色の上下っていう派手派手忍者だ。 だけど、オレのどこがピンクだコラ。 「ん?」とサクラは首を傾げた。 「………ですよねえ。…私もよくわかんないんだけど………イルカ先生がそう言うから」 は? ………イルカ先生が?? 「ちょっと前に、みんなを色にたとえるとって、話をしたんですよ」 聞けばイルカ先生は、時々サクラ達くノ一のタマゴ軍団のお茶とおしゃべりに付き合ってくれるのだそうだ。 彼女たちは、アカデミー時代からの気安さもあって、上忍師であるオレ達には聞けない事をイルカ先生に聞いたり、相談に乗ってもらったりしているらしい。想像するに、実に微笑ましい光景だ。 そのお茶の時の雑談で、そういう他愛も無い話になったのだな。女の子が好きそうな話題だ。誰それのイメージを花にたとえると、とか色で表現すると、とかね。 「で、イルカ先生はやっぱり名前のイメージもあるけど青だよねーって話してて。じゃあ、カカシ先生は何色かなーって………いのや、ヒナタは銀とか白って言ったんだけど。私も、先生は髪の色とかの印象が強いからソレかなーって思ったんだけど、その時イルカ先生がボソッと、カカシ先生か…ピンクかなって………」 「………な、何で…???」 さあ? とまたサクラは首を傾げる。 「何故そう思ったのか、聞いても理由は教えてくれなかったから………気になるなら、カカシ先生が直接聞いてみたら?」 ………あー、そうね。 是非、伺いたいモンです。 こんな可愛らしい色のどこがオレ?
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カカ受けONLY『乙女座の彼氏』記念アンソロジー本、『華嵐』に参加させて頂いた時に書いたもの。 08/9/6 |