VT-S1000の小部屋


 今はもう、 VHS ビデオデッキの生産から全メーカーが撤退しました。時代の流れ とはいえ、あれだけ普及したビデオデッキがあっという間に衰退してしまうとは・・・。 確かにデジタルレコーダーに比べたら比べ物にならないほど上便ですし、 デジタル放送となった今では、全くもって使い道がないですね・・・。 カセット以上に悲運な運びとなったアナログメディアとなってしまいました・・・。

 しかしながら、これまで録りためたビデオテープ、そう簡単には捨てられません。 わたしも既に録画は iVDR を使うようになってしまっていますが、iVDR に移行する にもかなりの時間を要します。とてもやってられません。そんなもんですから テレビラックには S-VHS ビデオデッキが設置してあり、今でも現役です。 確かにデジタル録画に比べたら画質は完敗と言わざるを得ないですが、 その一方でストレスなく見られるんですよね・・・。「あれ? それなりに 見られるじゃない・・・《という感じです。

 そんな中、わたしの中に欲しいと思うビデオデッキが浮かんできました。 それがこのデッキです。

 VT-S1000 とは、日立が 1991 年頃発売した高級 S-VHS ビデオデッキです。いわゆる「バブルデッキ《 のうちの一台と言えるでしょう。当時わたしは中学生。定価 185,000 円ではとてもじゃないですが 買えるものではありません。カタログで眺めることしかできませんでした。日立にしては珍しく 画質および音質に構造面からこだわった製品の一つです。日立初のセンターメカであり、 リニアスケートメカでもあります。この VT-S1000 がベースとなって、後に PCM 録音対応機 である VT-PCM1 が発表されました(とデザイン上からわたしが勝手に推測します)。

 しかしこの頃ビデオデッキ、特に日立製は電解コンデンサーが劣化しやすく、世間でもあまり 評判は良くないようです。今時 VHS ・・・と言われそうですが、カセットテープと同様、 テープメディアに愛着のあるわたしにとって、10 代の憧れだったこの VT-S1000 を所持したいと 以前から思っていました。

 しかし、オークションを探していてもまず出品されることはなく、出品されたとしても まずジャンク品。上記のようにコンデンサーの劣化等で一筋縄ではいかないものばかり。 しかし、ちょっとの期待を込めてジャンク品を落札・・・。まあでもやっぱり正常には 動きません。結局、一時期は 3 台の VT-S1000 がわたしの手元にありました(汗)。

 わたしの知識ではカセットデッキを直すようにビデオデッキは直せません。そこで 一発奮起、ジャンクの中でも一番まともに動いていた一台をメーカーでも扱ってくれない 修理業者に修理をお願いしました。それが、リンク先に紹介しているアムライトさんです。 他の業者さんはデッキの状態を見ただけで断られましたが、アムライトさんは時間を掛けて 根気強く対応して下さりました。アムライトさんには修理デッキとは別に部品取りデッキを1台送り、 上良品は部品取りデッキから外して、ニコイチな感じで直してもらいました。 一部、動作しない機能がありますが、無事、上の写真のように動作品を所持することができました。

 この VT-S1000、日立を代表する高級デッキの一つですが、ネットで検索しても詳しい情報がありません。 その昔、「ビデオミュージアム(確かそんな吊前だったと思います)《というサイトにカタログが公開されていたのを記憶してますが、 今ではそのサイトもないようです。そこで、このページを作ってみました。

 これ以前の日立のデッキにはなかったデザイン。とても印象的でした。重圧長大なデッキです。 持った感じも非常にしっかりしています。いやいや、当たり前のことですが、やはり本物を 所持できるというのは嬉しいものです。既に 20 年前の製品。使っている人はいるのか・・・? 大事にしたい一台です。



 写真がイマイチですが、フロントパネルを閉じた状態です。パネルの色といい、表面仕上げといい、 高級感があります。インシュレーターも飾りではないしっかりした防振インシュレーターであり、 VC(バイブレーションカット)システムの一端を担っています。


 テープの出し入れを行うリニアスケートトレイです。しっかりとした造りです。


 天板には宣伝シールが貼られています。発売初期の生産モデルかと思います。


 その天板を外すと、内面に制振板が貼られています。ちょうどスケートメカの上ですね。


 その天板の両側は、これまた専用の制振パネルで挟まれた状態で固定されます。 これらの効果あって、やはり日立の他のデッキとは違い、明らかに本体の剛性が しっかりしていることが、手に持った状態でよく分かります。


 正面向かって左側の操作パネルです。基本操作のボタンに加え、エアチェックを意識した サービスコンセント電源の本体電源連動、非連動切り替え、録音ボリュームなどが 並びます。AV コーディネート機能で各種画質調整ができることが本機の特徴の一つですが、 残念ながら現状、正常に動作してくれません。ヘッドホン音量やライン出力もこの AV コーディネート機能の中で調整できるようになっています。インサートやアフレコといった 編集ができるのも高級機の証ですね。DCNR(デジタルカラーノイズリダクション)はオン/オフの表示は切り替わっていますが、 実際画質の変化が分かるかというと、よく分かりません。実質動いているのか、動いていないのか、 わたしには分からないです・・・。

 トラッキングは自動/手動のどちらでも調整可能です。また、クリーニングボタンで O-SOJI ヘッドを強制的に動かし、ヘッド清掃も行えるようになっています。


 センタースケートメカの下部にも各種操作ボタンが並んでいます。リモコンを持ち合わせて いないのですが、ほとんどの操作は本体で可能です。予約録画設定は厳しいかもですが、 もう留守録することもないので・・・。


 昔の Hi-Fi 録音できるデッキには必ず付いていたレベルメーター。これらの表示パネルは、当時の他の 日立のデッキにも使われているものを流用しているようです。


 昔の高級機なら必ず付いていたジョグ/シャトル。しっかりしたものです(ちょっと汚れが 落ちなくなってしまっていますが・・・)。編集用のボタンが ありますが、説明書がないと使い方は分かりませんね・・・。


 背面の端子郡です。入出力とも 2 系統(入力は前面に 1 系統)。音声出力は固定と可変が用意 されています。なぜか分かりませんが、前面入力端子だけ金メッキ端子です。


 電源部です。オーディオとその他の系統を分けたオーディオ専用電源仕様です。 しっかりした造りです。重い電源トランスを中央に配置しているのもバランスがいいですね。 写真は純正状態ですが、修理時にコンデンサー 一式交換してもらいました。


 メカ部を上から写したものです。本来は天板を外しただけではこの写真のようには見られません。 シールド板と左右の基板を繋ぐ平ケーブルを外す必要があります。VC システムのトリプルインピーダンス ローラーや O-SOJI ヘッドが見られますね。

 画質は、はっきり言って格段に良いとは言えません。まあ、現状、本来の性能を持っているかと いうと怪しいところがありますのでね・・・。ただ、やはりアナログ VHS なりの画質の良さ を感じ取ることができます。音は、明るく元気です! 90 年代後半以降の安物デッキでは味わえない 音質ですね。やはり基本がしっかりしているデッキは違います。手持ちの VHS ソフトやこれまで録り ためたテープを改めて見返したいんですけど、なかなか時間はないですね・・・。

 日立のビデオデッキはネットを見ていてもあまり評判が良いとは言えません。ですから高級機でも 生存台数は他のメーカーと比べても少ないと思います。よっぽどわたくしのような変人(笑)でも 無い限り、動態保存したいとは思わないでしょう。ですから本当にどうにもならなくなるまでは 大切にしたいと思います。

 以下にネットを探しても見当たらない本機の専用カタログを紹介します。興味ありましたら ご覧下さい。各社、画質/音質に力を入れていた良き時代に思います。

VT-S1000専用カタログ ・・・pdfファイルでご覧頂けます。

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