+++ ぱぱとも +++

  

ゴホゴホゴホ……あ、失礼しました。月光ハヤテです。
私の妻、夕顔さんはとても美しく心の清い女性です。
私などにはもったいない程です。
その妻が急な任務でどうしても明日の保育園の行事に参加出来な
いから、代わりに私に行って欲しいと頼んできたら―――これは
行くしかないではありませんか!
可愛い娘の為でもありますし。
これがちょっと目許が私に似ていて、幼児ながらアンニュイな雰
囲気漂う大人しい可愛い子でしてねえ。眼に入れても痛くないっ
てのは、あながちオーバーな表現ではないと思ってしまうくらい、
可愛いんですっ!!!(ぜぇはぁ)
………すみません、親馬鹿全開なんです。自覚はあるんですけど、
止まりません。
失礼致しました。話を戻します。ええと、行事です。行事。
保育園の行事くらい、代わりにこなせなくては特別上忍の名がす
たるというもの。
私はニッコリ笑って引き受けました。
「それくらい、いいですよ。任せなさい」
「………あのね、それで……明日の行事って、ママさんみんなで
子供のオヤツを作るっていうものなんですけど……ママさんの中
に、そういうのが苦手な方がいらして……私、その方に約束して
いるんです…作るのを手伝ってさしあげるって……。ねえハヤテ。
あなた、私の代わりに約束を果たしてくださいな…」
ああ、なんて優しい人なんでしょうね、貴女は。
「ゴホ……それはどなたなんです? 夕顔さん」
夕顔さんは、どこかモジモジしなから、「ナイショだったんです
けど……他言無用ですよ。絶対に」と前置きして小さな声でその
『ママさん』の名前を言いました。
……………………………………………は? 今、何て?
「………今日は四月馬鹿でしたっけ?」
「ハヤテ。…私は嘘なんか言っておりません」
「あのね、夕顔さん。いいですか? 冗談というのは、嘘くさく
ても『もしかしたら本当かも』くらいのリアリティがなきゃ効果
は無いんですよ……ってぅひぶっっ」
私は無言で立ち上がった妻の鉄拳をくらいました。
その動作、コンマ数秒です。避けるヒマもありゃしません。
さすが暗部。妻の言葉を疑った私が悪いんです。
ですが、彼女の口から出た名前は、悪い冗談以外のなにものでも
無かったんですよ………実際。

そして、次の日。
私は妻の言葉が嘘でも冗談でもないと知ったのです。
半信半疑で保育園に向かった私は、そこで見知った顔に会いまし
た。アカデミーで同期だった男です。
「…おや、イルカじゃないですか」
「ああ、ハヤテ。久し振り。お前がここに来るなんて珍しいな。
………あの、夕顔さんは?」
「あー、ええ、急な任務で……なんでも彼女、今日お手伝いを約
束した人がいるらしいんですが、約束を破るわけにはいかないか
ら私に代わりに行ってくれって……」
私の話を聞いたイルカは、しまったという顔をしました。
「……そうか…律儀な人だからなあ、夕顔さんは……いや、実は
ウチも彼女が急な任務で、俺が代わりに来たんだよ。…連絡、入
れれば良かったな。すまん」
………ええと、何故イルカが私に謝るんでしょうかね。
「お前の口が堅いのは知っているが、人には言わないで欲しいん
だ。頼む」
だから話が見えないんですが?
「…話、聞いたんだろう?」
「………何を、です?」
イルカは周囲を憚ったのか、そこから先は私にしか見えないよう
に指文字を使い始めます。そして彼の指が私に告げたのは、まさ
に皆に知られたら驚天動地の事実でした。
「……いや…そりゃあ…君も大変な人を奥さんに…」
私に言えたのは、それだけでした。
貴女が言ったのは、本当の事だったんですね、夕顔さん。
疑う様な事を言って、すみませんでした。殴られても仕方ありま
せん。
それにしても、私の妻も何と言うかその………強い女性ですが、
イルカの奥さんはまたスペシャルクラスですね。勇気ある男です、
君は。
ああ、もちろんこの事は決して口外しませんとも。
―――私も命は惜しいですから………ゲホゴホ。
イルカは心配そうな眼で私の顔を覗き込み、指でちょい、と私の
アゴに触りました。
「…ハヤテ、ここ痣になってるぞ。大丈夫か?」
「……ああ、これは昨夜迂闊な事を言ってしまいまして、彼女に
ガツンとやられてしまって…お恥ずかしい」
イルカは同情的なまなざしで私の肩を叩きます。
「………夕顔さんも、反射行動が身に染みついているんだろうな
あ…彼女を責めちゃダメだぞ。きっと、悪気は無いんだ。それと
余計なお世話だろうが、彼女が台所で包丁を握っている時、急に
背後に立ったらいけない。………………悲劇が起こる」
「………わかります。……苦労してるんですね、君も」
いや、よく生きているものだと私は感心しました。
だって、相手はあの木ノ葉のバーサーカーですよ? うちの夕顔
さんが先輩、先輩と尊敬している凄腕元暗部。
………このイルカという男、見かけによらず侮れませんね。認識
を改めましょう。
「………いや、彼女達が悪いんじゃないよ、ハヤテ。…優秀な忍
というだけなんだ」
「ええ…わかります。……私達が夫として、男として精進すれば
良いだけの話…ですよね。…ゲホゴホッ」
「そう、その通りだよな! 頑張ろう!」
お互いに強すぎる妻を持ったものですが――『お仲間』がいると
知ったこの安心感は何でしょう。
私とイルカは視線を交わし、ガッチリと握手をしました。
友情とは美しくありがたいものです。
 

………で、この場合、私達『パパ友』って言うんですかね?
 
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父の日記念UP(?)。
同人誌『こねたねた』に書き下ろしたものを、ちょっぴり改稿・加筆。
夕顔さんが語り手の『ままとも』とお対の小ネタです。
この二人のお子さんはたぶん、眼の据わった日本人形………(怖い………)風の童女。
お母さんが美人なので、よく見ると美人………になるだろうなって顔立ちの。
(07.6.17)