D-90s


  
D-90s

 1979年製造。定価は 79,800 円。 各社メタルテープ対応デッキを発売し始めた頃、Lo-D もその流れに乗り発売したのがこの s シリーズです。 Lo-D に限らず、それまでのカセットデッキはどちらかというと背が高いデザインでゴツゴツした 感じのものが多く、Lo-D のデッキもその例外ではありませんでした。しかし、ご覧頂いてお分かりのように、 一気にスマートなデザインとなりました。高さ 110mm という寸法は当時としては斬新な寸法だったように 思います。当時グッドデザインを表す G マークを取得しているのも紊得できます。 そして、7万円台の 3 ヘッドデッキでもロジックコントロールが採用され、高級デッキの雰囲気を、より 身近に感じられるようになりました。

 この s シリーズの登場は Lo-D のデッキの歴史の中でも大きな変換点だったと思います。 デザインもさることながら、ヘッドも D-5500DD で初採用されたチタン溶射仕様であり、 かつ表面形状も、それまでの平曲面からハイパボリック形状とし、ヘッドタッチの安定化を 更に高めたものになっています。D-3300M や D-980M のような10万円以上する高級機と 全く同じヘッドをこのクラスにまで搭載しているのです。また、メカも回路も手抜きはなく、 見た目にもしっかりしたものになっています。

 D-90s は当時としても人気モデルであったようで、Lo-D の 3 ヘッドデッキの歴代モデル の中で一番の販売台数を記録したようです。それだけに、ネットオークションでも比較的 入手しやすい機種ですし、Lo-D のデッキをまずは体感してみたいという方にお勧めできるデッキです。

 D-90s を入手する前は、わたしは後継機の D-E90 の方が好みだったのですが、一度手にしたら D-90s の方が好きになりました。写真は勢い余って 2 台所有していた時のものですが、2 台所有した ことによって発見できたこともありました。その辺についてもここでは紹介していきます。

D-90s

 重ねて上に置いてあるのが後継機の D-E90、下が D-90s です。D-90s の天板は片側側面 3 天留めですが、 D-E90 は片側側面 1 点に簡略されています。ただでさえ樹脂製で剛性のないボディ なのですから、こういったところはモデルチェンジでは簡略して欲しくないところです。

D-90s

 一番左側に電源スイッチ、タイマー切り替えスイッチ、オートリワインド/プレイスイッチが並びます。 カセットホルダーには0~100までの目盛りが打たれています。この目盛りが打たれているのは、 この s シリーズが最後になるかと思います。カセットホルダー下に操作スイッチが一列に並んでいる ので、すっきりしています。気持ち斜め上向きの配置になっており、平面ボタンでも押しやすくなっています。 再生、録音、一時停止の時はボタン上の LED が光ります。REC MUTEはボタンを押している間無音録音となる 仕様になっています。"METAL R&P"のオリジナルバッジが誇らしげでよいですね。

D-90s

 このカセットホルダーですが、本体側のステーに引っ掛ける部分のフック(黄色い点線内部)が折れやすいようです。 折れたフックが本体の方に落ちて残っていれば、瞬間接着剤でくっつけることもできると思いますが、 ない場合が困ることになります。これが折れてしまうとホルダーが宙ぶらりんになってしまいます。

D-90s

 一番簡単な対策は、マグネットシートを写真のように貼り付けて、本体側の金属ホルダーにくっつくように するのがよいと思います。

D-90s

 今までの機種は大きく表示していた MONITOR INDICATOR ですが、大分小さくなり簡略化されました。

D-90s

 左からバイアス調整、テープセレクター、DOLBY NR、TAPE/SOURCE 切り替えと並び、一番右は 出力調整ボリュームになります。テープセレクターのノーマルとハイポジの部分には、 Lo-D テープのなまえが併記されています。REC CALIBRATION は伝統の左右独立なので、 オシレーターがあった方がやはり便利だなと思います。
 レベルメーターは VU 計でおおらかに動きます。真ん中の LED ピークメータとの 動きも程よくマッチしています。

D-90s

 録音ボリュームは1軸式左右独立。マイク/ライン入力切替はスイッチ切り替え式です。 "DOUBLE DOLBY SYSTEM"って書いてあるのは個人的にやはり格好良く思います。 (DOLBY NRは基本的に使わないですが)

D-90s

 天板を開けた状態です。

D-90s

 全面パネルを外すとこんな感じです。

D-90s

 電源トランスは D-80s よりも大きく、周囲も鋼板でシールドされています。

D-90s

 電源回路部。フィルターコンデンサー類は他のデッキと大差なく、Lo-D 標準仕様かなと。

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 ロジック制御用IC です。有線リモコン用の線も含めてコネクタが多く並んでいます。

  D-90s

 再生回路部。上級機と同じく再生ヘッド出力を FET で受けてます。コネクタ部分のシールド板が 好印象ですね。特別音響用のコンデンサーとか使っているわけではないですけど。。。

D-90s

 バイアス回路はメカの側近に。奥に見える半固定抵抗でバイアス調整が左右独立でできます。

D-90s

 ドルビー基板です。D-80s と同じ自社 IC、HA11226 が使われています。DOUBLE DOLBY なので後ろに もう 1 枚あります。

D-90s

 メカ全景。s シリーズのメカは本当にしっかりした造りです。

D-90s

 80 年代の Lo-D のデッキには見られない、奥行きがかなり分厚いフライホイール。リール駆動側まで拘った真鍮製のモーター プーリー。録音/再生時と早送り/巻き戻し時でリールの駆動方式を独立させており、気合が入っています。 後継機の D-E90 は共有されてしまうので・・・。

D-90s

 リールから伸びたベルトはプーリーを介してテープカウンターを動かすとともに、リール回転を検知する リードスイッチ(中央に見える金色の筒の部分。この中にリードスイッチが入っています)用の磁石を回転させています。

D-90s

 D-90s は車みたいに前期/中期/後期モデルがあるらしく、多分前期/中期モデルは上の写真のように カセットホルダーは羽根車を使ったエアーダンプ方式になっているのに対し、後期モデルは下の写真の ようにダンパー式になっています。

D-90s

 巻き取りリールはゴムスリップさせる方式です。そのため、長時間使用せずに放置されたデッキの場合、 矢印に示すブレーキがゴムリングをずっと押しっ放しとなり、ゴムリングに窪みができていることが 多いです。

D-90s

 見た目には小さい窪みですが、これが録音/再生時は影響大で、リールシャフトが窪みにハマってしまい 動かなくなります。

D-90s

 そんな時は写真の水道用パッキンが代用品として使えます。

D-90s

 これが前期モデルのヘッド周り。カセットホップアップ用のステーが見えます。

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 これが中期/後期モデルのヘッド周り。

D-90s

 横から見ても一目瞭然ですね。前期モデル(下)は最初水平にホルダーが動いて、その後斜めに出てくると同時に カセットがちょっと上に上がる仕様。中期/後期モデル(上)は最初から斜めに出てくる仕様。個人的には、 やっぱり前期型が一番かな・・・と。

D-90s

 D-90s の音質ですが、一言で言うと"濃厚"かなと思います。Lo-D の 3 ヘッドデッキに興味を持たれた 方ならば、一度は体験してみて頂きたいデッキです。それくらいお勧めできる基本性能の高いデッキです。 絶対に価格以上の音を出してくれます。

 注意点としては、録音した音が、高域が伸びない症状が出ているデッキがまれにあることです。 これは Lo-D の他のデッキにもみられる症状ですが、原因はよく分かりません。その場合は残念ですが 外れを引いてしまったと思うしかないです。

 以下に D-90s の特性を示します。

D-90s

D-90s 特性
項目 特性
録音再生ヘッド1.4mm クローズギャップ
R&Pコンビネーションヘッド
(チタン溶射表面仕上げハイパボリック形状)
消去ヘッドダブルギャップメタル消去ヘッド
モーターDC サーボモーター(キャプスタン用)×1
DC モーター(リール用)×1
ワウ・フラッター0.04%(WRMS)
周波数特性20~21,000Hz(メタル、クロム、EIAJ表示)
20~20,000Hz(フェリクロム、EIAJ表示)
20~18,000Hz(ノーマル、EIAJ表示)
SN比(メタルテープ3%ひずみレベル聴感補正)68dB(DOLBY NR ON)
60dB(NR OFF)
入力インピーダンス・感度LINE IN 50KΩ以上/60mV、MIC(適合)300Ω~5kΩ/0.4mV
出力インピーダンス(負荷)LINE OUT 50kΩ以上、ヘッドフォン8~2kΩ
電源電圧AC100V 50/60Hz(切替上要)
消費電力29W
外形寸法幅435×高さ110×奥行267mm
重量7kg
付属品USピンコード×2、
ヘッドクリーニング棒一式


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