Photograpf

 

夢を見た。
夢の中で、これは夢なんだとわかっていた。
だって、あの人がこんなに小さいわけないじゃないか。
アカデミーに入ったばかりの期待と不安の入り混じった初々しい子供たちの顔の中に、見知った雰囲気の顔が交じっている。

その銀色の髪の、不機嫌な顔をした子供がふいに愛らしい笑みを浮かべてこちらを見上げた。

 

 

初めてイルカがカカシの住まいを訪ねたのは、昨日のこと。
カカシはさんざんイルカの住まいに入り浸っていたが、何故か、なかなかイルカを自分の方に呼ぼうとはしなかったのである。
昨日、イルカの住んでいる宿舎に害虫が出たとかで、建物中に駆除の為の薬煙が焚かれ、とてもではないが落ち着けない状態になってしまったので、カカシはやっとおずおずと「じゃあ、ウチに・・・」と言い出したのだ。

「だって、イルカ先生のうちに比べたら汚くて恥ずかしかったんですよ〜・・・」
招待が遅いと自分でも思っていたのか、カカシはぼそぼそと言い訳をしていた。
「これでも、少しずつ片付けたんで、ちっとはマシになったんです。すいません、まだ散らかっていて」
「いえ、そんな事ないですよ。散らかっているっていうのは、もっとこう・・・・・・」
イルカは言葉を捜して言いよどんだ。
独身の男が無精で自室を散らかすというのは、もっと生活感があるものである。
洗濯していない服が山になっているとか、台所が目を背けたくなる状況になっているとか、雑誌が散乱しているとか。
そういう散らかり方とは、どこかが違う。
一応ここで生活しているんだろうな、と思わせる家具類などはあるのだが、どこか殺伐とした雰囲気なのは何故なのだろう。
散らかっていたから一つの所に放り込んで片付けてみました、といった顔で部屋の隅に鎮座している大きな箱から覗いている物体が、武器の類ばかりの所為だろうか。

「こっちの部屋の方がまだマシなんだけど・・・座るとこ、ベッドしかないんですよね。・・・誰かを部屋に入れるなんて、今まで考えた事なかったから・・・でも、イルカ先生はいつか来て欲しかったから、それで片付け始めていたのになあ・・・こう・・・座り心地のいいソファーとか、ここら辺りに置いて・・・って。・・・・・・準備、間に合わなかった」

残念そうに俯くカカシの横顔に、ふとイルカは既視感を覚えた。

――――ごめんね、イルカ・・・間に合わなかったの・・・

祭りに着るはずだった浴衣を当日までに縫えなかった母が、残念そう
な、申し訳無さそうな顔で俯いていた。
里の忍びとして働いていた母は忙しかったのだ。
それでも、イルカの喜ぶ顔見たさに頑張っていたのをイルカは知っていた。

――――いいよ、かあちゃん。俺、去年の着るから。それ、来年の祭りに着る。それまでならかあちゃんもゆっくり縫えるじゃん。

そして、その浴衣はもう永遠に縫いあがる事はないのだ―――

「いいんですよ、俺、カカシ先生のうちなら、床板でもどこでも座ります。
・・・あの、でも・・・お気持ち、嬉しいです」
にこ、と微笑んだイルカに、カカシも表情を緩める。
ベッドがあるその部屋は、なるほど家の中で一番部屋らしい所だった。
起きたままの状態だった上掛けを慌ててカカシは整える。
枕元に写真立てがあるのにイルカは気づいた。

何だかカカシがこんな、自分が写っている写真を自室に飾っているなんて不思議な気がする。

ナルト達と写っている彼。
今の彼。
改めて、イルカが思っていたよりカカシが彼らを慈しんでいるのだとわかって安心した。

見知らぬ子供と、先生らしき男性と写っている彼。
昔の彼。
彼にもこんな時代はあったのだと、妙に安心した。

「これ・・・カカシ先生・・・? うわあ、可愛いですねえ」
イルカは素直に感想を口にする。
リアクションがない。
怪訝に思ってイルカが振り返ると、カカシの顔は珍しく真っ赤だった。

「か、可愛くなんかないですよっ! 可愛げが無いって、皆言いましたからね。・・・それは・・・自戒の為に置いてあるんです!」
どういう自戒かは口にしなかったが、どうやら子供の頃の姿をイルカに見られたのが恥ずかしいらしい。
「え・・・? そうですか? 可愛いのになあ・・・あ、そうか。そりゃやっかみですよ。先生、小さいのにほいほい忍術使えたりしたんじゃないですか? そういうのって、反感かったりしますもんねー」
あはは、とイルカは何でもない事のように笑い飛ばした。
笑うイルカを、カカシは形容しがたい表情で見ていたが、やがて吐息と共に笑みをもらす。
「・・・可愛いですか?・・・」
イルカは微笑んだまま頷いた。
「・・・今は・・・?」
「可愛いって言って欲しいですか?」
イルカの目が、微笑みを残したまま細められる。
「・・・イルカってば・・・結構言いますねえ・・・」
カカシはいつもの余裕を取り戻していた。
すうっと腕を上げ、イルカの肩を軽く押す。
イルカは逆らわず、すとんとベッドに腰を落とした。
のしかかってきたカカシの身体を抱きとめ、そのまま仰向けになる。
自分で口布を下げたカカシの誘いを無視できるわけがない。
イルカはカカシの後頭部に手を添え、唇を重ねた。



「・・・イルカの写真も欲しいなあ・・・」
イルカの鎖骨辺りを唇でくすぐりながら、カカシは上目遣いで見上げてくる。
カカシを身体の上に乗せたままゆっくり背中に指を滑らせていたイルカはそうですね、と小さく呟いた。
「俺も欲しいです。・・・貴方の写真」

よいしょ、とカカシはイルカの身体の上をずり上がり、イルカの顔を真上から見おろした。
「ホントに??」
「・・・今度・・・いえ、明日にでも写真・・・撮りましょうか」
「一緒に?」
「ええ・・・先生さえ良ければ」
カカシは嬉しそうにしがみついてきた。
「イルカからそう言ってくれるなんて思いませんでした♪ 言ってみるもんですねえっvv」
一緒に撮った写真を部屋に飾る。
女性とつきあっていた時だって、イルカはそんな事はしなかった。
カカシの写真もたぶん、机の引出しに大切に入れてしまうだろう。

でも、欲しいと思った。
この人と、共にいた証を。
イルカは黙って微笑むと、カカシの身体を抱き込んで身体の位置を入れ替える。
イルカの意図を悟ったカカシは、覆い被さってきた身体を抱き締めた――

夜中に、ふと目が覚めた。
夢の中で可愛い笑顔を見せた子供が、青年の姿で隣に眠っている。
イルカはそっと青年の髪を指で梳いた。
「・・・・・・可愛いですよ、本当に・・・」
小さく呟いて、目許に唇を落とす。
起こさないように、静かに。

母とは違う愛情だけど。
誰かが自分の事を想ってくれる幸福に、イルカは胸を満たされる。
親とは違う愛情だから。
きっと、自分はこんなにも嬉しい。

いつも余裕たっぷりで飄々としていて。
でも、きっと自分よりずっと繊細で、優しい人。

イルカは、絶対に面と向かって大きな声では言えない言葉を口の中でそ
っと呟き、眠っているカカシをそっと優しく両腕で包み込んだ。

 



 

10000HITいったら、記念に何か書こう。
そう思ったので、10000HITはキリ番にしなかった
のですが―――ネタが・・・浮かばない。
かくして、友人(<NARUTOは知っているがネット
はしていない)にいきなり電話して「何かお題ないか
なー」と、無理やりネタをもらいました。
『イルカの写真を欲しがるカカシ』と、『イルカがカカシ
を包み込む』がお題。
電話で話していたネタを本当に書いたら、カカシ先生
ただのストーカーになっちゃうのでラブラブ風味にしてみましたv<どんな話をしていたんだ・・・(笑;)

曰く、「抱っこされたカカシは気づいているけど狸寝入り。イルカも狸に気づいているけど、知らん振り」だそうです。……いやんv甘々じゃんv

01/1/29

 

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