玄関の戸が開く音がする。
「イルカせんせーい、ただいまです〜」
ん、よしよし。
無理して『元気です』を演じている声じゃないな。
今回はちゃんと余力を残して帰ってこれたようだ。
「はい、お帰りなさい。お疲れ様でした」
「あー、お腹空きました〜………イイ匂いですねー。ええと、カボチャの煮つけ?」
「甘露煮です。今日、冬至ですから。お風呂先に入ってらっしゃい」
うあ〜い、と間延びをした声で返事をしたカカシさんは、ずるぺたと足音をさせて風呂場へ行った。
彼は最近、このウチでは抜き足をしなくなったようだ。
上忍としてはどーよ、と思うが…まあ、俺の傍でなら気を抜くことが出来ると言うなら、何だか嬉しいし………いっか。
カボチャの他にはブリの照り焼きに、ほうれん草のおひたし。
豆腐とお揚げの味噌汁。
冬瓜のそぼろ餡かけは、最近のカカシさんのお気に入り。
うむ、こんなモンだろ。ヘルシーだ。
「あ」
そうだ。注意しておくのを忘れた。
俺は慌てて風呂場に向かう。
「カカシさん、湯船ン中、柚子入ってますけどね。揉んだらいけませんよ。傷でもあったら、盛大に沁みますよ!」
と、言いながら風呂場の戸を開けると、ものすごくイイ匂い。
そして、涙目のカカシさんが湯船の中でこちらを振り返った。
「………遅かったデス。イルカ先生………」
俺は黙って風呂場の戸を閉めた。
………そうか、揉んだか。
気持ちはわかる。
いい匂いだから、つい揉みたくなっちまうんだよな………柚子。
でも、アレは傷に沁みるのだ。
泣くほど痛かった…………ってことは、傷があるんだな。
風呂から出てきたら、全身チェックしてやろう。
ああ、台所まで柚子のいい匂いがする。
ヤケになって、柚子揉みまくってんじゃないだろうな、あの人。
俺はその様子を想像して、ひとり笑う。
この分では、肌に匂いがしみつくんじゃないだろうか。
肌から、天然の柚子の香りがするカカシさん。
―――いいねえ。
今夜が、楽しみだ。
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………このネタなら、忍者でやれる!(笑)
というか、傷があって柚子湯が沁みちゃうなんてネタはやっぱ忍者の方がしっくりきますよね。
柚子の匂い、好きです。
(09.12.22)
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