Mortal−3  焔・解カス・モノ

=プロローグ=

 

種の保存本能というものがある。
この世界において、人間は弱い生き物なのだろう。
生殖において明確なる『発情期』というものが存在しない。反して言えば、生殖可能な成体
になってからは年中発情期である。つまり、いつでも残せる時に残しておかなければ子孫が
絶えてしまう様な脆弱な種族だという事に他ならない。
そしてその行為には『快楽』が伴う。子孫を残す為の行為が辛いだけのものならば、人類は
とっくに絶えているだろう。おかげで、ここ二千年以上の永きに亘り性行為の目的が『繁殖』
ではなく、『快楽』の方に傾いている輩が圧倒的に多いという事態に成り果てているのが現
状であった。
それもまた本能なのだろう。
快楽、そして自分以外の『誰か』を求めるその行為。
人として、というよりもただ生き物―――動物としての本能のまま互いを貪りあう行為とい
うものは、酷く己の内にある焔を燃え上がらせるものではあるが、同時に酷く消耗するもの
でもあるらしい。
それが本来の『種の保存』という目的に適わない者同士で行われるものであれば余計に。
得られるものは刹那の快楽。
想いあう者同士であれば、魂の充足も得られよう。
ただし、その先は無い。



 
相手の白い肌に浮く汗が、ほのかな行灯の灯かりに光るのを見遣りつつ、自来也は取りとめ
も無くそんな事を考えていた。
幼い頃と違って、多少走ろうが戦おうが涼しい顔をして汗一つ見せない青年が、自分の手が
触れただけでこんなにも汗を滴らせ、荒い呼吸を抑えられずに喘ぐ。
「ハ…ァ…アァ…ッ」
咽喉の上を吐息が掠めるように絞り出された声が掠れて艶っぽく、男の本能を刺激した。
普段柔和な笑顔の仮面を被ったまま取り乱す事の無い白い面が切なげに歪む様も、その身体
を組み敷く男に恐ろしいほどの快感と、満足感を与える。
そして、己でも不可解なほどの愛しさも―――
「……自来…也…ぁ…」
抱きあっている時、彼は決して自来也を『師匠』とは呼ばない。敬称も何もつけず、ただ名
前を呼ぶ。
「自来也……」
「おうよ、ここにいる……―――」
耳元で低く囁いてやると、身を捩ってもっと肌を合わせようとする。
この世の誰よりも愛しい存在。
まだ青年がほんの子供の頃からずっとその成長を見守り、育ててきた。
そんな『弟子』を抱いてしまった事に良心の呵責を覚えぬでもない自来也だ。
最初は、身の内の焔を持て余し苦しんでいた弟子を救う為に取った、やむを得ぬ行為だった。
だが、それだけだと思い込もうとしていた己はただの卑怯者だ。そんなものはただの言い訳
だと自来也は知っている。
己は、この子が欲しかったのだ。
模索すれば他にも方法はあっただろうに、『この子を救う為だ』と己に言い訳し、後ろめた
さを追いやって抱いたのだ。
そんな自来也の心内を読んでいるかのように、肌を合わせる時だけ彼は自来也をその立場で
はなく、ただの『個』として呼ぶのである。

「自来也…」
「…おう……」

呼ばれる度に自来也は応えてやる。
低過ぎず、甲高くも無い柔らかな青年の声。
その声を取り戻したのは自来也だ。

彼の声は生まれてすぐに奪われ、その後何年も封じられていたのである―――

 



 

……プロローグでした。
プロローグというより予告??
この続きは05年8月発行の『MORTAL』にてどうぞ。
(……すみません………;;)
本編は、自来也に引き取られて生活を共にし始めた
チビ四代目が声を取り戻すまでを書いております。
自来也・二十歳
チビ四代目・八歳前後?

自来也はいつ頃弟子を押し倒したんでしょうね。(笑)
……少なくとも、四代目にはまだなってなかったハズ。

 

2005/6/30

 

 

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