夏の終わりに生まれたあなた
夏の名残りの蝉の鳴き声に代わり、秋の虫達が草の間で合唱を始めている。 秋が、近づいていた。 まだ少し歩けば汗が背中を伝い落ち、風呂上りには扇風機が恋しい陽気の日も多いが、確 実に秋は近づいている。 八百屋の軒先に並ぶ果物、野菜の顔ぶれも微妙に変化しているようであった。 「すいか、もう終わり?」 「そうだねえ…もう終わりだなァ。葡萄や梨も、早く食わないと旬を逃すよ」 八百屋のセリフにイルカは苦笑した。 「せっかちだね。まあ、いいか。そこの巨峰もらおうかな…二房。あとね、ジャガイモと 玉葱、にんじんも」 八百屋の親父は「はいよ」と返事をしながら笑う。 「わかりやすいねえ、イルカ先生。今日、カレーだろ」 まあね、とイルカも笑う。 こういう他愛の無いやり取りは好きだった。 とても『普通』でいい。 イルカの足は、何も考えずとも今自分が住まう宿舎に向かう。やっと身体があそこを我が 家として認識したらしい。 カカシと、同じ宿舎。 棟も階も違うが、同じ敷地内で、それこそ『味噌汁が冷めない距離』である。 部屋のカギを開けて中に入り、前に住んでいた宿舎よりも広くて綺麗な台所に買ってきた 食材を置く。 今夜は、忍の里の中でもあまり『普通じゃない』恋人が帰ってくる予定だ。 写輪眼なんて特殊なモノを自分の身体に埋め込まれても(これが強制だったのか本人の希 望だったのか、未だにイルカは知らないが)逞しくそれを活用している男が。 真冬を思わせる冷たい色彩の髪や眼を持っているくせに、まだ夏の暑さをひきずる初秋な んかに生まれた男が。 見上げた壁のカレンダー。 15の数字の上に赤い丸。 「……もうすぐ、あの人の誕生日かあ…」 イルカはジャガイモの皮を剥きながら考えた。 今日はチキンカレーにしようか、ポークカレーにしようか。 「………………じゃなくて」 やはり贈り物は用意するものだろうか。ご馳走も必要か。 イルカは黙々とジャガイモを裸にし、水に浸けてから玉葱を刻み始める。 ……挽肉でも良かったな…カレー…茄子入れて……ああ、にんにくも忘れずに。 二人で食えば怖くない。 「………………でもねえだろ」 どうも思考が現実逃避をはかろうとしている。 恋人の誕生日祝いを考えるのは楽しい事の筈なのに。 「ちくしょう」 みじん切りにした玉葱を鍋に入れて弱火にかけ、炒めながらニンジンの仕度に掛かる。 カカシの誕生日が来る。 「先にトシ食うなよ…ただでさえ俺の方が年下なのに」 流し台の中に、鮮やかな色のニンジンの皮が落ちていった。 「………のは、まあ別にいいけど…」 ふたつみっつの年の差が気になるのは、十代の子供の頃まで。 二十歳越えればそんなもの年の差のうちに入らない。忍にはもっと大きな『差』が存在す るからだ。 大きな塊を嫌うカカシの為に、小さく小さくニンジンを刻む。 はあ、とイルカはため息をついた。 自分はさっきからいったい何を悩んでいる。 イルカにはわかっていた。 恋人の誕生日を祝いたい気持ちはある。 あるのだが。 ダン! とイルカはニンジンのしっぽを包丁で切り落とした。 「………苦手なんだよなあ……そういうの考えるの」 カカシは長い任務明けには自分の部屋より先にイルカの部屋に帰ってくるのが常だった。 イルカの部屋に足を踏み入れた途端、いい匂いが鼻をくすぐる。 聞くまでも無く今夜はカレー。 あっさりした味が好みのカカシも、カレーやラーメンはやはり大好きだった。 イルカにただいまを言って、言いつけられる前に風呂場で任務の汚れを落とし、箪笥から 着替えのシャツを出して、カカシは頭から被った。 箪笥の上から二番目のひきだしはカカシの専用だ。 「…イルカせんせー、オレの生成りの綿パン、洗っちゃった?」 「あー、洗いました。ひきだしに入ってませんか?」 無いんだけど、とカカシはごそごそ捜している。 「あ…間違えて俺の方へ入れちゃったかなあ…すいません、その下のひきだし捜してみて ください」 「はーい。…あー、あったあった。すいませんね、洗濯してもらっちゃって」 「いや、間違えちまってすいません。……もう、カレーよそっていいですか?」 イルカの声に、カカシは嬉しそうに台所に入って来る。 「はーい。もう準備おっけーでーす。腹減ったあ〜…」 「お疲れ様でした。冷蔵庫、冷茶入ってますよ」 「ビールは?」 「ありますが、何か食ってからです。任務中は食ってないでしょ」 ちえー、とカカシはふくれて見せる。 「ビールなんか、酒のうちに入りませんよお」 「飲ませねーとは申してませんよ。どーせカレーお代わりするでしょ。一皿食ってから飲 んで下さいね」 へいへい、と返事しながらカカシは冷蔵庫を開け、中を見てふわんと微笑った。 「…だから好きだよ、イルカ先生」 「ビールが?」 カカシは小さく舌を覗かせる。 「せんせーが」 冷蔵庫の中には、イルカ愛飲のビールと一緒にカカシの好みの銘柄もちゃんと並んでいた。 神経の磨り減るような任務から解放され、重い身体を引きずるように帰り着いた『家』に は、綺麗に洗濯してある着替えと、暖かい食事。自分の事を思い遣ってくれる人の存在。 たかがスーパーの安売りで買えるビールだが、それはイルカの気持ちの象徴に見える。 カカシが喜ぶだろうから、ただそれだけの為に自分には必要ない重いビールの缶を買い物 カゴに入れるという行為。 幸せだな、とカカシは思った。 これ以上望むものなど何もない。 好きだよ、というカカシの唇に、乾いたイルカの唇が軽く押し当てられた。 「…食べましょう? カカシ先生」 「オレのいない間、何か変わったことありました?」 サラダに乗っていたプチトマトをつまみながらカカシは何気なく聞いた。 里にとっての『異変』ならば上から嫌でも聞かされるはずのカカシだから、この『変わっ た事』とは日常レベルの事柄を指す。 「んー? いいえ、特には…ああ、未成年の子達の身体計測と健康診断がありましたね。 ナルトが、背が伸びてたって大喜びしてオレんとこ報告に来ましたから…貴方には、後日 七班の子達の診断結果と身体計測記録が渡されるはずです。それから、来週は二十歳以上 が対象の健康診断ですよ」 「あの年頃の子供は日々でかくならなきゃウソですよねー。ふふ、嫌になりますね。あい つらとすぐに目線が同じになっちまうなんて」 「まあ、まだまだアイツらはガキですよ。あ、しまった。…らっきょうもう無いや…買っ ておくんだったー」 「イルカ先生、カレーじゃなくてもラッキョ食うから…」 「身体にいいんですよ、らっきょうは」 他愛の無い話をしながら、互いに二皿目のカレーを平らげる。 「二十歳以上…つう事は、オレもかー…健康診断。面倒ですねえ…」 「…カカシ先生、最近診断受けていませんね? さては面倒がって逃げてたんでしょう」 カカシは一皿目を食べて『お許し』が出たビールを美味そうにあおる。 「えー、だって自分の不調なら自分でわかるでしょー? それに…」 カカシはチロ、とイルカを上目遣いに見る。 「イルカ先生が触診してくれてるじゃない…? 夜」 は、とイルカは息をついた。 確かにカカシに『異常』があれば即気づくだろう程、アレの時は身体中を撫で擦ってはい る。実際、カカシの様子を見て、更に身体に触れれば彼の体調は大体わかるので、イルカ はカカシの負担になるような抱き方はしないように注意していた。 「…触診でわからない病気だってあります。……それに、俺だってそれ目的で貴方に触れ ているわけじゃありませんし?」 カカシはクスクス笑った。 「そりゃそーだ。……このトシでお医者さんゴッコもないよねえ……」 でも、と笑いながら続ける。 「アナタとなら、してもいいなあ…お医者さんゴッコ」 カカシの身体は休息を必要としていた。 おそらく、ここ数日ろくに睡眠をとっていない。 それは彼の表情、話し方、それに触れた身体の体温や肌の感じでわかる。 休ませなきゃな、と思いながらイルカはカカシの上に覆い被さるように身体を重ね、ゆっ たりとした優しい愛撫を与えていた。 カカシはイルカの掌が肌の上を滑っていく心地好さに目を細める。 性的な快感ではなく、もっと違う―――安堵感の伴う心地好さだ。 「イルカ先生…これ…気持ちいいけど……寝ちゃいそう…」 「眠っていいですよ」 「…久し振りなのに……アナタはオレを欲しくはないんですか?」 拗ねたようにカカシはイルカの肩口に歯を立てた。 「齧らないでくださいよ……欲しくないわけないでしょう」 「じゃあ、しようよ」 抱くならちゃんと抱かんかい、とカカシは片膝をちょいと上げてまだパジャマのズボンを 穿いたままのイルカの股間を軽く突く。 「……ッ!」 イルカは息を呑んで微かに顔を歪めた。 「あ…何だ……よーかった。ちゃんと反応してた」 そのカカシのホッとしたような言い方にイルカは眉を寄せる。 「……あのね…素っ裸の貴方の上に乗っていて、俺が何も感じないわけないでしょう…?」 「じゃあアナタ、コレどうするつもりだったんです? オレがあのまま夢の国に一人で行 っちゃってたら」 コレ、とカカシは膝でイルカの息子を突っつく。 「そんなもん、後でなんとでも処理出来ます。……眠いなら寝なさいよ。ここで無理した らその分回復が遅くなるでしょうが」 「オレは〜…眠る前にイルカせんせーが欲しいの〜喰いたいの〜…」 わざと駄々ッ子のように語尾を延ばすカカシに、イルカは苦笑した。 「……でもカカシ先生……」 カカシはイルカの唇にキスした。 「いいから。…離れている間アナタが欲しかったのがオレの方だけなんて寂しいですもん」 イルカは、ああ、と理解する。 カカシが求めているものの正体を。 「じゃあ俺は我慢しなくていいんだ……」 「しなくていーよ。…いらっしゃい。オレを誰だと思ってるんです。……そんなヤワじゃ ないですよ」 本当にもう限界ならば、風呂も食事も飛ばして既にベッドに沈んでいる。 自分から風呂を使って、カレーをニ皿も食べる元気があるのだ。 「……アナタと一戦交えるくらいの余力はありますって」 イルカが、ことさらカカシの敏感な部分ばかりを攻めてくる。 手短に終わらせようとしているなあ、とカカシは思わず苦笑した。 何だかんだ言って、彼はやはり任務明けのカカシの身体を気遣っている。 「せんせー、時間制限ありの連れ込み宿でヤってるわけじゃないんですから〜…」 「は…? せっかちですか? 俺。…すいません、久々で早く欲しくって」 そう言われたら力力シは言い返せない。 「…まーいいですけどお……っって…ッ…ア…アァ…! こらっ!」 会話中にいきなり突っ込むな、指を! とカカシは恋人を睨む。 「……急ぎ過ぎでしょ。…さくさくっと終わらせようなんて、手抜きですよ、手抜き」 「は、すいません。別に手を抜いているわけじゃなかったんですが」 イルカはカカシを早く休ませてやろうと思ってなるべく長引かせないようにしようと思っ ただけなのだが、『手抜き』だと言われてしまってはどうしようもない。 一度カカシの後ろを探ろうとした手をイルカは引っ込めた。 ちゅ、とカカシはイルカの鎖骨にくちづけ、そのままきつく吸い上げて痕を残す。 「アナタがそういう態度ならね、才レにも考えがありますよ』 は? とイルカが問い返す間も無く。 カカシはするっと器用にイルカと身体の位置を入れ替えて彼の上に乗ってしまった。 「ちょ…っ…カカ…うはあっ…」 いきなりカカシに咥えられて、イルカは真っ赤になった。 「じたばたしない。アンタがくれないんなら、オレは勝手に頂きますから」 「カカシせんせ〜……」 情けない声を上げるイルカを無視して、カカシは自分のしたい事を続行した。 最初はおそらくイルカに対する悪戯心もあったのだろうが、イルカの『変化』が面白くな ってきたのだろう。 カカシはその作業に没頭し始める。愛撫というよりは玩具で遊ぶ子供のようだった。 しばらくカカシの好きにさせていたイルカだったが、そろそろ自分の限界を悟ってカカシ の頭に手を掛ける。 「降参です。…カカシ先生、もう…」 その言い方に、カカシは視線だけ上げてにんまりと笑う。 「降参?」 「…降参です」 カカシがロを離した瞬間に、イルカはカカシの腕を掬い上げて二人の態勢を元に戻した。 微かに呼吸を乱し、汗を滲ませている恋人の顔を見上げ、クックッと楽しげにカカシは笑 う。 「最初からそうすれぱいいのに」 「…ノド…渇いた…」 一戦どころか、カカシの所為で勢いがついてしまったイルカがようやくカカシの身体を解 放したのはそれから二、三戦後の事であった。 さすがのカカシもようやく根を上げてイルカにストップを掛けたのだ。 いかにも消耗した顔をしているカカシの頬に手を当てて、イルカは苦笑した。 「…だから言ったのに」 ふん、とカカシは横を向いた。 「いいんです! オレ明日休みですから」 俺は仕事あるんですけど…とぼやきながら起き上がるイルカに、カカシは舌を出した。 「イルカ先生は大丈夫でしょー? オレよりスタミナあるんだから」 「はいはい。…水でいいですか?」 起き上がれないカカシの代わりに、イルカは台所へ向かう。 「……さっぱりしたもの欲しい…炭酸無いですか?」 「ありますよ。焼酎割ろうと思って買っといたヤツ」 コップを取ろうと食器棚を開けた時、その横に掛けてあるカレンダーがイルカの目に入る。 15の上に赤い丸。 「…………」 イルカがコップを持って戻ると、カカシはぼうっと半眼で天井を見上げていた。 「大丈夫ですか?」 「……こういう場合、大丈夫だと答えるべきなんでしょうが…正直ダルいかも」 イルカはベッドに腰掛ける。 「はい。…頭起こせますか?」 「……う〜ん……あ、イルカ先生ついでにサービス。…飲ませて? 口移し」 イルカは眉間に飯を寄せた。 「口移しはいいですが、炭酸を口移しすると貴方は甘いだけですよ? さっぱりしたもの 欲しいんでしょ?」 「………んんん。……いいです。飲ませて」 「了解」 イルカは炭酸を口に含み、カカシのロに流し込んだ。 こくん、と飲み込んだカカシは顔をしかめる。 「…甘い」 「…だから言ったのに」 先刻とまったく同じセリフを繰り返してイルカは微笑った。 「でも、美味い。…ノド渇いてるからかな…イルカ先生、もっと」 「はいはい」 コップの中身を全部カカシに飲ませてから、イルカももう一度ベッドに寝転がった。 「…ねえ、カカシ先生」 「………んにゃ?」 もう眠いらしいカカシは猫の鳴き声のような返事を返す。 「貴方、今月誕生日ですね」 「…………うん………」 カカシのまだ汗でしっとりとした髪をイルカは梳いてやる。 「こういう事聞くのは反則かもしれませんが。……何が欲しいですか? 出来る限りご希 望に添いますよ」 もうあれこれ悩むのが面倒になったイルカは、本人に直接希望を聞く事にしたのだ。 「………ああ、誕生日に………? ふふ、考えた事も無かったな………」 カカシは目を閉じて、口許に微笑を浮かべる。 そのまま寝入ってしまうのではないかとイルカが思い始めた時、ようやくカカシはロを開 いた。 「………ベタで申し訳ありませんが………下さると言うのなら、アナタが欲しいな………」 「俺……ですか?」 そう、と微笑みながらカカシは薄っすら目を明ける。 「誕生日祝いという事で特別に。………イル力先生、兵糧丸二人分手に入れてきて下さい。 それでもって、二十四時間ベッドでお祝い」 ヒクっとイルカの咽喉が奇妙な音を立てた。 「…マ、マジっすか?」 「だって、クスリでも使わなきゃオレ体力持たないから………アナタと違って」 「俺だって普通の状態で二十四時間もヤリ続けなんて出来るわけないでしょーが! 死に ますって! ってか、無茶ですソレ!」 真剣に抗議するイルカに、カカシは笑った。 「だから二人分って言ったでしょ?」 (二十四時間耐久レース…じゃなくてセックス? …何つーこと言い出すんだろうこの上 忍は………) 「カカシ先生、いくらなんでもそれは…」 「アナタが状態見ながら加減すりゃいいだけの話です。誰が挿れっぱなしにしろと言いま した。……とにかくオレは誕生日のその日、一日中アナタとイチャコラしていたいだけ。 望みはそれだけ。…ご馳走も贈り物も要りません。……それともアンタ、自信無いんです か?」 何の自信だ、とイルカはため息をつく。 「………もっと普通のリクエストしてくださいよ…」 カカシはぷっとふくれた。 「じゃあ、いらない。………何も要りません。ケーキなんか買ってきたら殺すよ」 ああ、拗ねてしまった。 イルカは白旗を揚げざるを得ない。 「………わかりましたよ。兵糧丸、手に入れてくればいいんでしょ? んでもって、飲み 物冷蔵庫に用意して、新しいシーツベッドにセッティングして、ドアに二重鍵かけて電話 のコード抜いて、俺はアカデミーに休みの届けを出す。…それでよろしいでしょうか」 カカシはパショパショ、と手を叩く。 「よく出来ました〜完璧ですねえ。さすが段取りの鬼。……ふふ、楽しみだなあ、誕生日」 ふあ、とあくび。 「おやすみ、イルカせんせ……」 「……おやすみなさい」 カカシは墜落するように眠りに落ちる。 あ、いけねえ身体拭いてパジャマ着せるの忘れた、と思ったが、もうイルカにもあまり余 力は無かった。 カカシの寝息に引き込まれるようにイルカも枕に頭を落とす。 (……面倒がらずにやっぱり自分で祝いを考えれば良かったかな…) まさかああいう返事が返ってくるとは。イルカは内心ヤレヤレとため息をついた。 しかしもうリクエストは受け付けてしまった。 ここはひとつ、体調を万全に整えてカカシのご要望に応えるしかない。 考えてみれば、心の底から勘弁してくださいと土下座で断らざるをえないもっと奇抜なリ クエスト(どんなのだ)でなくて良かった―――金もかからないし。 おまけに、自分も楽しめるのだからこれは果たしてプレゼントと言えるのかも怪しいでは ないか。 イルカはふむ、と天井を仰いだ。 (…やっぱ、ケーキくらい用意しておこうかな。…ああ、買ってきたら殺されるんだったな。 ……じゃあ、俺が作ったのなら文句ないだろ) 実はイルカにケーキ作りの経験は無い。が、幸いこの宿舎の台所には伺故かきちんとオー ブンがあるのだ。 本を見れば作れるはず。 さっきまではカカシのリクエストに腰が引けていたが、やぱり『方針』がしっかりと定ま った事に安堵したイルカだった。 そうなると現金なもので、そのカカシの言う『誕生日祝い』も楽しみになってくる。 今は真面目な教師の顔をしているイルカだったが、元々ナルト顔負けの悪戯小僧だった経 歴の持ち主だ。 どうせならカカシを驚かせてやりたいと、その性癖が頭をもたげてくる。 (…せっかくだから照明とかも凝ってみようか…雰囲気出す為に) それから、何を用意しようか。 イルカはすっかり楽しくなって計画を練り始める。 その横では、自分の『リクエスト』が恋人の脳内でどんどん発展している事も知らず、カ カシが安らかな寝息を立てていた。 当日、己のリクエストをカカシが悔いたかどうかは定かでない。 05/8/19 |
◆
◆
◆