秘の五日間 =第二夜=

 

「…それで」
「はい」
「イルカ先生は今夜もオレに化けるつもりですか?」
夕食を済ませ、お茶を啜っている時にカカシは上目遣いにイルカを見上げてきた。
夕べ、カカシに変化したのはイルカにとって最終手段に近かったので―――しかもそれは当然のこと
ながらカカシには相当不評(不評、という言葉で片付けられないような気もするが)だったのだから、
ここは考えるべきだろう。
う〜ん、とイルカは天井を睨んだ。
「どうにか春めいてはきましたけどねえ…まだ夜は冷えますもんねえ。…あの、カカシ先生は犬と猫、
どっちがお好きですか?」
唐突なイルカの質問にカカシは面食らう。
「……ええと、そうですね。どっちも好き…だけど、犬…かな」
「はい。じゃあ、アンカ代わりにこんなん、如何でしょう」
ぼん。
「………」
犬。
「わん」
「……イルカ…先生」
「わんわん」
尻尾をパタパタ振る柴犬。カカシはがくりと膝をついた。
「………可愛い……可愛いけど…人外はきついでしょう…? 変化を保つの」
「う…うう……」
犬が懊悩する図、というのはなかなかに見物だった。
ふとカカシは犬の鼻面をつかまえ、何やらごそごそと毛を指先で掻き分け始める。
「……? うう?」
「んー、いや、あるとしたらこの辺かな、と思って。…やっぱないかー、イルカせんせのトレードマーク、
一文字傷」
続いて、あらよっと前肢を捕まえられて、強制的に「チンチン」のポーズをさせられる柴犬。
「……忍犬どもで見慣れちゃあいるけど…イルカ先生のだと思うと、妙にドキドキしますねえ」
「…う? …………うわわんっ」
カカシが何を見ているのか悟ったイルカはじたばたもがいて逃れようとする。
「何恥ずかしがっているんですか。犬が服着てないのは当たり前。当然、犬は股間を見られようが
気にしないものですよ?」
ようやくカカシの手から逃れた柴犬はぜーぜー言いながら部屋の隅まで逃げた。
どぅん、と変化を解くイルカ。
「もおおおおおお! どーして貴方って………」
ふん、と美女は鼻を鳴らした。
「イルカ先生がヘンな事するからです」
一理ある。
「……はい。…どーぶつはやめます…」
「無機物も却下します」
「…はあ」
「……この際だから、リクエストしちゃおうかな♪ イルカ先生はどーしても変化して寝たいみたい
ですから」
いや、別に変化して寝たいわけでは…ないのだが、イルカは大人しく黙っていた。
うふ、とカカシはイルカの間近に顔を寄せる。
「リクエストー! イルカ先生のちっちゃい頃が見たいでーす」
「はあ?」
「いくらオレでも、幼児は襲いませんから安心してどうぞー!」
「………はあ」
ここでカカシに逆らうほど、イルカは愚かではなかった。
「見ても面白いものでもないですからね…? 文句言わないで下さいよ?」
何となく的外れ的な念を押してから、イルカは印を結んだ。
どん。
「………」
浴衣を兵児帯で結んだ、4歳前後の小さな男の子。
「…年齢を聞くのをわすれちゃいましたけど、これくらいでいいですか?」
可愛い、舌足らずな発音でいつも通りの言い方をしようとするイルカをカカシは無言でひったくるよ
うに胸に抱き込んだ。
「カカシせんせ…」
小さい頃は少し発育不良気味だったイルカの軽い身体は、簡単にカカシの膝に乗ってしまった。
「…可愛い……」
ぽそっとカカシは呟いて、イルカの身体をぎゅう、と抱き締める。
一方、カカシの柔らかい豊満な胸に顔を押し付けられたイルカは、気持ちいいんだか苦しいんだ
かわからなくてじたばたと泳いでいた。
元々男で、女性に変化しただけのカカシからは母親特有の匂いはしなかったが、柔らかい乳房の
感触はどうしてこうも気持ち良く、安心できるものなのだろう。
イルカは急に切なくなって、くすん、と鼻をすすった。
「…イルカ?」
「……ごめんなさい…母ちゃんを…思い出しちゃって…」
黒々とした大きな瞳にうっすらと涙を滲ませたイルカ坊やはカカシを見上げて笑って見せる。
「…イルカの…お母さん……」
「あ! いや、カカシせんせえの方が美人ですけど! あの……」
カカシは微笑んで、イルカを抱いたまま立ち上がった。触れるだけのキス。
本当に、母親が子供にするような、優しい―――
「こんな可愛い子供を産んで、育てられた貴方のお母さんは、幸せな女性ですね」
「カカシ…せんせい…」
何となくしんみりしたのも束の間。カカシは元気よくイルカを腕の中で揺すり上げる。
「よし! さっきは新婚さんごっこしたから、今度は親子ごっこして遊ぼう!」
「い?」
にま、とカカシは唇の端をあげた。
「このまま一緒に風呂に入って、寝ましょうねー♪ イルカちゃん」
「ふ、風呂ぉ?」
「嫌だとは言わせませんよ! これはオレなりの妥協ですからね?」
「……は…はい……」
遊ばれる。
玩具にされる。
それがわかっていながら、イルカにはもうその変化を解く事は許されず―――
悲壮な覚悟の元、上機嫌のカカシに裸に剥かれて風呂場に連行されるイルカ少年であった。



 

4歳児のイルカちゃんに傷はあるか? わからないので明言は避けました。
・・・イルカ先生、あと三晩もありまっせ・・・どうするのでしょう。
(っていうか、どーすんだ? 青菜)

 

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