「しょおおおおぶだーっ!! カカシィィィ…ッ!!!」
「だああああ! 何なんだよお前は事ある毎にぃーっ…何かオレに恨みでもあるの?」
「あるようなないようなっ…うむ、それは微妙な質問だぞ、カカシ!!」
「……どっちなのよ……」



―――…あるのだ。

恨みとは呼べないかもしれないが、彼には『カカシ』に固執する理由があったのだ。




汗と涙のデスティニー
 
 
はたけカカシは中忍になった。
齢、6歳。
普通はまだアカデミーで先生に『忍者とは』と日々習うような年齢である。
人によっては、まだアカデミーにすら入っていなくても不思議ではない年齢。
そしてカカシが通常の6歳児に比べて体が大きいかと言うとそうではなく、むしろ痩せて
いて背もあまり高くなく、小柄な子供だった。
ただ、そのチャクラの量と使い方、体術が大人を凌ぐ力量だったというだけで。

「………う〜ん…」
「どうしたの? あ、違うえっと…どうしたんですか? 先生」
先生、とカカシ少年に呼ばれた青年は唸る。
「…カカシ君にね、ちゃんとした装備を整えてあげようと思って…ホラ、せっかくカカシ
君も中忍になったんだし」
中忍になったと言う事は忍者として一人前になった証であるから、普通一人立ちせねばな
らないのであるが、カカシの場合『中忍』の称号はその忍としての技量に対してのみ授け
られたものだとして、例外的にまだ保護者がついていた。
社会的な『常識』に関してはまだ完全に学んではいないだろうという『上』の配慮である。
カカシは自分の胸の辺りを小さな両手でぽん、と触った。
「先生と同じカッコウの事…?」
「うん…下忍になった時は額当てをする事が許されただろ? 中忍になったらこの胴衣を
着る事が許されるってワケで…あー、やっぱ特注だなあ…既製品じゃあ一番小さいサイズ
でもカカシ君には大きいね」
カカシは青年の草色の胴衣をじっと見た。
「…その、胸の巻物入れが便利そう…」
「うん、便利だね。カカシ君でも左右に二個ずつくらいはつけられるかな? 便利なだけ
じゃなくて丈夫だしね。サンダルは小さくなったりしてない? それ結構前のでしょ」
「…少し、きついです」
青年はにっこり笑った。
「じゃあ、注文しに行こう。…三代目御用達の忍具屋さんがあるからね。いつも行く所よ
り大きなお店だよ。忍服一式揃えに行こう」
カカシは年齢相応の笑みを浮かべて頷いた。


「へえ、この子の胴衣を? そりゃまあウチも商売ですから…ご注文がありゃあお作りし
ますが……」
忍具屋の店主はカカシの身体のサイズをあちらこちら測りながら苦笑した。
「胴衣だけじゃなくてね、上下と…あと、足にあったサンダルも。…あ、カカシ君。お祝
いにね、何か欲しいものを買ってあげる。刀がいい? それとも巻物?」
カカシはううん、と首を振る。
「…いいです」
「えー、どうして?」
「…だって…オレは…」
青年は子供の銀髪をくしゃ、とかきまわした。
屈んで、カカシの耳元で囁く。
「一人前、かい? じゃあ大人はお祝いも贈り物ももらっちゃいけないのかなあ」
カカシはしばらく俯いていたが、やがて小さく首を振ると青年を見上げた。
「じゃあ、お店の中見ていいですか?」
「いいよ、ゆっくり選んでて。私はちょっと他の店に用があるから…2、30分で戻る」
青年は店主にもそう言い置くと出て行った。
店主は小さな子供が店内をちょこちょこと品物を見て回っているのを視界の隅で眺めなが
ら、注文書を書く。
(…いいのかねえ…こんな小さな子供に正式な中忍の装束を買い与えるなんて……偉い人
が知ったらお咎めがあるんじゃないのかね。…ま、こっちは商売だからいいけどさ)
カラカラ、と店の引き戸が開く。
「らっしゃい!」
カカシもちら、と音の方を見た。
「こんにちはっ! 巻物を見せて下さい!」
「…ああ、いいよ。アカデミーで使うのかい? 今日は君で五人目だ」
「ウッス! そうであります!」
入って来た少年は、カカシより少し年上に見えた。
巻物、と聞いたカカシは入って来た少年に場所を譲った。
カカシも巻物を見ていたのだ。
少年はカカシが場所を譲ってくれたのを見てとると、にこっと笑った。
「ありがとう。キミもアカデミーで使う巻物を?」
ううん、とカカシは首を振った。
「見てただけ」
ふうん、と少年は曖昧に頷くと、目的の巻物を探し始めた。
少年の目にはカカシはまだ小さくてアカデミーにも入っていないように見えた。
きっと、忍者に憧れた小さな子供が忍具を見に来ているんだ、と少年は勝手に考える。
昨年アカデミーに入った少年は、昨年アカデミーをさっさと出ていたカカシとは入れ違い
だった為、その姿を見ていなかったのだから無理も無い。
ちなみにカカシはアカデミーに入った途端に卒業したのに等しい。
「あ、ちょっとキミ…首回りを測るのを忘れたよ。こっちに来てくれないか」
声を掛けられたカカシはするりと少年の横を抜けて店主のもとに行く。
(…え…?)
少年は少なからず驚いた。
この店は古く、木の床は歩くとギシギシと鳴る。どんなに小さな子供が歩いたとしても、
無音で移動する事は出来ない筈だ。
なのにあの銀髪の子供は全く足音をさせないで歩いて行った。
(み、見事な抜き足…っ!!)
試しに少年はそっとカカシが歩いた床の上を歩いてみた。無論、慎重に抜き足で。
ぎし。
少年はがくりと肩を落とす。
(ボ、ボクの方があの子より重いのだとしても…っ…)
「坊や、やっぱり胴衣の巻物ホルダーは左右に二つずつしかつけられないけど、どうする? 
小さなホルダーにして、本物っぽく三つつけるかい?」
カカシは首を振った。
「わかってる。二つでいいです。巻物が入らないんじゃ意味が無いから」
「そうかい? ああそうだ。額当てはいいのかい? 注文に入ってなかったけど」
店主は一応訊いてみただけであった。
分不相応な格好をしたがる子供に対するちょっとした意地悪なお灸のつもりだったのかも
しれない。
たとえごっこ遊びでも、下忍になっていない者が額当てをする事は許されないのだ。
子供が中忍の格好をしても可愛い仮装で済まされるかもしれないが、額当ては別だ。
あれは単なる忍具ではなく、『証』なのだから。
「あれはいいです。…持ってるから」
は? と店主。
「坊や、幾つだい」
「6歳」
少年はバッと店主とカカシの方に視線を投げた。
少年も6歳だったのだ。
そして、年上の者に混じってアカデミーで授業を受けている。来年には卒業試験も受ける
つもりだ。
彼には、同い年の子供達に比べて自分は優秀なのだという自負があった。
「それで額当て持ってるの? あ、さっきのお兄さんのかな。ダメだよ、あれだけは。貸
してもらっても、しちゃいけない」
小さな子供に、真面目な面持ちで店主は諭した。
この木ノ葉で忍具を取り扱っている以上、見過ごしていい事と悪い事があるのだ。
「自分のを、持ってます。…ちゃんと火影様に頂いた」
店主も少年も目を丸くした。
「え? 火影様に?」
「…アカデミーは去年出たから。下忍として頂いた」
「それで、今度は中忍だものね。親父さん、子供の遊びで着る物を注文したわけじゃない
んだよ。だから、しっかりと実用に耐える物を作ってね。でないとこの子の命に関わる」
カカシ以外の二名は一瞬息を詰めた。
青年が店内に戻って来ているのに全く気付かなかったのだ。
それこそ、少年の何倍も体重がありそうな長身の青年はこそりとも足音をたてていない。
だが、少年にショックだったのは彼のセリフの方だ。
―――中忍。
この、自分より小さく見える、実際は同い年の華奢な子供が…中忍。
少年はショックでグラグラした。
店主の方は、急にすっと冷静な表情になって頷く。
「…承知致しました。しっかりと作らせて頂きます」
「この子はまだ成長期だから、ちょくちょく新しいのを作ってもらう事になると思う。…
だから、よろしく」
「はい。では、肩のホックと前のファスナー部分で少し調節がきくようにしましょう。1
〜2年は持つように」
「それはありがたいね。…で、カカシ。欲しい物、見つけた?」
カカシはうん、と頷いた。
「あそこの小刀がいいです。…大きな忍刀はまだオレの腕の長さに合わないから」
「ああ、あれ。いいね、私もあれがいいんじゃないかと思ってたんだ。…親父さん、あそ
この小刀も頂戴」
「かしこまりました」
そのやり取りを、少年は黙って見ていた。
銀色の髪した小さな「カカシ」は、自分がまだ焦がれているだけの世界にもう身を置いて
いるのだ。
先程までは、自分の方があの子より先輩なのだろうと勝手に思っていた。
だが現実は。
『天才』という単語が浮かんだ。
そうだ。
カカシという子供はおそらく天才なのだ。忍として。
6歳で中忍に昇格するほどの。
少年はぎりっと拳を握った。
少し動く度に足の裏で音を立てる床が恨めしい。
「先生は御用が済んだんですか?」
「うん、済んだ。じゃあ帰ろうか」
少年の前を、背の高い青年と、彼の弟か子供にしか見えない「カカシ」が通り過ぎて行く。
少年は唇を噛んだまま彼らを見送った。
「ありがとうございましたー…またごひいきにー」
店主は、出て行った二人をずっと見送っている少年に気付いて微笑った。
「キミは? 捜し物あったかい?」
少年は我に返った様に、慌てて二人の背中から目を引き剥がした。
「…これ…お願いします」
手にしているのは、アカデミーで使う初級用の巻物。
思えばあの子は、もっと高位の巻物を見ていたようだった。
「あいよ。……なに、今の子が気になる? 気にしなさんな、あんなのは例外中の例外さ。
…思い出したよ。噂で聞いた事がある。小さいのにすごく強い、天才的な子供がいるって
ね。…あんな、小さな子だなんて…わしはかえって可哀想な気がするよ」
だが少年は店主の言葉よりも「カカシ」の存在自体に気を引かれていた。
自分と同い年の―――中忍。
(ま、負けないっ…いや、今は負けてるけどいつかはあの子に勝つ! ああ、これは運命
の出会いだ! 神様はボクに目標…じゃなくて…そう、ライバルと出会わせてくれたん
だ! ボクはキミの名前を忘れないっ! 忘れないぞカカシ君!)
両手の拳を固く握り締め、何やら気合を入れている少年に、忍具屋の店主はやれやれと首
を振った。
少年―――彼の名はガイ。
カカシの預かり知らぬところで、ガイ言う所の『永遠のライバル』は誕生していた。
そして5年後。
やっとの思いで中忍試験を通ったガイが知ったのは、入れ違いでカカシが上忍になってし
まっていた事だった。やっと同じ土俵で戦えると思ったのに。
「負けないっ! 負けるものかーっ!! 今は二敗だがいつかきっと!! お前に勝つぞ
カカシーッ!!!」
努力の鬼、ガイ。
早熟の天才、カカシ。
ガイがカカシに存在を認識してもらうには、後数年を待たねばならなかった。






「しょおおおおぶだーっ!! カカシィィィ…ッ!!!」
「げええええっ! またお前かーっ」
今日も今日とて、激マユ上忍ガイはカカシに勝負を挑む。
彼との勝負になど興味の無いカカシも、あまり断わって「カカシはガイに負けるのが怖く
て逃げている」などと噂されるのは不愉快なので、三回に一回は受けてしまう。
こうしてカカシにとっては不本意ながら、ガイとの『ライバル』関係が築かれていくので
あった。

これもひとつの運命である。

 



柚柑ヒロ様60001HITリクエスト。
『カカシVSガイ』!!
でもガイが一方的に対抗しているだけ。(笑)
ちゃっかり四代目出してるし。
何でガイがカカシをライバル視しだしたのか。
その発端を一発書いてみました。

ちびガイは、まんまリーの小型版でござい
ましょう・・・

2002/10/8

 

BACK