さんまうまうま
………高い。 何だ? この値段は。 オレは、スーパーの鮮魚コーナーで思わず仁王立ちになってしまった。 いつの間にサンマは高級魚の仲間入りを果たしていたんだ。 いやいやいや、マテ。 ちょっと前のニュースで、今年はサンマが不漁だから高いのだと言っていたじゃないか。 その所為だ。 ………ううむ、残念だ。 オレは自分の好物が安上がりなことを、(何故か)自慢に思っていたのに。 …………………………。 落ち着け、オレ。 良く考えろ。冷静にな。 高いと言っても、いつもより少〜し高いだけじゃないか。 いつもがすっげえ安いんだから、大したことは無い。 一匹五百円を高級魚とは言わないぞ、うん。 でも二人分だと千円か。 ………………やっぱ、たけーよ。 晩飯のおかずに千円もかけられっかい、貧乏学生なんだから。 そうさ。 何故さんまにこだわる? 小学校の卒業文集に『好物はさんまの塩焼き』なんて書いてしまった所為か?(我ながらジジくせえ小学生だな) 別にいいじゃないか。 さんまなんか食わなくても。 「………鮮魚売り場で何やってんだ? 牛乳はどうした」 と、野菜コーナーを回ってきたイルカが呆れた声を出した。 あ………そっか。オレ、「ちょっくら牛乳取ってくる」つうて、イルカさんから離れたんだったっけ。 その途中、お魚コーナーに引っ掛かっていたわけで。 「あ、わり。…何でも無い。そう、牛乳だよな、ミルクミルク………っと」 誤魔化そうとしたが、イルカはオレが何を見ていたか気づいてしまった。 「………サンマか。やっぱ今年は高いな。…あ、イワシは安いな。豊漁って本当だったんだ」 「…じゃあ、イワシにする? 晩メシ」 うむ。サンマにこだわんなくてもいいんだよ。イワシだって、ウマイもんな。 プッとイルカが噴き出した。 「なぁに遠慮してるんだよ。お前、サンマ好きじゃないか。旬のものだし、食いたいならそう言えよ。………誕生日のご馳走にしてはショボイけど」 ………………………あ? ………あ、そっか! 「今日、15日………か」 「何だ? 呑気なヤツだな。カレンダーくらい見ろよ」 クスクス笑って、イルカはサンマを手に取る。 「本当にこれでいいのか? 食べたかったら、ビフテキでもいいぞ?」 「んにゃっ! さんまがいいです」 そっか、とイルカは笑っている。 見れば、カゴの中にはちゃんと大根とスダチが入っている。イルカは始めからサンマを焼いてくれる気だったんだ。 「ちゃんと赤飯も炊いてやるからな」 「えええ? 赤飯〜? 待てよ、いーよ普通のメシで」 赤飯だなんて、大袈裟な。 「もう炊く準備したから。………いいじゃないか、お前が生まれた日だ。俺なりに目一杯祝ってやる」 と、イルカさんは意味深な流し目。 うげ、なんでこうエロい顔すっかな、コイツ。 あー、動揺すんなオレ。落ち着け。 「………じ、じゃあ期待しちゃおっかな」 ―――ベッドでのサービスもな。 「実は、ケーキももう頼んである。特注で」 「え? マジ?」 そして、美味いさんまと赤飯で祝ってもらった後出てきた、やけにデカいケーキの箱を開けてみたならばさ。 「すっげ………」 なんと、いかにも誕生日のお祝いだ〜って感じのホールのショートケーキだったのだよね。 ご丁寧に、『カカシ君お誕生日おめでとう』って書かれたチョコプレートまで刺さってるやつ。 ウチは二人しかいない上、イルカは甘いものそんなに食わないのに。 ………イルカは、知ってたんだな。 オレが、ガキの頃からこういうケーキに憧れていたのを。 おばさんの所でも、誕生日にはケーキくらい買ってもらえたけど、イトコ達とケーキの好みがバラバラなので、あそこんちではホールで買ったりしなかったから。 そんでもって、ケーキをよくよく見たオレは、『特注』の意味を悟った。 ケーキを縁取るクリームが、魚の形をしている。………これって、サンマ? いや、ここまでサンマが好きなわけじゃ………と、イルカの顔を見たら、悪戯っぽい笑みが返ってきた。 意外と、こういう悪戯っぽい洒落が好きなんだな、コイツってば。ウケ狙いつうか。 「おめでとう、カカシ」 「………ありがと。すっげー嬉しいよ。………サンマケーキ。写真、撮っとかなきゃ」 そう言いながら、何だかお腹の底から笑いが込み上げてきて、オレは笑い転げてしまった。 そして、ひとしきり笑った後。 オレは生まれて初めて、自分の為だけに作られたケーキを食べたのだった。 気の毒に、クリームでサンマを作れと言われたケーキ屋さんは、さぞかし困惑したことだろう。 |
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カカシくん、ハッピーバースディ。 さんま、もう価格は落ち着いてきたみたいですけど。ネタ的に高いままでやらせて頂きました。 2010/9/15 |