ないしょのハナシ

 

アカデミーの廊下を歩いている時、ふと視線を感じたイルカは振り向いた。
「?」
廊下は無人。
不思議に思ったイルカは視線を巡らせる。
そして、その気配の原因を窓の外に見つけた。

「カカシ先生、まだぁ?」
新人の下忍達には任務が無い時もある。
そして、その空いた日を休日に充ててくれるほど担当の指導上忍は甘くは無かった。
任務の無い日はどの班も大抵訓練だ。
「んー、もうちょっと、な」
今日の訓練のお題は『忍耐』。
ナルト達3人はもう3時間ほど同じ姿勢で座らされていた。
「任務じゃ一晩中同じ姿勢で見張り、なんてのもあるんだぞ。
お前ら今は座れているだけでも楽なんだからな。敵地にいるわけじゃないし」
カカシはと言うと、お馴染みの愛読書を手に、胡座をかいて座っている。
サクラはしゅん、と萎れて俯いた。
ナルトはじっとしているのが一番苦痛だろうに、サスケが涼しい顔をしているものだから必死になって耐えている。
カカシは本の陰で視線を上げ、建物の窓の向こうに知っている顔を見つけて密かに安堵の息を吐いた。


(カカシ先生、どうしたって言うんだろう…?)
ナルト達の訓練をしているらしいカカシの、意味ありげな視線。
『来い』と言っているようにイルカには感じられた。
(まあ、違っててもいいか。…訓練の邪魔ならすぐに引き上げればいいんだから…)
階段を使うのが面倒になったイルカは、踊り場の窓から下に飛び降りる。
そこからカカシ達のいる木陰に向かって歩きだした。

「あ、イルカせんせ」
ナルトが最初に気づき、嬉しそうな顔をする。
「こら、訓練中だろ。座ってろ」
腰を浮かしかけたナルトを、イルカは反射的にたしなめる。
カカシの方を窺うと、彼はイルカをにこにこして見ていた。
その表情に励まされて、イルカはカカシのすぐ脇に膝をついた。
そっと小声で伺う。
「…カカシ先生、何か…?」
「……………」
イルカはその、イルカにしか聞こえない程の小さな声を聞きとって、表情を変えないように努力した。
「…わかりました。ご協力しましょう」
そのイルカの返事に、カカシは申し訳無さそうに微笑う。
そして、本をしまうとパンパン、と手を打った。
「はいはい、注目ー。任務中には思わぬ事態に遭遇する事もある。負傷した仲間を連れ帰ったりしなきゃならん事もあるよなー? 自分一人ならお前らも何とか出来るかもしれんが、自分以外の人間も速やかに移動させる術。これをイルカ先生にお手本を見せてもらうから、よっく見て印を覚える事ー。覚えたら今日は解散。はい、イルカ先生、お願いします」
「失礼します」
イルカはカカシの脇に腕を差し入れ、腕を抱くようにして素早く印を切った。
次の瞬間には、二人の姿は子供達の前から消える。

「……見えた?」
サクラは恐る恐る男の子達の方を窺う。
「うー、イルカせんせ、早いってばよ。よくわかんなかったよー…」
「フン、あれは移動術の応用だ」
「サスガーv サスケくん!」
ナルトは面白くなさそうに鼻を鳴らした。
「オ、オレにだってそれくらいは分かったってばよ! 何か細かい指の動きがよく見えなかっただけで…」
ぶつぶつ言っているナルトを無視して、サスケは立ち上がった。
「解散って言ったよな。…訓練終わりか」
サスケに倣ってサクラも立ち上がる。
「良かったア〜…もーあたし、退屈で〜…何やってんの?  ナルト。訓練終わりよ。行くわよ」
「足が痺れたってばよ! 立てねー……;」
ごろっと座った姿勢のまま横に転がるナルトを見下ろして、サクラは呆れた声を出した。
「……アンタって…どっしよもないわねー…」

 

 

「すいません、せんせー…油断しました…」
カカシはイルカに抱きかかえられたまま、てへっと照れ笑いする。
「やっぱりあの視線はSOSだったんですか」
「良かったです〜…気づいてくれてv」
あの場で印を切ったイルカは、カカシを抱いて二度ほど飛んだ。人目を避けた場所に出たかったからだ。
「いやあ、どーしようかなーって困ってたんですよねー。マジ、助かりましたよ。…足が痺れたなんて、何年ぶりだろー」
両足とも全然感覚ないんですよー、とカカシは笑っている。
上忍たる者、それくらい自分で何とか出来そうなものだとイルカは思ったが口には出さず苦笑した。この人は時々、妙な部分でヌケるのだ。
「血行良くすりゃ治ります。降ろしますよ」
えー、とカカシはブーイングする。
「このままオレんちまで連れてってくれないんですかー?」
このままって…このお姫様抱き状態で?
イルカは眩暈を堪えて辛抱強く微笑んだ。
「安心して下さい。この足、今すぐ俺が治してあげます!」
イルカはカカシを下に降ろすやいなや、カカシの両足からサンダルをさっさと抜き取った。
「わー、何するんです、イルカせんせーっ!」
「こうするんです!」
両手でがっしとカカシの足を抱え、足の裏をつかんで乱暴に揺すり始める。
「あれ〜っ!いや〜っご無体な〜っ…やめてえええ〜〜…」
「ヘンな声出さないで下さいっ!」

 

 

その頃、サスケの手によってナルトがカカシと同じ目に遭っていたのは言うまでもない。

 



イルカと違って、サスケの治療(?)は、愛もへったくれもないただのイジメに近いかも。

何が「ないしょ」かって・・・そりゃ、子供達にはないしょって話、いっぱいありますもんねえ・・・

01/3/1

 

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