朔月のスフィア −エピローグ

※ ご注意:このSSには、話の都合上、勝手に創作したキャラクターが多数登場いたします。主役は、少年時代のサクモさんです。

 

「…ったく、お前らはぁッ! 親子して手間ァ掛けさせんじゃないよ!」
意識を取り戻したカカシを最初に見舞ったのは、ツナデ姫の怒号だった。
カカシは反射的に掠れ声で謝る。
「…………申し訳…ありません………」
シズネが、苦笑しながらカカシの口に吸い飲みをあてがった。
「水です。飲めますか?」
「…ども………」
カカシは素直に水を口に含んだ。嚥下するのにほんの少し咽喉の痛みを覚えたが、飲みこんでしまう。
咽喉を通り、胸から腹へじわりと落ちていく水を感じて、カカシは息をついた。
「………生き返った………」
「本当ですよ。迂闊に死んでるんじゃありません。ツナデ様が自ら人工呼吸して下さったんですから」
感謝するように! とシズネは腰に手を当てる。
「そりゃ…どうも、ご面倒をお掛けしまして………」
フン、とツナデはハナを鳴らした。
「まったくだ」
そこでカカシは、最初に聞いたツナデのセリフを思い出した。
(………お前ら? ………親子して………?)
もしかして、今は亡き父、サクモもツナデに生き返らせてもらったりしたのだろうか。
(あり得る。結構うっかりさんだったしな…父さん)
人の事は言えない状況なのだが、ついそんなことを考えて笑ってしまう。
「何を呑気に笑っておるか」
「…いえ。おかげさまで、三途の川を渡らずに済みましたよ………」
ツナデは一瞬奇妙な顔をした。
「………………見たのか? 三途の川」
「…いいえ? あー、そうだ。川じゃなくて………池だか湖だか…そんな水辺にいた気がしますね。…夢でしょう、きっと。………えっと…そこで誰かと話をしたな…誰だっけ。覚えていないなぁ……でも、何だか凄く切なかったような気が………」
ツナデは、その言葉を咀嚼するかのように数秒眼を閉じた後、やがて微かに笑った。
「………そうか。お前きっと、とても大事な人と会ったんだよ」
「………だと、いいんですが」
「いや、絶対そうだ」
彼女に断言されると、「そうかも」と思えてしまう。
「覚えて無くて、残念です」
その言葉通り、残念そうな表情を浮かべる青年を、ツナデは懐かしい思いで見た。
肉体から解き放たれた魂は、総てのものから『自由』になれるのではないか、と言っていた彼。
(………もしかしたら………あの時………)
―――証明は、出来ないが。
そうならいい、とツナデはひとり微笑んだ。
 



 

END

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