続・孔雀草の花言葉−OMAKE

(注:カカシさんが バリバリのくノ一『Nightmare』設定です)

 

「………わっるいんだー。…相変わらずですねえ。サクモさんってば時々悪魔なんだから。…あの二人の仲、ジャマしないよ〜みたいなコト言ってたくせに、その舌の根も乾かないうちにシッカリ妨害してんじゃないですか」
「………わざとじゃないよ。カカシがこんな朝から来るとは思ってなかった………つーか」
のそ、とサクモは身を起こした。
「………………………やっぱり出たか、怨霊」
「酷いなあ、ソレを言うなら英霊でしょー?」
ベッドの縁に、金髪の青年が腰掛けて笑っていた。
「………ったく。朝っぱらから出るとは、非常識な幽霊だ………」
「あ、偏見。幽霊は、夜しか出られないワケじゃありませんよ。…って言うか、オレ幽霊じゃないし」
サクモはチラ、と声の主を見た。
足もしっかりあれば、向こう側が透けて見えるわけでもない。死んでいるのがウソのようなリアルさだ。
「………確かに、幽霊にしちゃ図々しいくらい存在感があるけれど。………じゃ、何なわけ?」
ミナトは首を傾げる。
「んー? ………えっと、何だろう。…残存思念………意思? 魂………?」
「やっぱり幽霊じゃないか」
「…そーなのかなあ………」
ぷー、と幽霊はふくれた。
「ヤな感じ。…幽霊って、何か恨みがましい感じ、しません?」
「………そんなコト言ったって、他に分類出来ないんだから仕方なかろう。………で、何でお前はオレが里に戻ると出てくるの。………他の所じゃ出てこないじゃないか」
実は、サクモが里に帰りたがらない理由の一つが、これであった。
四代目火影、波風ミナトの『幽霊』は、何故かサクモが木ノ葉に帰還すると現れるのである。
「え? そりゃあ、オレが木ノ葉を…って言うか、九尾の傍を離れられないだけですよ。あのナルトって子を、人柱力にしちゃった手前、アフターケアくらいしなきゃ無責任でしょう? もしもあの子がマジに九尾に乗っとられそうになったら、助力するつもりです」
サクモはため息をついた。
それでは、一般的な幽霊とは存在理由からして全く異なるモノではないか。
「………そういう理由があったんなら、さっさとそう言いなさい。…オレは、お前が成仏出来ないでいるのかと思って、悩んでたんだぞ。………つまり、あの封印の際そういう仕掛けをしておいたんだな? ………あの混乱の中で、よくそこまで出来たな。…さすがだ」
ミナトは、生前と同じ顔で笑う。
「あ、久し振りにサクモさんに褒められた。嬉しいな」
「…そうだったっけ?」
「そーですよぉ。オレには厳しかったですもん、貴方」
サクモは肩を竦めた。
「…そりゃ、すまなかった。…でも、ちゃんと認めていたんだよ? 知ってただろう」
「………ええ、そうですね。でなきゃ、カカシの事を任せてくれたわけないですもんね。…………ところで、そろそろ何か着ないと風邪ひきますよ?」
「あー、うん………」
サクモは億劫そうに服を拾った。
「…んー…ちょっと飲み過ぎたかなー………」
「お酒は程々にしないと。もうトシなんだから」
自分で言っている事でも、他人に言われると妙にムカつくものである。
「………………何でお前は幽霊なんだ。実体があれば蹴りをくれてやるのに」
「あはは、ゴメンナサイ。…冗談ですよ。サクモさん、昔と変わらない………変わらないで、いてくれてますもの………カカシは、随分変わっちゃったけど。…いや、大人になったって言うんですよね。……思った通りの色っぽい美人になったなぁ。…あーあ、残念」
サクモは、シャツを被りながら振り返った。
「………お前は、知ってたんだろう? あのイルカって子の事」
「んー、何となく、は。………昨夜、貴方が彼を連れてきてくれたから、初めてじっくり見られたってとこです」
「そうなのかい?」
「………オレだって、ずーっと現世を見ていられるわけじゃないですもん。…こうやって『出て』こられる場所と条件って、結構限られていて。生前、自分が行った事無い所って、ダメなんですよね。………ナルトを介せば、たぶんもっと見聞出来ると思うんですが、あの子に近づき過ぎると九尾にオレの存在がバレちゃうし。………だから、カカシに恋人が出来たって何となくわかったけど、どんな男か、までは。………あ、この家に、サクモさんがいてくれるのって、すっごくいい条件なんですよー。オレが馴染んでいるこの場所に、チャクラの波動値がオレに近い貴方」
それでか、とサクモは納得した。道理で、里の中でもミナトが出てくる場所が限られているわけだ。
「…じゃあ、カカシの宿舎とかもダメなんだね」
彼女があの部屋に移ったのは、ミナトが他界してから2年後だ。
「そうです。………まあ、あの子がここに来ても、姿を見せる気はないですけど。…そんな酷な真似、出来ない………」
「………オレはいいのか」
ミナトは申し訳なさそうに俯いた。
「…ごめんなさい。………貴方だって、平気なわけないですよね。……でも、オレもね…たまには誰かと話さないと寂しくて。…このまま消えちゃいそうな気がして怖いんです。………でね、オレが姿を見せても支障が少なそうな人って、限られているじゃないですか。色んな意味で。………自来也先生はぜーんぜん、木ノ葉に戻ってこないしー………だから、つい………」
しょげてしまった幽霊に、サクモは降参したように手をあげた。
「あー、わかった、わかった。………いいよ、好きにしなさい」
ミナトは眼を潤ませた。芸の細かい幽霊だ。
「ホントですか?」
「んー………事情はわかったし、何かもう慣れてきた………」
顔を洗いに行ったサクモはそのまま台所へ行き、コーヒーを淹れ始める。
台所のテーブルには、カカシが持ってきてくれたらしい紙袋が置いてあった。開けると、サンドイッチの包みが見えた。
昨夜の酒の所為か、今はあまり食べる気がしない。これは昼食にしよう、とサクモは紙袋を閉じる。
マグカップを二つ取り出し、コーヒーを注いだ。
「突っ立ってないで、座りなさい、ほら」
ミナトの分の椅子を引き、コト、とその前にカップを置く。
ミナトのカップだ。
自分が死んでもう十数年になるのに、処分されずにいるそのカップに、ミナトは切なそうな笑みを浮かべた。
「………オレのは、いいのに」
どんなに彼がリアルに見えても、飲食まで出来るわけが無い。そのコーヒーはただ冷めていくだけだ。
「気持ちの問題だよ。………オレが、お前にもコーヒーを淹れたいと思っただけだ」
ミナトは、椅子に座った。生きている時と、同じ様に。
「ん。………ありがとう、サクモさん」
サクモはミナトの向かいに腰を下ろし、コーヒーに口をつける。
「………それでまさかお前、オレにしか見えてないってコトは無いよね…?」
さあ、とミナトは首を傾げた。
「どうでしょうか。…カンの悪い人には見えないかもしれませんね。…でも、複数の人間がいるような所では、姿を見せない方が無難でしょう?」
それもそうだが。
「………つまり、ヘタをすればオレは一人で喋っているアブナイ奴なわけ…?」
「あはは。………そうかも」
「あはは、じゃないよ。…もう」
やはりこれは、自分の幻覚なのではあるまいか。
ミナトがサクモにしか姿を見せていないのなら、これが『本物の幽霊』だと立証するすべは無い。
「それにしても、サクモさんも甘くなりましたねー。…オレの時と、随分条件が違いませんか〜?」
「ん? イルカくんに出した課題のこと?」
「そーですよ」
サクモはゆっくりとコーヒーを飲む。
「………そりゃあ、違って当たり前。あの時はお前もまだ子供だったし、カカシに至っては赤ん坊同然。幼い娘を護る為、柵は高くしておくのが当然でしょうが。……今のカカシの歳を考えなさい。…あの子はもう大人なんだよ? 恋人くらい、自分で選ぶのが当然と言えば当然の話なんだ。本来は、オレが認める認めないの問題じゃない。………でもま、事が結婚となるとね。…忍としての能力レベルが低い男をカカシの婿候補として認めるわけにはいかないんだけど、ヒエイの息子なら、血筋は悪くないし。…彼が中忍だからと一蹴するほど、オレも狭量じゃない。…あのヒエイの術を、正式に伝授されなかったにも拘わらず自力で制御法を身につけたという話が本当なら、一応の才能はあると言う事だしね」
「………うーん、うみのさんの息子かー。………ん〜…まあ、そうですね。それに、いい子みたいだし。…精一杯、誠実であろうとしている姿勢が、好ましいかな。………第一、あのカカシが好きになった子ですものね」
「………寂しい、かい?」
ミナトは、静かに首を振った。
「………………貴方と、同じ気持ちですよ。…あの子がオレを忘れないでいてくれるのは嬉しいけど、死んだ人間に縛られてちゃいけないと思う。新しい恋をして、幸せになって欲しいです。………オレにはもう、あの子を幸せに出来ないんですから」
「………そうか………」
くす、とミナトは笑う。
「オレも、サクモさんをおとーさんって呼びたかったなあ」
「………コメントし辛い事を言うんじゃないよ」
幽霊はひょいと肩を竦めた。
「すいません、つい。………ところでサクモさん、今回はいつまでいらっしゃるんですか?」
サクモは眉間に親指を当てた。考える時のクセだ。
「………さて、ね。………実は、外での区切りはつけてきた。…もう、オレの力は要らんだろう。………と言う所で、そろそろ年貢の納め時………かもな。ヒルゼン先生も、ご高齢だし」
ミナトは眼を見開いた。
「………って事は、とうとう請けてくださるんですか! 五代目襲名」
「………お前の跡目だというのが忌々しいが、仕方あるまい。…いつまでも逃げているわけにもいかないだろう。………次、三代目が言い出したら、請けようと思う」
「うわあ、じゃあ今夜あたり、三代目の夢枕に立とうかなー」
こら、とサクモは幽霊を睨んだ。
「余計なコトするんじゃーないよ」
「え? だって幽霊っぽくていいじゃないですか。たまには、ソレらしい事もしなきゃ」
「…朝っぱらから寝ている人間にちょっかいを出す幽霊が、何をほざくか」
「………夜起こした時、安眠妨害ってすっごく怒ったくせにぃ………」
「当たり前だ!」
と、フッとサクモは視線を動かした。
ミナトも同じ方向を見ている。
「………サクモさん、また後で」
そういい置いて幽霊が姿を消すと同時に、玄関の戸が控えめに叩かれた。
サクモが戸を開けてやると、黒髪の青年が申し訳なさそうな顔で立っていた。
「………先程は失礼致しました。………あの、カカシさんにはまだ話を聞いてもらえなくて………。でも、事情はきちんと説明しますから!」
「うん………いや、もしかしたら、ちょっと時間を置いてあの子が冷静になるのを待った方がいいかもね。…大丈夫、落ち着いて考えたら、あり得ないコトなんだから」
そうですよね、とイルカは微苦笑を浮かべる。
「では、俺はこれからアカデミーで仕事がありますので、失礼致します。…昨夜は本当に、ありがとうございました」
青年は深々と頭を下げ、サクモの元を辞していった。
「………律儀なコですねー。可愛いなー………」
はあ、とサクモはため息をついた。
「お前はまた間髪入れずに現れて………」
再び現れた幽霊は、悪戯っ子のように微笑う。
「でも、サクモさん。………ホントーに、『あり得ないコト』だって思ってます?」
「………何が言いたい」
「えっと、…昔取った杵柄………?」
サクモはギロ、とミナトを睨んだ。
「………そうだ、思い出した。…お前、カカシにある事無い事吹き込んでくれたそうじゃないか………?」
「えー、何の話ですか〜?」
「いいから、来い。………詳しい話を聞かせてもらおうじゃないか」
ピシャン、と玄関の戸が閉められる。

木ノ葉の空はまだ、平和に晴れていた。


(09/05/27)



END

 

………マジでやりたい放題ですみませ………;;
パラレルです、パラレル………


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