D-7500


  
D-7500

 1978 年製造。定価は 128,000円です。D-980DD が登場したのが すぐ後と思われますから、製造期間は非常に短かかったと考えられ、実際、製造台数もごくわずかと聞いて います。完動する D-7500 が一体何台現存しているのか・・・。

 このデッキの特徴は、何と言っても再生ヘッドにホール素子を採用していることです。 ホール素子は外部磁界により起電力が発生する素子であり、外部磁界の変化に応じて電圧も変化します。 ですから、普通のコイル式の再生ヘッドと同じ働きを持たせることが可能です。
 ホール素子を採用する利点として、基本的には電圧源と考えられることから、ヘッドからの 出力を高インピーダンスで出力することが可能であり、SN 比に有利と言えますが、 実際のところはそう簡単な話ではく、素子そのもののSN比は良くなかったようです。しかし、 日立では高感度ホール素子であるInSb(インジウム・アンチモン)薄膜を採用し、更に、マイクロゾーンメルト技術、 無ひずみ薄化技術、ドーピング処理技術といったことを開発し、オーディオ仕様に 耐えうるヘッドの製作に成功しています。

D-7500 D-7500

 上の図は当時の雑誌に掲載されていたヘッド模型と断面図です。再生ヘッドはコイル式に比べ かなり小さい体積で作ることができる可能性を見出すことができます。 過渡応答特性やアジマスロスに有利なデータもあったようで、その後の主役と なってもよさそうなヘッドだったと思うのですが、ローディーがホール素子ヘッドを搭載したのはこの D-7500 のみであり、 次の世代のデッキに引き継がれませんでした。市販化されませんでしたが、メタルテープ対応を見据えた試作ヘッドまで 作られていたようです。1機種のみで終わった理由は分かりませんが、わたくしなりに思うのは、

 (1)製造コストが高かった?・・・ベースのデッキである D-900 に比べ、ヘッド+追加回路で単純に 30,000円アップ。
 (2)量産品を安定して供給することが難しい?
 (3)テープタッチをより良好にするための、1.4mm クローズギャップ、チタン溶射およびハイパボリック 形状などをホール素子ヘッドでは作れなかった??・・・ホール素子ヘッドは、それ以前の録音/再生ギャップ距離 3.4mmから 2.6mm に縮めることに成功していましたが・・・。
 (4)そもそも音質的にあまり利点がなかった??  

などが考えられます。本当のところはどうなんでしょうか? 

 ちなみに、同じ発想で、コイル式ではないヘッドを採用したのが、テク二クスが 1990 年代に発表した RS-AZ7 です。こちらはホール素子ではなく、磁気抵抗素子を採用したもので、外部磁界の変化 に応じて素子の電気抵抗が変化することを利用したものです。当時はそれなりに注目された デッキでした。わたくしも店頭で聞き比べしたものです。

 話を戻しますが、とにかく、ホール素子を採用したデッキはこのモデルのみということで、 とても貴重なデッキです(少なくともわたくしはそう思っていますが・・・)。現在も特に問題 なく動いてくれているのは何とも嬉しいことです。

D-7500 D-7500

 外観は昭和カセットデッキ研究所さんのページでも紹介されている D-900 というモデルと 全く一緒です。違うのは、カセットホルダーの右上の「HALL HEAD《のロゴです。
 同時期に販売されていたプリアンプ、パワーアンプおよびチューナーの 7500 シリーズと同じデザインを採用しており、 ラックマウントが可能です。キャリングハンドルが何とも言えない存在感を醸し出しており、 とても格好いいです。操作はロジックコントロール。4 桁シリーズのデッキや D-E90 系のデッキと違い、 プランジャーで直接ヘッドブロックをバシバシ上下させる方式ではなく、フライホイールの動力で動かしているので、 動作音が"カチャン"という感じの優しい音になっています。ローディのロジックコントロールメカの 中で、一番動作音が静かと言ってもいいと思います。"EDIT"ボタンがありますが、 これはミューティング機能のことです。
 なお、メカ自体は、わたくしの所有している D-610 や D-650 と基本構成は同じで、1 モーターの クローズドループ・デュアルキャプスタンとなっています。ピアノタッチ式のこのメカを ロジックコントロールに変更しているようです。

D-7500

 3 ヘッドインジケーターも再生中は点滅したりと、より凝ったものになっています。テープカウンター のメモリーストップ機構も問題なく動いています。

D-7500

 セレクター関係は集中配置されています。バイアス・イコライザーは別々に選択する方式です。 押しボタンも適度な大きさがあっていい雰囲気です。

D-7500

 D-800 と同様、メーターは VU 計にも dB ピーク計にもなります。D.C.C.S も、もちろん装備されています。

D-800

 メーターも他機種と違い、針の軸が上にあるタイプです。照明はよくある細長いフィラメント管が 使われているのですが、青セロファンを通しているため、いわゆる普通の電球色ではなく、クールな 印象の光です。 メインアンプの HMA-7500 のメーターのライトも同じ色合いなので、 シリーズで統一したのだと思います。そのため、やはり他のデッキとはその存在感と雰囲気が違うんです!

D-7500

 天板を開けたところです。ローディのデッキとしては重量級のデッキです。配置の通り、重量配分が かなり左に寄っています。D-3300M 並に配線が多いです。

D-7500

 電源トランスです。このデッキを手にする前は、わたくしが所有しているデッキの中では D-3300M の 電源トランスが一番大きくしっかりしていると思いましたが、D-7500 の方が防磁および質量 共に勝っているように見えます。ちょっとびっくりです。

D-7500

 メカの後ろに大きく一枚張り付いている基板が制御系の基板です。実は入手後、ロジックコントロール の動作上具合が発生し、IC を数個交換しています。電源を入れると勝手に録音が始まってしまい、 しかも止めることができないと いう何とも致命的な上具合だったのですが、代用 IC もあり復活できたので良かったです。 ちょっと 3 端子レギュレーターの放熱板が異様に熱くなるのが気になるため、今は写真に写っている 放熱板に大型クリップを付けて見かけの表面積を広くしています(これだけでもだいぶ放熱効果があります)。
 また、メカが基板に隠れて見られないのですが、テイクアップ側のフライ ホイールは普通のアルミ削り出しで作られているのですが、 サプライ側のフライホイールが真鍮の削り出しなんです! 他のメーカーのデッキも含めて、真鍮製のフライホールが採用されているのはごく僅かです。 

D-7500

 D-900 にはない回路がメカの上にあります。ホール素子にバイアス電圧を与えるための回路です。 付帯回路が必要になるのもホール素子採用時の特徴と言えますかね。

D-7500

 再生ヘッドの出力は写真右上のモジュール基板に入力されているようです。ドルビー IC は D-E90 や D-1100MB で使われているものと同じものです。

D-7500

 D.C.C.S 基板は別基板としてスイッチ裏にあります。

D-7500

 注目のヘッドです。上具合の修理は専門店に頼んだのですが、その際にヘッド表面が割れている との指摘を受けました。しかし、使用には問題ないようです。正規の性能を発揮しているかというと 何とも言えませんが。しかし、それ以前に製品自体が既に 30 年以上経っていながらも 動作していることに感謝しなければならないでしょう。
 パッと見では、これまでのヘッドとあまり変わっていない感じがしますが、再生ヘッドの 幅が短いのがお分かりになるかと思います。ピンチローラーは綺麗ですが右のテイクアップ側が硬化 しています。今のところ走行状態が上安定になることもないので、ひとまず下手に いじらないことにしました。 それにしても、外見からして元々ほとんど使っていなかったのではないかと思われます。

 さて、肝心の音質です。録音は、バイアス調整ができないため、テープによってかなり 印象が違ってきます。 ひとまずマクセルの UD (ノーマル)でバイアスを調整してみた感じでは、 時代を感じさせない明確な音を楽しむことができました。
 しかしながら、他のデッキで録音したテープの再生でもそうですが、 やはりちょっと他のデッキと性格が違うというか、 ローディのこれまでのイメージである腰の据わった濃い音という感じではなく、 D-7500 はどちらかというとちょっと低域が乾き気味の音という感じを受けます。 これがホール素子ヘッドの特徴なのでしょうか・・・。そんなに耳に自信がない わたしでも、初期型ヘッド形状の D-800 や D-610mkⅡ と傾向が 違う感じを受けます。もうちょっと色気が欲しいという感じもしますが、 この辺はコンデンサー等交換すると変わってくるのかもしれません。

 このデッキは 3ヘッド初号機の D-4500や、最高級機の D-5500 シリーズよりも 入手困難です。オークションに出てくるのも数年に1度といっても過言ではなく、 かなり稀です。わたしも入手できないだろうと思っていたデッキですが、 こうやって動作品を手にすることが出来て良かったです。 大事に使っていきたいものです。

D-7500特性
項目 特性
トラック形式4トラック2チャンネル
録音再生ヘッド再生ホール素子R&P×1
消去ヘッドダブルギャップフェライト×1
モーターDCサーボ×1
ワウ・フラッター0.05%(WRMS)
周波数特性20~20,000Hz(クロム)
20~18,000Hz(フェリクロム)
20~17,000Hz(ノーマル)
S/N65dB(DOLBY ON)
57dB(DOLBY OFF)
消費電力30W
外形寸法幅435×高さ181.5×奥行255.5mm
重量9kg

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