+++ となりのはうる +++

  

初夏のとある日。
教授の自宅書斎でバイトをしていた時だ。
教授の机の上に、見たコトのあるDVDのパッケージがあった。
………趣味の幅の広い人だとは思ってたけど、こんなものも見るのか、先生は。
いやいや、研究の一端かもしれない。
日本文化を語る上において、もはやこのジャンルははずせないしな。
DVDのタイトルは、『ハウルの動く城』。
ご存知、ジャパニメーションの巨匠、宮崎氏の作品だ。
何となくパッケージを手に取って見ていると、教授がドアを開けて顔を出した。
「ねー、カカシ君。一昨日作ってもらった資料さ、やっぱりプリントしてくれる? 紙媒体でないと読まない人いるから」
「はい。何部ですか?」
「えーと、報告会議で使うだけだから、十部もあればいい、かな?」
と、言いながら、教授はオレの手のDVDに気づいた。
「あ、それ。…カカシ君、見たことある?」
「ええ。前、テレビでもやりましたからね。メシ食いながら見ました」
オレ、アニメ映画は実写映画と同じくらい好きだし。(ジャンルにもよるけどね、両方)
あのさあ、と教授はきまり悪そうな顔をする。
「………その、ハウル…? 僕、似てる?」
「………は?」
実はね、と教授はそのDVDがここにある理由を説明し始めた。
「日本のアニメが大好きな知り合いがね、フランスにいるんだけど。なんか今度、向こうでコスプレのイベントがあるんだって。…で、そのハウルのコスチュームを作るから、僕に着てくれって言うんだよ。曰く、キャラのイメージを壊さないヤツに着て欲しいんだって。それくらい引き受けてもいいんだけど、変なキャラだったら嫌じゃない? だから、一度見てみようと思って」
レンタルじゃなくて、DVD買っちゃった、と。
海外のオタクには羨ましいだろうね。吹き替えも字幕もナシで日本のアニメDVDが見られる教授が。
「あー、そうですねえ………ハウル、途中で髪の色変わるんですけど、登場時の金髪だったら、先生イメージかも。似合いそうですね、衣装」
つーか、ハウルファンが見たら撮影大会になりそうだ。似合い過ぎて。
「いいんじゃないですか? そんなヘンなキャラじゃないですよ。宮崎アニメなら、普通に映画として海外メディアの評価も高いし。…後で一緒に見ましょうよ。オレも、もう一度見たいです」
そして、そのDVDを見た教授は、やっとハウルが『そんな変なキャラじゃない』(ヘタレな部分はあるが)のだと確認、納得したようだ。
「これならOKかも」だって。
コスプレ自体には抵抗は無いらしい。そらそーだな。向こうにはハロウィンとかあるもんな。カーニバルだって、仮装はするし。
それを考えたら、ハウルのコスプレなんてマトモな衣装だもんなー。
教授は、アニメそのものも気に入ったようだ。
「日本のアニメは面白いね。水準高いし。そういや、国際映画祭で受賞してるんだよね、この監督。他のも見てみようかなあ。…見ておけば、友人と話もはずむだろうし」
うん、ジブリアニメなら他の作品も水準高いと思う。オレ、アニメはシロウトだけど、やっぱ背景とか動きとか違うなあ、とテレビ見てて思うもん。
やっぱ、ジブリと言えばナウシカとラピュタとトトロと魔女宅だよな?
もののけ姫とか、千と千尋も捨て難いが。
「オレのおススメはラピュタとトトロです。夢があっていいですよ」
「あ、詳しいんだねえ、カカシ君。んじゃ、悪いけどこの監督のDVD、揃えておいてもらえる?」
「いいですよ」
詳しいわけじゃないけど。
オレの世代の日本人なら、ジブリアニメ見ている率は高かろう。
トトロなんか、子供の頃イトコ達やイルカとビデオで何度も見たよ。
………猫バスに乗るのが、ガキの頃の夢だったもんなー………懐かしいな。
オレはジブリ作品を一通り揃えて、教授のリビングの棚に置いておいた。シックな色調のリビングで、そこだけちょっと浮いている。
………今度、DVD用の収納棚を調達しておこう。中見えない引き出し式のヤツ。


そして、教授のコスプレは大成功。大ウケだったらしい。
やっぱりなあ。…オレも見たかった気がする。
「本当に魔法が使えたらいいのにねー」
って教授は言っていたけど。
ある意味、魔法使いだと思いますよ、貴方は。
オレにとっては、十分過ぎるほど。


 

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………残暑お見舞い申し上げます。
何故かいきなりジブリネタ。思いっきりタイミングはずしています。(笑)
猫バスは、私も乗ってみたいっす!
ふわふわふにゃん、できっと気持ち良いに違いない。
教授=四代目です。…似あいそうですよね? ハウル。
(09.8.17)