Pioneer T-D7


  
Pioneer T-D7

 2008 年春先まで販売されていた市場最期の 3 ヘッドカセットデッキが、パイオニアの T-D7 です。1997 年の発売から 11 年。他メーカーが次々と高級機の販売を終了していく中で、 最期までパイオニアは頑張ってこのモデルを販売していました。バブル期の高級機に比べれば、 造りは明らかに安っぽいですが、このモデルはカセットデッキの歴史の中にしっかりと 刻み込まれるべきデッキと思います。定価は 65,000 円。わたしが持っているのは 2008 年 3 月出荷のホントの最終型です。実は写真のデッキを購入する前に既に 1 台中古で 購入したものを持っていたのですが、発売初期のモデルだったため、今後長く所持したい ことも考えて、最終型を新品で購入してしまいました。

 全作 T-07S の後継機になるわけですが、中身は全く違います。 最大の特徴は「デジタルプロセッシングシステム《の採用。このデッキの発売以前に 同社のダブルカセットデッキに初採用されていたシステムが、更に高音質化を目指して 3 ヘッドデッキに搭載されたのは、90 年代後半のカセットデッキの縮小傾向の中において 非常に素晴らしいことだと改めて思います。記録信号はこれまでと同じアナログとして 記録するままに、アナログ処理されていた部分をデジタル処理することで、これまでの カセットデッキと完全な互換性を保ちつつ、デジタルオーディオと同等の SN 比を 確保。加えて、同社独自の高域補正技術「FLEXシステム《、きめ細かなキャリブレーション を実現している「XD FLATシステム《までもデジタル化。古いテープやアジマスずれで でありがちな高域がこもり気味の状態でも、SN 比を改善しつつ原音に近づけてくれる。 ダビング時のマスターデッキとしてこんないいデッキはないです。

   ただし、アナログ機器であるカセットデッキにおいて、デジタル処理するのってどうなの?、 という意見もあると思います。確かに純アナログという形にはなりませんが、 カセットの音質を向上させる一つの手法ということで考えれば、わたしはアリだと 思います。90 年代後半といえばカセットデッキの技術としても既に飽和状態であったと 思いますし、トピック的な面でも有効だったのではないでしょうか。

 それに、一番評価できるのは、メディアを変えずに性能を向上させているということ。 とっかえひっかえメディアが変わってしまうのはユーザーも好まないことです。 古くも新しい。T-D7 はそんな一面を持っていると思います。

T-D7 right

 本体は T-07S の構成を引き継ぐセンターメカレイアウト。カセットホルダー向かって左側は 基本操作系のボタンとつまみがあります。録音レベル調整つまみがバランス調整つまみと大きさが 同じなのが個人的にイマイチですが。

T-D7 left

 カセットホルダー左側は、光デジタル入力端子や NR、デジタル FLEX やメーターレンジ切り替え、 テープカウンター等のボタンが並びます。ディスプレイには、主にビクターのカセットデッキの 特徴だったピーク値の数値表示が採用されています。もう少し各種表示が大きかったら良かったと 思うんですが。ちなみに、T-D7 はドルビー NR をオンにすると、自動的に MPX フィルターが 動作してしまいます。ですから、FM 以外の音源を録音する場合、このデッキでドルビー NR を 使って録音することはお勧めできません(実際耳で分かるかというと多分わからないでしょうけど)。 なぜこのような仕様にしてしまったのかは分かりませんが(コスト削減の一つかと思いますが)、 メーカーとしてはデジタル NR があればドルビー NR なんていらないよ、と言いたかったのかもしれません?。

TD-7 holder

 カセットホルダーにも書いてありますが、要の AD および DA コンバーターは 20bit です。 加えて再生側には同社の CD プレーヤーに採用されていた Legato Link Conversion を搭載し、 周波数帯域を高域 40kHz まで伸ばしています。
 また、写真のように、デジタル NR が有効の時は、カセット窓の中に緑の表示が浮かび上がります。

TD-7 open

 天板を開けた状態です。中身は大分すっきりしています。でも 前作 T-07S のようにメカ関係に お金をかけていない(もうかけられない時代だったといったほうが正しいのかも)分、 T-07S よりも部品にお金がかかっている部分があります。例えば MUSE コンデンサーは T-D7 の方が各所に使われていますし、電源ケーブルも T-D7 の方が太くしっかりしています。

T-D7 top panel

 ここもまた T-07S よりも対策されている部分。天板に制振パネルが貼られています。

T-D7 trans

 電源トランスです。パイオニアのデッキは 2 次側でオンオフする仕様が多いですが、 このデッキはトランスの 1 次側でオンオフする仕様になっています。

T-D7 power circuit

 電源回路部です。3 端子レギュレーターの放熱板をシャーシで置き換えてしまうなど合理的な 作りになっています。全体的に共通のことですが、パイオニア伝統といいますか、ネジは 銅メッキですね。

T-D7 play circuit

 再生回路です。ドルビー回路も含めてとても簡素に構成されています。

T-D7 record circuit

 録音回路です。こちらも簡素。でもカップリングコンデンサーは全て MUSE が使われています。

T-D7 HX-PRO & bias circuits

 HX PRO の IC も定番のものが使われています。
 ただしこのデッキの場合、キャリブレーションを XD FLAT モードで行うと、XD システム自身が 音源の高域を考慮したバイアス調整を行うため、HX PRO システムは動作しません。なので、 HX PRO システムはこのデッキには必要なかったのでは? と思ってしまうのですが。 でも「今時のデッキに HX PRO が無い?《と変な誤解を持たれないように、 わざと残したのかもしれません。

T-D7 buffer circuit

 このデッキには再生出力間にバッファー回路が挿入されています。

T-D7 digital signal prosessor

 このデッキの心臓部、信号をデジタル処理している DSP LSI が写真裏側に実装されています。なんだか、これだけ見ると 非常にあっさりしているんですけどね。

T-D7 mechanizm

 メカ部を裏から見たところです。フライホイールが剥き出し?! こんなデッキは 初めて見ました。なんだか見た目に上安になってしまうのですが、問題ないんですね。 動作音は軽いです。

T-D7 head

 ヘッドは PC-OCC 巻き線のコンビネーション型。T-07S の Z メカニズムと比較してしまうと やっぱり寂しいです。仕方ないですね。本体側のカセットハーフを保持する部分にはゴムの スタビライザーがあり、振動対策が施されています。カセット中心窓の照明もないため、 デジタルシステムの緑の照明がないと真っ暗です。

 さてさて、音質的なところですが、再生音はデジタル FLEX とデジタル NR の併用でレンジ感 が確保され、やはり古いテープでも音が大分はっきりする印象です。とにかく、テープの録音 レベルが低くても、経年劣化していてもある程度のレベルまで補正してくれるのは、 とてもありがたいものです。高域の方に興味が行きがちですが、案外低域もそれなりの 量感があってしっかりしています。
 ただし、録音したものはというと、あまりこのデッキで録音はしていないのですが、 ローディのデッキと比べてしまうと特に低域の表現力が乏しいと思ってしまいます。 あまり厚みがなくボワンボワンとしている感じです。そんなわけで、わたしのなかでは ほぼ再生専用デッキとなっています。

 とは言いながらも、やはりこのデッキは特別なデッキです。大事に使っていきたいものです。

T-D7 特性
項目 特性
録音再生ヘッドPC-OCC巻線ハードパーマロイヘッドコンビネーション
消去ヘッドダブルギャップフェライトヘッド
モーターキャプスタン用、リール用およびメカ駆動用:DCサーボモーター各1個
ワウ・フラッター0.05%(WRMS)±0.09% W peak
周波数特性20~21,000Hz±3dB(メタル)
20~20,000Hz±3dB(ハイポジ)
20~20,000Hz±3dB(ノーマル)
SN比60dB 以上(DOLBY NR OFF)
69dB 以上(DOLBY B NR)
76dB 以上(DOLBY C NR)
82dB 以上(Digital NR)
90dB 以上(Digital NR + DOLBY B/C NR)
(ノーマルテープ)
バイアス周波数160kHz
入力端子入力レベル:100mV、入力インピーダンス:23kΩ
出力端子基準出力レベル:0.5V、出力インピーダンス:1.2kΩ
ヘッドホン出力最大 3.3mW(32Ω)
消費電力19W
外形寸法幅420×高さ128×奥行277mm
重量5.0kg


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