おねがい−2
SIDE・MINATO 改めてこんな事を頼むのは変かもしれない、とは思ったのだけど。 こっちから言わないと、たぶんこの人は一生僕を『ミナトちゃん』と呼び続けるだろう。 それは何というか………ちょっとカンベンして欲しい。 忍として、この人やお師様と肩を並べられるようになるのが目標だというのに。 彼に『ちゃん』と呼ばれ続ける限り、それは叶わないような気がしてならないんだ。 僕をそう呼ぶ事で、彼もまた『年下の子供』としてしか僕を認識できないのではないかと思うし。 今度、僕は初めて彼―――『白い牙』と同じ任務に就く事になった。 これはいい機会のように思えた。 彼は当然、部隊長だ。だからこそ、けじめをつけるという名目が成り立つ。 僕は、意を決して彼に『お願い』することにしたんだ。 お願いがあるんですけど、と言ったら、彼は深い海みたいな瞳で真っ直ぐに僕を見た。 いつ見ても、引き込まれてしまいそうな色の眼だな、と思う。 うっかりすると、その眼に見惚れて言う事を忘れてしまいそう。 「何? ミナトちゃん」 ―――ありがとうございます、サクモさん。おかげで言うべき事を思い出しました。 僕が、ミナトと呼び捨てにして欲しいと言うと、彼は随分と困ったような顔をした。 そんなに困るような事じゃないと思うんだけどなあ。 彼と僕の立場から見たって、当然だし。 この際、彼の出した妥協案『君付け』も却下させてもらおう。 『ミナト』で切らなきゃ、『君』が『ちゃん』に戻ってしまう可能性が高い。 尚もしぶる彼に、僕は最終手段に出た。 彼は、僕に『様』と呼ばれることを嫌がる。 曰く、くすぐったくて落ち着かないのだそうだ。そんなものだろうか。 ともかく、呼び捨てにしてくれないなら『サクモ様』と呼ぶ、と脅しを掛けてみたんだ。 我ながら、大胆だと思うけど。 …たぶん、この人はここまで言わないと、僕の気持ちをわかってくれないと思うから。 そうして尚も食い下がり、僕はやっと彼に呼び捨てにしてもらう約束を取り付けた。 最後に頭を撫でられたのは、やっぱり子供扱いされているような気はしたけど。 ………現金なことに、僕は彼の優しい手で触れられるのは好きだから。 これには何も言わないでおこう。 そして。 たぶん、彼は気をつけてくれていたのだとは思う。 だが、まだ呼び慣れていなかった所為だろう。 咄嗟の場面―――あろうことか、敵の攻撃を回避するよう注意を促す時に、彼は僕を「ミナトちゃん!」と呼んだのだ。 ………あんまりです、サクモさん。 何も、あんな時にちゃん付けで呼ばなくても………力が抜けそうになったじゃないですか。 僕は泣きそうになりながら、思わず彼を睨んでしまった。 彼は「ゴメン、ゴメン」とすぐに謝ってくれたし、いつもなら僕も、「いいですよ」って彼に謝らせたりはしないんだけど。 ………ダメだ。やっぱり。 ここで簡単に『ちゃん付け』を認めちゃいけない。僕は『脅し』を実行することにした。 でも、実際に彼を『サクモ様』と呼んでみると、それが当たり前だったかのように思えてくる。 そうだ。今までが馴れ馴れしかったのだ。 呼ばれているうちに、彼も慣れてくれるんじゃないかな、と思ったのだけど。 呼び続けること一ヶ月。 僕に『サクモ様』と呼ばれることに、彼は慣れてくれなかった。 ある日とうとうガマン出来なくなったらしく―――限界を訴えられたのだ。 そんなにイヤだったのか………なら悪い事をしただろうか、と思ったけれど。 でも、サクモ様………いえ、サクモさん。 往来でいきなり木ノ葉の英雄に抱きつかれた挙句、謝り倒された僕の身にもなって欲しかったです。 皆さんの視線の痛かったこと………(涙) この人の行動は、時々突飛で予測不能なんだ。(だからこそ、敵の裏もかけるのかもしれないけれど) 教訓。 過ぎたるは及ばざるが如し。 何事もヤリ過ぎてはいけないのだと、僕は肝に銘じたのだった。 ―――特に、サクモさんみたいな人には。 |
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白い牙さんと、黄色い閃光さんのショートエピソードでした。 |