十二年目の伝言=ラブレター=

 

イルカがそれに気づいたのは、カカシと付き合いだしてしばらく経ってからだった。
彼の『師匠』が、あの災厄で亡くなってしまった四代目火影であると言う事に。
カカシの部屋で彼のスリーマンセル時代の写真を見た時にはすぐに気づかなかった。
「…何故注連縄…?」と、その教官が首にぶら下げていたモノのインパクトが強くて、顔
そのものの印象が薄れてしまった所為である。
ある日火影の執務室で、ふと見上げた歴代火影の遺影を改めて眺めた時にやっと気づいた
のだ。その夭逝した青年と、カカシの『先生』が同一人物であると。
三代目から漏れ聞いた話では、四代目はカカシの下忍スリーマンセル時代の教官であり、
またそれ以前から幼い彼の保護者であったという。
カカシの能力が幼い子供には御しかねる程のものだった為、周囲への被害及び本人の暴走
による自爆を防ぐ為、高い能力を持った大人がついていてやる必要があったからだそうだ。
なるほどな、とイルカは思う。
それでカカシはあれほど懐かしげに、そして辛そうにかの火影岩を眺めるのだ。
類は友を呼ぶというが、天才は天才を呼ぶのだろうか。
その四代目を忍として育てたのが、かの『最強の三忍』のひとり、自来也であり、その自
来也を導いたのが三代目火影、猿飛であると知ってからは余計にそう思う。
大きな『力』としか呼び様が無いものが、確かに彼らの間で受け継がれており―――その
流れは、カカシからまた『天才』の一人であるサスケに受け継がれて行くのだろう。いや、
サスケだけではなく、ナルトやサクラにも。
そこまで考えて、イルカは少しだけ彼らを羨ましく思っている自分に気づき、苦笑する。
木ノ葉の里全体の流れを見れば、自分も確かにその中にいる。
だが、初代から受け継がれている『力』の流れには到底入れない。
少し―――ほんの少しだけ感じた疎外感。
それは、カカシが未だに四代目を慕い、かの存在が彼の心の中で決して少なくない部分を
占めているのだと気づいてからは嫉妬にも似た感情となって時折イルカに切ない思いをさ
せた。
カカシの、四代目に対する感情は恋愛ではない。
師匠への敬愛。そして肉親への愛情に類似するもの。
だから自分の悋気はお門違いだとイルカも知っていた。
四代目火影。
若くして木ノ葉の頂点に立った男。
どんな青年だったのだろう、とイルカは思う。
伝え聞く彼の話は既に伝説であり、まるで神話のようだ。
残された写真を見る限り、整った理知的な顔立ちをしていて、真面目そうな印象を受ける。
造作的には優男なのだが、意思の強そうな瞳が彼の容貌に精悍さを与えていた。
男にとって、容貌など女のそれほど価値が高いものではないと考える者もいるだろうが、
人は見目良いものに惹かれるものだ。
造作は本人の功ではないが、それを光らせるのは内面の徳であり、本人の品性である。
造作は決して美しいとは言えないが、その表情、とりわけ眼が魅力的な人物というものは
確かに存在する。利発そうな顔、愚鈍そうな顔、という印象も例外はあるもののあまり外
れないものである。
拠って、異性同性問わず惹かれる容姿を持つに至った人間にはそれだけの価値があると判
断される。
その意味では、四代目火影はカリスマ性を帯びた魅力のある容姿をしていたようだ。
珍しく酔ったカカシが笑いながら、「そりゃあもう、イイ男でしたよぉ、彼は。通りを歩い
ているだけで女の子の団体がくっついてきちゃうくらいねえ」と彼を評した事がある。
酔っぱらいは事実を面白おかしく表現しただけであろうが、その評価は正しいのだろう。
カカシはあまり過去の事を話そうとはしなかったが、時折もらす『過去』は大抵四代目絡
みの事であるようだった。
カカシの過去の大部分を占める男。
どんな人だったのだろう。
神話のような彼ではなく、写真に記録された動かない彼ではなく。
生身の彼を知りたいとイルカは思うようになった。



 
 
イルカは、その日の勤務を終えて帰途についていた。
カカシ隊第七班は今日から明後日まで泊り込みの任務である。
一人きりの夕食は慣れているが、最近はカカシと食べる事が多いので少し寂しいな、とイ
ルカは思う。
一人ではきちんとした料理もする気になれない。
どこか、飯屋で軽く済ませてしまおうか、などと考えながら歩いていると、馴染みの書店
の前が何やら賑わっているのが目に入った。
「何かあるのかな…? 本屋でバーゲンもないだろうけど……」
もしかしたら、掟破りのお買い得投売りセールでもやっているのだろうか。いや、話題の
本が売り出されたのかもしれない。
イルカは通りかかりながら、人垣の奥を覗いてみた。
「……サイン…会…?」
どうやら人気作家の、新刊発行記念サイン会のようだ。
新刊を買い、作家本人にサインを入れてもらう。ファンなら見逃せないイベントだろう。
「誰のだ…?」
イルカがひょいと上を見上げると、書店の入り口にはでかでかと『イチャイチャパラダイ
ス外伝新シリーズ待望の刊行! 記念サイン会』とある。あまり人前には出ないので有名
な作家の事、集客には充分な効果があるだろう。
「……イチャパラの…新刊…」
イチャイチャパラダイス。通称イチャパラ。
カカシがよく読んでいる例のシリーズだ。
任務に出てしまった彼は、発売日の今日これを入手する事は出来ないはず。
どれくらいファンなのかはよくわからなかったが、作家のサインを入れた新刊を買ってお
いてあげたら喜ぶだろう。
しかし、イルカはすぐには人の列に並べなかった。
(……カカシ先生が喜ぶのはわかっているんだけど…何だか恥ずかしいなあ…)
イチャパラシリーズはいわゆる十八禁もの。
お子様購読禁止のシロモノだ。
イルカもちらりと読んだ事はあるが、結構な性描写があって恥ずかしくて全部読めなかっ
た。純情ぶる気はないが、ヒロインのベッドでの反応や声が恋人のそれをイルカに連想さ
せ、落ち着かなくて読めたものではなかったのだ。
それでも立ち去る事も出来ず、イルカは取りあえず書店の中に入る。
いつも購読している情報誌の発売日である事に気づき、まずそれを探しに行った。
サイン会の列は、普通の客の邪魔はしないように並んでいる。それを横目で眺め、ついで
にイルカは作家の顔を盗み見た。
ファンの言葉に丁寧に耳を傾け、にこやかにサインをする男は見た目四十代後半から五十
代前半。色つきの眼鏡で目許は定かではないが、口許に浮かべた笑みはお愛想だけには見
えなかった。来てくれたファンの言葉が本当に嬉しい、と見た人にわかる笑みである。
少し痩せぎすで、黒髪と顎鬚の半分はもう白くなっていた。
顔色があまり良くないのは、ハードスケジュールだからだろうか。疲れているのだろうな、
気の毒に、とイルカは思う。
そのイルカの視線を感じたのか、作家はイルカの方を見る。
あ、目があった―――とイルカは感じて、何となく会釈をしてその場を去ろうとした。
するとイチャパラの作家はサインの手を止めて何故かイルカを手招きする。
イルカは最初自分が呼ばれたとは思わずに周囲を見回した。が、彼の周囲に人はいない。
作家は間違いなくイルカを呼んでいたのだ。
仕方なく、イルカは彼の座る席に近づく。
忍装束の自分を、警備に雇われた者と勘違いしたな、と思いながら。
「あの…何か?」
「遅かったな。アンタの分は取ってあるよ。遠慮しないで横から声を掛けてくれても良か
ったんだよ。ほら、これだ」
いきなりサイン済みの新刊を差し出されてイルカは戸惑う。
どうしたら良いのだろう。サイン会に並んでいるファン達の羨望の眼差しが痛い。
絶対に誰かと勘違いされているのに。
しかし、「お人違いでは……」と言える雰囲気ではなかった。第一、そんな事を言ったら彼
に恥をかかせてしまう。
仕方ない、一応受け取っておいて、本来あれを受け取るべき人物が現れたら「お預かりし
ていました」と言って渡してやればいいのだ―――そうイルカは考え、差し出された本を
受け取って礼を言った。
「ありがとうございます」
「いやいや。じゃあ、また後でな」
と彼は微笑み、周囲には聞こえない小さな声でイルカに爆弾を投げてよこした。
「…イルカ君」
イルカの目が丸くなった。
「はいぃ??」
と声を上げなかったのは、日々中忍として怠らなかった訓練の賜物である。
作家はニヤリと人の悪い笑みを見せ、すぐにサイン会を再開してしまった。
イルカはすぐに我に返り、人のいない書架の方へ移動して本を検める。
ハードカバーの裏表紙の見返し部分に、今日の日付と作家のサインらしきものが書いてあ
る。
達筆過ぎて、名前が判読出来なかったが、イルカの眼はサインの上部に記されていた宛名
に吸い寄せられた。それも達筆だったが、判読は出来る。
―――『はたけカカシ殿へ』
イルカは黙ってぱたん、と本を閉じて、肩に掛けていた鞄にしまう。
どういう事なのか。
今彼は「また後で」と確かに言った。
サイン会が終わるのを待つしかない。
告知の張り紙によれば、サイン会は後30分程で終わるはずだ。
「…ったく…本当にカカシ先生の知り合いかどうかはともかく……このまま帰れるわけね
えだろ、気持ちの悪い……」
ああ、胡散臭い。
イルカはため息をつき、時間を潰す為に雑誌のコーナーへと足を運ぶのであった。


やがて長かった列が短くなり、書店側が仕入れた新刊の数が尽きた所為もあって、サイン
会は盛況のうちに幕を閉じた。
その様子を見ていたイルカは、さてどうやって彼と接触しようかと首を傾げる。
最後の一人にサインと握手を済ませた彼は、ぺこぺこ頭を下げながら人気作家を労う書店
の店主に促されて店の奥に入ってしまった。
もしかしたら、あのまま店主のもてなしの宴に行ってしまったのかもしれない。
このまま帰ってもいいが、鞄に入っているカカシ宛ての本の存在がイルカにはどうにも意
味ありげに思える。
いや、無ければおかしい。
そこまで考えたイルカは軽く噴きだしたいのを堪えて、店の外に出た。
自分の職業は何だ。
「……忍者だろうが、俺は」
分からない事は探り出せばいいのだ。
だがイルカがそう決心したところへ、書店の若い店員が駆け寄って来た。
「すみません、イルカさんですよね? これ、先生からお預かりしました」
先生とはかの作家殿のことだろう。
イルカは店員に礼を言って、手紙らしき紙片を受け取った。手紙を開いたイルカはしばし
無言で紙片を眺める。
(………やっぱり忍か……しかも相当年季の入った御仁のようだな。…この暗号様式は今
のアカデミーじゃ教えてないぞ……)
三代目に色々とこき使われているおかげで、イルカは歳に似合わず『古い』事を知ってい
る。今、それが役に立ったようだ。
暗号様式は木ノ葉でしか使用されない物。少なくとも、同じ里の忍である事は確かである。
(しかも俺、謎の作家さんに食事に誘われているし……)
カカシと己の繋がりを知り、しかも顔まで知っているとなれば―――
「……最悪、三代目が噛んでいるってェのもアリかな……」
イルカは苦笑を浮かべ、積年の習いで紙片を手の中で燃やす。
燃え滓を握り潰すと、イルカは彼の指定した場所へと足を向けた。



木ノ葉中央通りの三叉路に七時。
指定された場所、そして刻限である。
イルカが懐中時計で時刻を確認するまでもなく、彼は現れた。
すっと雑踏から抜けてきた気配が、イルカの背後から近づいて肩に手を置く。
「…待たせたな」
イルカは短く「いいえ」と応え、一応油断なく相手のチャクラを探ってみた。
(………!)
至近距離で相手を意識して探ったイルカはある事に気づいてほんの少し目を見開く。
相手の男は、そのイルカの所作に気づいて小さく笑った。
「…なるほど、慎重な男だの、お前さんは。…まあ、ワシはお前さんの敵ではないわ。緊
張せんと、ついてくるがいい」
男はイルカの肩を叩き、悠然と前を歩き出す。
イルカが気づいたのは、男が微量ながらチャクラを使っている事だった。意識しなければ
おそらく気づかないほどの微妙な加減だ。
(……あの量…なら、変化をしてそれを保たせるくらい…のものか。…誰かが作家に変化
しているのか?)
相手に相当な胡散臭さを感じたイルカだったが、今更後には引けなかった。
仕方なく、男の後を追う。
男は慣れた様子で街を歩き、やがて中堅どころの料亭に入ってしまった。
「ついて来い」と言われた以上、イルカもその暖簾をくぐるしかない。
男はさっさと二階へ上がる階段を昇っていた。イルカを振り返り、「さっさと来んか」と声
を上げる。
男の強引さにイルカは苦笑した。
なるほど、この御仁は『上の人達』の類友であるようだ。

注文した酒と料理が運ばれると、彼は「呼ぶまで誰も来なくていい」と人払いをした。
イルカは緊張を解かずにじっと座って彼を見る。
その視線に、今度は彼の方が苦笑した。
「……そんなに睨むものではないわ。まあ、確かに招待の仕方はちょいと…何と言うか、
不審に思われても仕方ないがのう」
イルカは口を開いた。
「では、単刀直入にお伺いします。…貴方は、どこのどなたです」
男は顎鬚を撫でた。
「……ワシか? イチャイチャパラダイスの作者だが?」
イルカは眉を片方上げる。
「質問にきちんとお答え頂けないのですか? なら、私も貴方の言う通りにする義理はあ
りませんね」
男は笑い出したいのを堪えているような、複雑な表情になる。
「…でもなァ、嘘はついておらんのだが。アレを書いておるのは確かにワシだし。……ま
あ、しかしお前さんも気づいている通り、姿は変えておるがな」
そして男は何気なく片手をすっと立てる。
ぼん、と男の変化が解けた。
「…!」
にやり、と人の悪い笑みを浮かべているのは、痩身の中年男ではなく、大柄でアクの強い
顔立ちの派手な格好をした―――つまり、変化を解く前よりも数倍胡散臭くなった―――
白い長髪の男だった。
イルカはその顔に見覚えがあった。
本人に会うのはこれが初めてだが、『資料』を見、『情報・知識』として記憶している男。
「………自来也……様」
呟くようなイルカの声に、自来也は微笑む。
「おうさ。…知っておったか。……三代目の傍におると、色々といらぬものも覚えさせら
れるようだの。……先程の姿は、作家としての仮の姿よ。こんな目立つ大男がアレの作者
と知れたら、取材やら何やらしにくくて仕方ないからのォ…めくらましに、人前に出る時
は変化しておるのさ」
「自来也様が…あれの作者……」
イルカは居住まいを正すと、改めて礼を取った。
「…初めてお目に掛かります。うみのイルカです」
ぺこりと頭を下げてから、視線だけを上げて自来也を見る。
「…もっとも、私の事はご存知のようですが」
自来也は声を上げて笑った。
「そうさな、まぁ少しはな……ま、頭を上げて、寛ぐがいい。……ここはワシの奢りだ。
メシ、まだだろう。遠慮なく食え」
「……自来也様。…何故、私を……?」
自来也は手酌で酒を口に含むと、からかうような視線をイルカに投げた。
「そりゃ決まっておる。…お前さんが、あの坊主――カカシの想い人だからさ」
イルカはぐっと拳を握り、口をへの字に曲げた。
カカシ宛ての本を託されているのだから、自来也が自分とカカシが知人だと承知している
事は明白だったが、『関係』まで何故知っている―――
睨むような目つきで黙っている青年に、自来也は顎をしゃくって促す。
「…メシ、冷めるぞ」
「………………いただきます」
イルカは箸を取り、吸い物の碗に口をつけた。
「この料亭は美味い料理を出すぞ。好きなものがあったら、注文するがいい」
「……それより、自来也様。…それで、私に何の御用がおありで? 里にお帰りとは伺っ
ておりませんでしたし」
「いやぁ、里に戻ったのは作家としてさ。さっきの新刊発売記念サイン会な。…あれの為
に『来た』わけで…ジジイには何も言っておらん」
「…自来也様…」
咎めるようなイルカの声に、自来也は肩を竦めた。
「……ま、好き勝手させてもらっとる代わりに、あっちこっちで仕入れた情報の報告書は
ちゃんと書いておるぞ。そら、さっき渡しただろう」
イルカは自分の脇に置いた鞄に目を走らせた。
「……カカシ先生宛ての…サイン本…ですか」
「いつもそう言う形で渡しておるわけではないがなぁ。ワシのやり方にはカカシも慣れて
おる。その本に報告内容が隠してあるかどうかはすぐに分かるはず。……アイツの家にで
も投げ込んでおいてやろうと思ったんだが、お前さんの姿を見かけたからな。ちょうどい
いと思って、遣いを頼む事にしたのさ。サインはサービスだ」
そして自来也は先刻イルカが抱いた疑問にあっさりと答えをくれた。
「それに、あやつが好きだという男、どんなヤツなのかちょいと興味があったしのぅ…」
イルカは、そうか、カカシ先生本人が自来也様に自分達の関係をバラしていたのか―――
とガクリと肩を落とした。
どういう経緯でそんな話になったのかはわからないが、自来也は彼の師匠の師匠。
『男の恋人』の事を打ち明けてもおかしくはないのかもしれない。
それにカカシがあのお色気小説を全巻揃えて愛読しているのにはそういう事情があったの
か、とも納得していた。
「…そうだったのですか…知りませんでした。私はてっきり、彼があの小説を読んでいる
のは……」
「情報を抜いた後に本編まで読んでおるのは、単にただのスケベ心だと思うが? アイツ
も男だからのォ」
ごほ、とむせるイルカ。
からから、と自来也は笑った。
「忍とて木石ではなかろうが? …あの子はそういう方面はちょいと晩熟で、女とまとも
な恋愛などした事が無い。…可愛いものさ。ワシの本に書いてあるような、絵空事の恋愛
しか知識として持っとらん」
イルカはがばっと身を乗り出した。
「あああっ…自来也様…っ…お願いですから、もっと普通に近いシチュエーションで恋愛
劇を書いて下さいーっ! あの人、新婚の妻は裸エプロンで夫を出迎えるのが普通だと思
っているんですよっっ」
ぶはははは、と自来也は爆笑した。
「なんじゃ、そりゃ。お前さん、裸エプロンをやらされたのか」
「しませんよっ! あの人がやろうとしたんです! 未遂ですが」
ほほう、と自来也は顎を撫でた。
「…つまり、『妻役』はカカシの方だって事かい。なるほど、やるのォお前さん」
「………………」
イルカは乗り出したまま固まってしまった。
「ま、なんだな……身体だけは大人で、色々経験もしただろうが…心の方はまだ子供よ、
アレは」
自来也は固まっているイルカを意味ありげに見遣る。
「……お前さんと出逢って、少しは成長したようだがな」
イルカはぎこちなく元の通りに体勢を戻した。
「……カカシ先生が何らかの成長をなさっているというのなら、俺の所為ではありません
よ。…彼自身が何かを見出した所為でしょう」
自来也は目を細める。
「ふむ…なるほど、なるほど。…いやいや、人と人が出逢うというのは時に人に思いがけ
ない恩寵をもたらすものだの。良きかな、良きかな…」
ぐいっと杯を飲み干し、イルカにも勧める。
「下戸ではあるまい。飲め。つきあえ」
「は…」
最強の三忍のひとりに勧められた酒を中忍が断わるなど非礼というものだ。
イルカは勧められるままに酒を飲み、目の前の皿をからにしていった。

 

 



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