ヒミツの花園−2
里を出て、国境ぎりぎりの町でカカシ達は宿をとった。 食事は、宿に入る前に買って持ち込んだ弁当で済ませる。食堂などに長居をして、誰かと無用の関わり を持ちたくなかったのだ。見目の良い女性の二人連れとなれば、用心に越した事は無い。 「うーん、任務で無かったら下のバーで飲めるんだけどなー」 「そしたら、男共が貴方に群がってきてしまいますね」 イルカは、くすくす笑いながら部屋に備え付けのお茶を入れていた。 「はい、カカシ先生…お茶」 「あ、どーも」 姿は美女でも、カカシの口調は変わらない。 イルカはやっとスカートでの立ち居振舞いに慣れてきたらしく、裾に気をつけてベッドに腰掛けた。 「イルカちゃんもメイク変えて、もっと大人っぽい服着たら男が一ダース釣れますね。そのままでもじゅー ぶん可愛いけど。…それ、誰なんです?」 「そのイルカちゃんっての、やめて下さいよ。…これ…俺の母親の…若い頃イメージしたんですが…… どーもさっき鏡見たら違うような気がするんですよねー。理想入っちゃったかなあ、あはは」 「あはん…母親。…それで、不自然じゃないんだ。…面影、残っているんですよね…貴方の。イルカ先 生、いい選択です。貴方のチャクラは安定しているから火影様の術が無くてもそうそう変化が解けるは ずがないと思うんですが…肉親の面影なら維持しやすい」 イルカは照れてぽっと頬を染めた。姿が少女なので、可憐な事この上ない。 (……イルカ…自分の今の姿もっと自覚しないと…アブナイ……) カカシは内心ため息をついた。 「カカシ先生は? どなたかの姿を写したんですか?」 「あ、これ? いえ特に…単に女に変化しようと思っただけです。髪とかは多少長めにしてみましたが。 前に変化した時、結構美女っぽくなったからこれでいーやって」 「…つまり、カカシ先生が女性だったらそんな姿だったわけですか? うわ、すごいなー。…きっと、モ テモテですね。……俺なんか、相手してもらえなかったりして」 カカシはよいしょ、とイルカの隣に腰をおろした。 「…イルカの好み、オレみたいな女じゃないくせに」 「いえ、すっごいキレイだから、何か畏れ多いって感じ……」 イルカが言い終らないうちに、カカシの唇が重なってきた。 「ん……」 いつもよりふわりと柔らかい唇に、イルカの胸は鼓動を早めた。口腔にカカシの舌が入ってきたところで 我に返る。 「む―――――ッ! だ、駄目ですよ…こんな…」 「え? いいじゃないですか。変化していようが、オレはオレだし、イルカはイルカでしょ? いつもしてい る事じゃないですか」 「いやその……あっ!」 ぽふん、とベッドに倒されたイルカは慌てた。 「せんせ、に、任務の話は……」 「込みいった話じゃないから、寝物語に聞かせてあげます♪」 カカシの手がイルカの手を取り、自分の胸に押し当てた。 「ちょっと…そんな…」 イルカは掌に女性特有の弾力のある乳房の感触を感じて真っ赤になる。男の体のままだったらこの誘 惑には耐えられなかっただろう。 「やめて下さいってば! 二重に倒錯してますよ! これ」 「大丈夫、火影様の術のおかげで、どんなに意識ぶっ飛んでも変化解けませんから。滅多に体験できま せんよ? 女同士っての」 「そーゆー問題じゃないでしょー! 任務中ですよ!」 「イルカと二人っきりで泊まっているのに、何も出来ないなんてつまんない」 カカシは拗ねたように眼を眇めた。ふと、その眼が悪戯っぽく光る。 「…そういや、ナルトが言ってましたっけ…イルカ先生、お色気の術に弱いって…」 イルカはがばっと上半身を起こした。 「あれは! 変化の術で俺に化けるように言ったのに、あいついきなり素っ裸の女の子に化けたんですよ! び、びっくりしただけです!」 「…不意打ち、だまし討ちは忍者の常套手段でしょ? 何があっても冷静に…そう生徒に教えてきたんじゃ ないんですか?」 カカシは身を起こして背中のファスナーを下ろした。身体をぴったりと覆っていたワンピースが生き物のよう にするすると滑り落ちていく。ビスチェに包まれた白い豊満な胸が現れた。 イルカは眼のやり場に困って目を逸らす。 「純情サンも可愛いですけど、イルカ先生。いい機会です…こんなモン、見慣れりゃなんてことないんです よ。ほら、眼を泳がせていないでちゃんと見なさい。他の女の胸を見るよりは恥ずかしくないでしょ? オレ は元々男なんですから」 イルカはおずおずと視線を戻す。カカシの優しい顔に、イルカの表情も和らいだ。 「実はブラなんてオレも慣れていないからきついんですよね。…ほどくの手伝って下さい」 後ろを向いたカカシの背中にイルカはそろそろと触れた。ビスチェの留め具を一つずつ外していく。 「はー、楽になった…女の子って大変ですよねー。胸はこんなもんで締め付けなきゃなんないし、妙な男は 撃退しなきゃなんないし」 カカシはくるりと向き直った。白い乳房に淡い桜色の突起。 今度はイルカは視線を逸らせなかった。そのバランスが芸術品のように美しかったので。 頬も染めずに自分の胸を凝視しているイルカに、今度はカカシの方が恥ずかしくなってくる。 「…イルカ……?」 イルカはホ、と息をついた。 「……綺麗ですね…」 「そう…ですか?」 「ええ、とても…何か…いやらしさがまるで無くて…綺麗です。とても……人間の美しい体は、天の贈り 物のようですね」 それは、見るイルカの方が純粋な眼を持っている所為だろうとカカシは思ったが、口には出さなかった。 「…イルカの身体も見たい…」 イルカは恥ずかしそうに両手を顔の前でぱたぱた振った。 「だっ…だめですよーそんな…」 「なーんで。いいじゃないですか」 「いやその…カカシ先生みたいに大きくも綺麗でもないですよ…見たって……」 「……オレに脱がせて欲しいんですか?」 カカシがにっこり微笑むとイルカは引き攣った微笑みを浮かべた。 「じ、自分で脱ぎます…」 上半身裸の美女に脱がされる図、というのは一歩間違えば喜劇である。イルカが少女の姿の分、物 凄く危ないが。 イルカは薔薇色のノースリーブブラウスのボタンを外した。やはり途中で恥ずかしくなり、後ろを向く。 ブラウスがベッドの上に落ち、身に付け慣れない下着を外すのに苦労している様子のイルカに、カカシ が手を貸す。 「はい。外れましたよ。…楽になったでしょう」 「ありがとうございます。ほんと、外すとわかりますねー」 「…こっち向いてくれないんですか…?」 カカシの声に、イルカはゆっくり顔だけ振り返った。 「…カカシ先生…これ、俺の身体ですよね…? …母さんじゃ…なくて…」 イルカの迷いの原因の一つはそれだったか、とカカシは少し納得した。 「…当たり前です。言ったでしょう? イルカはイルカ。変化していても貴方に変わりは無い。あくまで も貴方はお母さんのイメージを借りただけじゃないですか」 「…そう…でした」 イルカははにかんだ笑みを浮かべて、カカシに向き直った。 自分で言った通りカカシよりは幾分小さい乳房だったが、それは比較の問題で、普通に見れば充分 豊かで形のいい胸だ。 「…胸って、結構個人差あるんですねー…パーツ的には単純なものなのに…」 「イルカ先生、そんなにいっぱい知っているんですか?」 「……あの…俺だって一応男ですから…その手の雑誌くらい見た事ありますよ…ナマはそれ程知りま せんが。じっくり鑑賞した事ないですし」 「ハハハ、そうかー…んじゃ、好きなだけナマを鑑賞して下さい。オレも眼福です。…イルカ先生も綺麗 な胸ですよ。自分のもちゃんと見てみなさい」 イルカは自分の胸元に目を落とした。 「……やっぱ、カカシ先生の方がキレイ……」 それから、ぷっと噴きだした。 「変です! 変ですよ〜…この会話、やっぱり倒錯してます〜!」 宿のベッドの上で、絶世の美女と可愛らしい美少女が上半身裸で互いを見ていて――しかも二人の実 態は男なのだから、イルカの言う通りそれはかなり『おかしな』図だった。 イルカの笑いの発作がおさまるまでカカシは苦笑して待っていた。 「…イルカ……」 いつもと変わらない、カカシの物柔らかな呼びかけ。目尻に滲んだ涙を拭いながら、イルカは素直に返事 をする。 「はい」 「…イルカ…」 カカシの唇が、妖しくイルカを誘う。イルカはカカシの唇を拒まなかった。 「ン…」 キスくらい、いいだろう。―――キスくらい…… 任務中だ、という意識がイルカの理性が崩れ去るのに歯止めをかけていた。 柔らかな胸が押し付けられ、自分の胸がそれを押し戻す感覚が妙な感じだ。 イルカはカカシの背中に腕をまわした。 「…気持ちいい…」 カカシはうっとりと目をつぶってイルカの首筋に顔を埋める。自分も相手も柔らかくて、すべすべしていて。 抱き合ったままベッドに倒れ込んだ二人は、くすくす笑った。 「倒錯してますよねー」 「クセになったらどうしましょうかね」 「これからも時々変化して抱き合ってみます? 変態じみてんのが快感かも」 「…カカシ先生…」 男同士で抱き合うのが既に変態なんです、とも言えずにイルカは困った顔をする。男のカカシに欲情する 自分は既に充分変なのだと、改めて認識するイルカ。 (―――でも、好きなんだもんなあ…仕方ないよなー…) イルカはちゅっと軽く音をたててカカシの唇にキスした。 「ほら、変でしょ。女の子の俺にキスされるのは」 「そーかなー、オレ、イルカならオールオッケーだけど。…わかりましたよ、心配しなくても変化している間 襲ったりしませんから」 「はい」 「…そうあからさまにホッとした顔されると、襲いたくなりますね」 カカシがいきなりイルカの胸に手を伸ばす。乳房を鷲掴むような乱暴さに、イルカは予想外の痛みを感じ て悲鳴を上げた。 「痛…ッ!」 すうっとカカシの顔が真面目になる。 「…もっと自覚なさい。…貴方は今、こういう身体を持った、男の気を充分惹く娘なんです。…火影様の 術がオレ達の術の上からかけられているという事は、オレ達は自力で変化を解けないんですよ。…痛 かったでしょう? 男にはわからない痛みですよね、それは。…女性の胸は敏感なんですよ」 カカシは謝るようにイルカの薄っすらと指の跡で赤くなった胸に軽く唇を寄せた。 「貴方にね…危ない真似はさせませんから……これは、本当にオレの仕事なんです。…でも、貴方は注 意深いし、眼も記憶力もいい。貴方はいわば、保険です。…オレがしくじって情報を持ち帰れないばかり か、もっとまずい事態になった時の、ね」 カカシはイルカの裸の胸に顔を伏せた。イルカはカカシの肩から流れ落ちて自分の腕もくすぐる銀の髪を そっと撫でた。いつも、彼を抱いている時と変わらない丁寧さで。 「……それが、今回の俺の任務ですか…?」 「最悪の事態が起きたと貴方が判断したら、事後処理と報告、お願いします…」 それ以上詳しい事はカカシは告げなかった。特別ランクA任務。 細部に渡って中忍のイルカが知る権利は無いし、その必要も無い。しかし、人選がカカシの我が侭であ ったのは本当だとしても、カカシはイルカを信用して指名したのだ。 その信用には応える。木の葉の忍者の誇りにかけて。イルカは静かに自分に言い聞かせた。 「了解しました。…俺は、自分の身を自分で守り、何があっても里に帰還します」 「よろしい」 カカシはくす、と笑いを漏らした。 「ね、久し振りに一緒に風呂、入りませんか? 温泉と違って狭そうですけど」 「…いいですよ。背中、流して欲しいんでしょう? 男二人で入るより狭さ加減違うでしょうし」 「やーった!」 「その代わり、エッチな事しないで下さいよ」 「お約束します。お風呂で悪さは致しません」 神妙に手を上げて宣誓するカカシに、イルカは笑った。 とぷんとお湯に浸かったイルカはふと気づいて問い質す。 極秘で真面目な任務にも拘わらず、どこか緊張感に欠ける道行に何度もイルカは気を引き締めなおさね 木ノ葉の里に彼らが帰還したのは、それから二週間後の事であった。
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ごみんなさい・・・ やっぱ、こんなん、イルカカじゃない・・・? 可愛らしい女の子の方が攻めっつうのも面白いかと・・・まあ、ユリは別に好きとかいうわけでもないんで、キス止まり。^^; カカシ先生の任務状況を細かく書いていると、長編になってしまうので割愛しました。 やっぱイルカ先生は男の方が良かったですかねえ。あっはっは・・・(ごめんなさい、ごめんなさい) 01/2/11 |