+++ ゆきだるま +++

  

「どぅわっ!」
一瞬、布団の中にデカイ氷嚢でも突っ込まれたのかと思った。
氷モドキはもぞもぞと動く。………コレは、やっぱり。
「………カカシ…先生?」
「…………………………ごめんなさい。冷たかったですよね」
何で? どうして…?
確か、ゆうべ一緒に寝たはずだ。
いったいいつの間に抜け出して、そして何処に行っていたもの
やら。
この冷え方からすると、聞くまでも無く彼は外に行っていたん
だろう。
―――まさか、任務?
苦いものが胸にこみあげる。
そうと知っていれば抱いたりはしなかったのに。
そっと髪に触れると、ひんやりと冷たくなって、しかも少し濡
れている。
血臭はしないから、彼自身は無事なのだろう。
いや、任務と決め付けるのは早計か。
「カカシ先生? いったい何処へ………」
「…え…えっと、ちょっと外に」
「外はわかりますが。…ウチの中でこれだけ冷やそうと思った
ら、冷蔵庫に入らなければいけませんからね。…指、氷みたい
ですよ」
死体のように冷たい指先を両手で挟んでごしごしと擦ってやる
と、やや生きている人間らしい感触に戻ってきた。
「ちょっとウチの外、ですよ。…もう少し明るくなったら、見
に行ってください」
は? 見に行く??
「………何を、です?」
カカシさんはくすくすくす、と笑って冷たい鼻先を人の首筋に
押し付けてきた。
「見れば分かります。起こしちゃってごめんなさい。…ね、も
う少し寝ましょ?」
どうやら、任務などではなかったらしい。
では、こんなに冷えるまで外で何をしていたのだろう。
こよなく暖かいフトンを愛する男が。
窓の外に注意を向けた俺はやっと気づいた。いつの間にか、雪
が降っていたんだ。
しかも、結構積もっているっぽい。
………まさかとは思うが。
「………カカシ先生」
「ぅあい?」
あくび交じりの返事。眠いんだろう。眠いクセにこの人は。
「………お一人で、雪像でも作っていらしたんですか?」
「………………一人じゃないデス」
雪像作りの方は否定しなかったな?
「影分身ですか」
「…………………えへ」
そりゃー『一人』じゃないよな。実質一人なんだが。
「その方が早かったんで………」
「雪で遊ぶのにチャクラ無駄遣いしてどーすんです。………ま
ったく、もう………風呂、沸かし返して温まってらっしゃい」
チャクラの無駄遣いをした上忍は、俺の胸元でイヤイヤをした。
………俺よりもデカイ男にイヤイヤされても可愛くない………
はずなのだが。
これが可愛く見えるから始末におえない。(俺のクサレ眼が)
「面倒くさいです〜………先生があっためてくれればそれでO
Kですから〜」
貴方のおかげで、俺の方が寒いんですが。
えーい、ちくしょうめ。
俺はがばっと起き上がって、ベッドから降りる。
「そんな濡れた髪で何ぬかしやがっているんですか。天下の上
忍様が、夜中の雪遊びが原因で風邪なんかひいたらみっともな
いでしょう! 俺、看病なんかしませんよ? 風邪の原因をそ
こら中にふれ回りますからね」
上忍様は、ふとんの中から恨みがましそうな眼で見上げてきた。
「………イルカ先生って………時々イジメっこ………」
「そうですか? 風呂、一緒に入って洗ってあげようと思って
いたんですが、イジメになるならやめますよ」
途端に、イルカせんせーの意地悪〜ッ! …と、カカシさんは
ふとんから飛び出してくる。
………ふ、勝った。
この人には他のモノで色々と負けているんだから、こんなささ
やかなやり取りで勝たせてもらうくらい、いいだろう。


やっぱり、冷えた身体を温めるには風呂が一番だ。
俺は遠慮する(嫌がっている?)カカシさんの身体を丁寧に洗
ってやる。
石鹸を泡立て、全身を撫で回してやると、彼はあっさり陥落し
た。俺にはその手の意図は無かったのに、とは言わない。
あった。
無茶苦茶ありましたとも。スケベ心全開でした。
だってなあ、カカシさんの反応が可愛くて、つい。
寝る前にも確か一戦交えたと記憶しているけど、あんな冷えた
身体でふとんに潜り込んできたカカシさんがいけないんだとか
何とか、今の状況を恋人の所為にして。
気がついたら、体力消耗チャクラ切れのカカシさんが湯船の中
でグッタリと気を失いかけていた。
―――何やってんだかな、俺も。


ちなみに翌日。
真夜中に風呂場でナニしたツケで、カカシさんはもちろんの事、
俺も結構寝坊してしまった。
休みだと思って、気を抜き過ぎたな。
起きた時、既にお天道様は高く昇っており、朝までにはやんで
いた雪を溶かしていた。
故に。
夜中に起きだしてせっせと制作したカカシさんの『作品』は。
ただの雪の塊と化していて、制作者を泣かせたのだった。
 
 
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未完成SSのフォルダで1年間中途半端に放置されていたネタ。
自分でも何書いたのかスッカリ忘れきっておりました。(当然、最初に何を書こうと思っていた
のかも忘却の彼方)………;;
オチを無理矢理ひねり出し、小ネタでUP。
半分 溶けてしまった雪だるまって、哀愁が漂っていませんか?
(08.01.12)