似た者同士のBD

 

「ねー、アンタって確か、九月生まれだったわよね」
突然紅にそう問い掛けられたカカシは首を捻った。
「……そう言えばそーだったかも…」
上忍の待機所とは別の、準備室。
あまり数が多いとはいえない彼ら上忍師達にも、書類作成やら何やらの仕事が出来る部屋
がアカデミーの一角に用意されている。
そこでカカシは面倒くさいと呟きながらDランク任務の報告書をしたためている最中であ
った。
「やだわあ、自分の生年月日くらいちゃんと覚えてなさいよ…って、やだ、もしかして何
もお祝いしなかったの?」
大仰に眉を顰める紅に、カカシはため息をついた。
「…あのさあ、ガキじゃないんだからさー…ハタチ越えたいい大人が、お誕生日のお祝い
もないでしょうが。何か意味あんのソレ。戸籍年齢なんざ、実生活に何の意味もないっし
ょ」
忍の里は能力重視。
力さえあれば、普通ならアカデミーに入るような年齢の子供に中忍の資格を与えてしまう
ような『里』で、個人の実年齢などあまり意味は無かった。
ちなみに『定年』もない。
能力が衰えなければ、60だろうが80だろうが現役の忍で通る。
「まあ…そりゃあそーかもしれないけどぉ…」
カカシはにま、と笑った。
「紅ちゃんは幾つよ? 確か…」
紅はぎっとカカシを睨みつけた。
彼女の方が自分より年上だと知っての暴言か。
「アンタ! 女性にトシを訊くのは無礼だって知らないの? やだわ、だからアンタ女に
モテないのよ!!」
こういうのは暴言ではないらしい。
所詮、女は『自分が正しい』生き物である。
「……ひっど〜い……オレってモテないんだ〜…そーなんだー…」
しくしくとイジけて見せるカカシ。
「アンタ見た目は結構イケるけど、アヤシイってのと紙一重だし。まあ遠目に見て楽しむ
ならともかく、深くおつきあいするのは遠慮したいかなってタイプよね。怖いもの、何か」
紅の物言いも遠慮が無い。
「怖い? そーかなあ」
「単に遠巻きにした女の子にきゃあきゃあ騒がれてるのを『モテる』って言うなら、充分
モテてると思うけどねー…アンタも」
「…そーなんだー…」
難しいのねー女の子も、とカカシは報告書を眺める。
「それより、何でいきなりオレの誕生日なの? 紅ちゃんには関係ないでしょ」
「ないわよ」
またきっぱりと紅。
「でも、ちょっと訊いてみたかったのよ。…何かお祝いされたなら…何が嬉しかったかな
って。アンタも一応男だし」
はぁん、とカカシは目を上げた。
「…アスマの誕生日でも近いってコト? かーわいいなー…紅」
紅はポッと赤くなった。
「もー! 妙な勘だけはいい男ね! そーよ! 今月なの! ねえ、どうしようカカシ」
「何でそういうのオレに相談すっかなー…身体にリボンでも巻いて、アイツのベッドで待
っててやれば? 喜ぶんじゃない? そーゆーの、イチャパラに書いてあったけど」
げしっと紅のエルボーがカカシの頭頂部にめり込んだ。
「バカじゃないの? そんなワザが通用するのはある程度おつきあいが深くなってから、
それも一定期間よ! あーもー、下世話な男だこと。相談してんだから、真面目に考えて
よ。………もしかしてアンタ、イルカせんせの誕生日も知らないんじゃない? あーらや
だ、彼氏のお誕生日も無視したのかしら、このヒト」
エルボー喰らっても落ちなかった筆がカカシの手からボトッと落ちた。
「…そういや…知らない……」
自分の誕生日を軽視して気にも留めない男が、他人の誕生日を気にするわけがなかった。
だがしかし。
紅の言う通り、世間一般的に『恋人』『友人』の誕生日は、祝うものなのかもしれない。
そう思い至ったカカシはがばあ、と頭を抱えた。
「しまったあ〜〜〜!!! どーしよ、いつだろイルカ先生のっ」
「ホホホ…情報収集は忍の基本なのに、迂闊ね、カカシ。…教えてあげようか?」
「し、知ってんの? 紅」
「身辺の人間に関する事なら調べておくものよ。彼はキバ達の担任だったじゃない」
カカシは白旗を振った。
「さすがです、紅お姐さま。教えて下さい」
「……アスマの事、ちゃんとマジに相談にのってくれるんなら教えてあげる」
情報収集と戦略は別問題なのである。
コクコクと頷くカカシに、紅はニッコリ微笑んだ。




5月26日。
5月26日。
5月26日。
カカシは廊下を歩きながらブツブツと呟いてイルカの誕生日を心のメモに刻みつけた。
「…今年の5月26日。…って、えーと…あ、あの日イルカ先生いなかったよ…確かガキ
共の付き添いで……」
誕生日云々はともかく、自分とイルカの任務関係の日程はきちんと記憶している辺りが、
カカシの脳である。
任務上、期日に縛られる事も多いのだから当然と言えば当然だが、現在を基点に過去未来
合わせて5年分程の細かい日程を記憶しているらしいのが通常の忍とは違う所だ。
過去一カ月分の夕食の献立を羅列してみせて、感心を通り越したイルカに呆れられた事が
ある。
「……付き添いから帰って来たイルカ先生の態度は…いつもと全然変わらなかったよなあ
…オレが誕生日に何もしてあげなかったのを気にするでも悲しむでもなかった…し、がっ
かりした素振りも無かったよなあ…」
感情を押し隠すのも忍の心得ではあったが、イルカは割と喜怒哀楽がはっきりしていて、
任務中でもなければ感情を必要以上に隠したりはしない。
もし、気落ちしたならそれはカカシに多少は伝わるはずである。
「…もしかして…」
カカシは報告書の角で自分の頭をツンと突いた。



イルカの仕事が終わるのを待ち、カカシは彼と並んで帰路についた。
そして、夕焼けを見て眩しそうに眼を細めるイルカに思い切って問い掛ける。
「あのう、イルカ先生」
「はい」
「………つかぬ事をお伺いしますが……センセ、オレの誕生日が先月だって、知ってまし
た?」
一瞬の間の後、イルカの手からドサドサ、と荷物が全部落っこちた。
強張ったイルカの顔がぎこちなくカカシに向けられ、見開かれたその瞳が雄弁に『何です
って?』と問い掛けていた。
「いいいい、いつですかっ」
カカシはぽりぽりと頭を掻いた。
「15日」
「だああっ! 二十日も前じゃないですか!! どーして今頃言うんですよ! 何でその
時教えてくれないんですかーっ」
落ちた荷物を拾いもせず、イルカはカカシに詰め寄る。
「だって、オレ忘れてたし」
カカシはひょいとイルカの荷物を拾い、パンパンと汚れをはたいて持ち主に渡した。
「あ、すみません。……いやあの、その…お忘れになってた?」
「はあ…今日紅に言われるまで忘れてました。今月ね、アスマの誕生日らしいんですよ。
それでアイツ、可愛らしくもクマの喜ぶ事をしてやりたいらしくて、オレに相談してきた
んです」
イルカは成る程、と頷いた。
「紅先生は女性らしいんですねえ…アスマ先生、喜ぶでしょうね」
カカシはじっとイルカを見つめた。
「…やはり、そういうもんでしょうか…」
「…やはり…って……」
「実はその時、紅からアナタの誕生日も教えてもらいました。…オレはアナタの誕生日に
何もしなかった。…アナタ、がっかりしました?」
イルカは妙な物を飲み込んだような顔になった。
「……いや、実は…俺も忘れてたんです……自分の誕生日。両親いる頃から、ウチってあ
んまりそういうのやらなかったから。二人とも忙しい人達だったし。母に余裕がある時は、
俺の好物を作ってくれたりとかはあったかな…父も、十の誕生日に一度だけ小刀を誂えて
くれましたね。…一人になってからは、故意に忘れるようにしていた所がありまして…こ
こ数年は、気づくと過ぎてたって感じで」
イルカは苦笑した。
「でもよく紅先生はご存知でしたねえ。俺のなんか」
「身辺の人間の情報収集くらいはしておくもんだって、オレも怒られました。…でも、や
っぱりそうだったんだ」
「やはり、とは?」
カカシも苦笑する。
「…今年のイルカ先生の誕生日だったって日を思い返したら…アナタ、仕事で留守だった
挙句、帰ってきた時の態度もケロッとしてて普段と全く変わらなかったんですよね。…で、
もしかしたらアナタもオレと同じで自分の誕生日なんか忘れているクチじゃないかと思っ
たんです」
イルカはカリカリと頭を掻いた。
「…はは、お察しの通りでしたね。でも本当に…自分のはともかく、貴方の誕生日くらい
調べておいて……貴方が忘れていらしたのなら尚更…俺が祝いたかった…」
「でもまあ、お互い自分のも忘れてたんだから仕方ないですよ〜…オレだって、今日紅に
話聞いた時はしまった〜って思いましたよ。イルカ先生の生まれた日なら祝う価値はある」
「それは俺だって同じ気持ちですよ。何で貴方の誕生日くらい聞いておかなかったのか」
イルカとカカシは顔を見合わせた。
「この際ですから」
「…ええ。この際ですね」
「初めてお互いの誕生日を知ったぞ記念」
「…名目としては苦しいですが、いいでしょう。合同誕生会ですね」
二人とも、自分のなんかどうでもいいけど相手のなら祝いたいという点で一致していたの
で、すぐに宴会の打ち合わせに入った。
カカシは真剣に眉を寄せる。
「普通、誕生日って言ったら何でしょうか。ケーキ?」
「え? 誕生日って、主役が好きなものを食えるんでしょ?」
「誕生日祝いにラーメン食う気ですかアンタ」
「そんな事言ったら、貴方は秋刀魚ですか? 全然普段通りでしょーが、それじゃ」
二人とも特にケーキなど食べたいとは思っていなかった。
ケーキを買うくらいなら、いつもより高級な酒の方がいい。
カカシはパン、と手を打った。
「よし! とにかく今日はおさんどんナシ! お互いの祝いなんだから、楽をしましょ
う!」
「外食ですか?」
うふふー、とカカシは笑った。
「明日、休養日じゃないですか。しかも連休」
あ、とイルカは声を上げた。カカシが何を言いたいのかすぐ察したらしい。
「でも今からじゃ…」
「大丈夫、何とかなりますよ。思い立ったが吉日です。日延べはしません」
イルカは諦めたように笑って、頷いた。
「じゃあ、ひとっ走りしますかね」
「おー、さっすがオレのイルカ先生! 話がわかりますねー」
「では」


二人は悪戯っ子のように顔を見合わせて微笑うと、そのまま温泉郷に向かって走り出した。

 

 



 

カカシさんのお誕生日は9月15日。
に、青菜は記念SSをなーんも書けませんでした。

9月のBDネタを10月にUPする言い訳が『忘れていた』
ですか。(笑)
彼らのお祝いは、他人が作った豪勢な料理を食べて、
いいお湯につかって、気持ちよくえっちする事らしいです。
向かうは木ノ葉隠れ温泉郷v

02/10/6

 

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