Fumiko Sato The World of Indigo
私の仕事 藍建て〜板締め絞り
『作品』
私の藍染作品は、藍がめの限られた容量の中で板を使った「板締め絞り」という染色技法を用いて作られています。直線の板を使って、布を畳んだり曲げたりしてシャープさを表現し、布のしなやかさを利用して曲線を描きます。

『板締め絞り』
板締め絞りは、 万力を使い板で布を押さえて防染する方法です。板締め絞りに使う板は、特別なものでなく、万力に耐えられる天然の木です。使う板は、至って単純な板、あるいは棒です。同じ形の板または棒であっても、畳み方で限りない柄の表現ができます。藍がめの限られた容量の中で染色を行うため、使用する板の大きさ、布の畳み方を工夫しています。布を藍がめの中に入れて、その布に白い部分を残すことはとても難しい作業です。染色するには、藍がめの中に布を数分ほど入れ、その布を取り出して空気にさらすことで色が定着します。すばやく布をさばき、空気にさらして色のムラを防ぎます。藍がめの中に布を長い間入れて置いても、一回に染まる色はさほど濃くなりません。この工程を繰り返すことによって色が濃くなり、色の濃淡を表現することができるのです。

絞りのデザインは、畳みながら自分の頭(心)の中で描いていきます。一度畳んだ布からは、1つの表現しかできないため、万力を外して布に板を当てる場所を変えたり、布を解いて少し畳み直したり、あるいは別の畳み方に変えたりします。この工程を繰り返し、布を染め上げます。防染と染色の回数によって藍の濃淡を表現する時、藍の色が一層美しく見えます。このようにして私が想像する藍の作品を描いていきます。模様のアイデアやインスピレーションなどは、藍がめの容量から得ます。具体的には、染める布を万力で押さえて藍がめに入れますが、板を縦にしたり横にしたりしながら入れていきます。藍がめの口の直径と藍がめの深さで染色できる範囲が決まります。藍がめの容量に逆らわないで作れるものが一番良い作品に繋がっていくと思うのです。

植物から出るブルーは、うすい色ほど真夏の青空に似て美しいです。 空の色は藍を建てるわたしの原点です。

『すくも』
日本では,タデアイ(学名:Persicaria tinctoria)から藍の染料が作られます。この植物から作られる染料は「すくも」と呼ばれています。染料の製造は、タデアイの葉を乾燥させることから始まり、乾燥させた葉を山積みにして数日ごとに水を与えます。「切り返し」と呼ばれる混ぜ合わせの作業で適切な温度に調整し、100日間ほどの発酵期間を経て堆肥状にします。これが藍の染料である「すくも」です。この作業は、藍師が行いますが、「すくも」の発酵を管理・調整する難しい作業です。積み上げられた藍の葉に水を与えると発酵が進んでいきますが、一方で藍師は、水の量で温度が変わるすくもの状態を監視する必要があります。日本では、一般に藍作農家が「すくも」を製造し、藍染作家は農家から「すくも」を仕入れて藍染を行っています。分業化しています。

『藍建て』
藍の成分は「すくも」の状態では水に溶けないため、そのまま染料として使うことができません。そこで、発酵という方法によって藍を可溶性にします。土の中に埋め込んだ藍がめの中に、灰汁(アルカリ)、すくも、発酵の栄養源のふすまを入れ、一週間ほどかけて発酵させます。すくも中のインジゴを還元して水溶性にして行う。この工程を「藍を建てる」といいます。

『木灰汁』
藍建ての灰汁(アルカリ)に使用する薪は、薪を専門に扱う親切な方が長い間工房へ提供して下さるお蔭で、安定した木灰汁が作れて本当に感謝しています。薪 は、乾燥させなければ燃えが悪いので冬に使う薪は春から準備しなければなりません。冬の準備で薪割りなども家族の協力があってのことです。この薪は、炊事 や暖房など日常生活の一部で使っています。藍がめの保温も熾き(オキ)(炭の内部まで赤くなり、表面に白い灰がうっすらかぶった状態)で行います。 藍建てには、薪の役目をすべて果たした後の灰を用います。

『藍の維持・管理』
アルカリは自然に沈んでいくので、藍がめの中のアルカリを一定に安定した状態にしておくために毎日1回必ず撹拌します。その時に発酵状態を確認します。匂いを嗅ぎ、藍の花(藍色の泡)を見て、撹拌した時の音を聞きます。藍の花が盛り上がっていれば良い状態です。撹拌する棒が藍がめに接触する時に出る音がカラカラという高い音であれば、アルカリ度が高くアルカリが安定しているサインであると考えます。一方、モコモコというこもった音の場合は、アルカリ度が低くなってきていると判断します。この作業を毎日欠かさず行い、今日はアルカリが欲しいのかな?温めて欲しいのかな?「ふすま」が欲しいのかな?などを判断します。最終的には、舌でなめてアルカリを確かめます。pH11前後を保つようにしています。pH12以上に上がると藍の菌の動きが鈍くなり、pH10以下に下がると雑菌が繁殖するからです。

『藍建てに日々の生活を感じます』
藍の菌が活発に動く温度は、30度前後ですが、染色する時の藍がめの中の温度は、摂氏20度から26~7度で行っています。発酵を促す時には温度を高くしますが、高い温度が続いたり、温度が低くなったりすると藍は良い色を出してくれません。人間が快適な生活する温度に似ていると感じます。藍を染色に使い過ぎると、藍の液に酸素が過度に送り込まれます。その結果、藍が酸化して還元が鈍くなり、色の定着が悪くなります。私はこれを、藍が「一休みしなさい。」と言ってくれているように思います。逆に、藍を使用しないでいても色が出にくくなります。これは、「そろそろ仕事をしなさい。」と言われている感じがします。一般に、染め過ぎる方が染めないでいる時に比べて、より色が出にくくなります。(空気を嫌う菌かと思っていたら、実はたまには空気を欲しがる菌なんですね。)自然に逆らわないで、適度に仕事をしなさいと、藍が教えてくれているのだと感じます。藍の葉に含まれる色素はほんのわすかです。染色して藍の色素がうすくなり、使い切った藍がめの中の藍液は土に戻します。
「藍建て」は私の生活の一部です。私の日常は、藍の発酵の中で生きる微生物とシンクロしています。

藍の仕込み
火床を修理し、藍がめと藍がめの周り(火床)も修理しました
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