+++ おうさまげーむ +++
あーも面倒だっつの、コンパの幹事なんかよー。 居酒屋とかで皆で騒ぐだけならいいんだけど、今回セッティング がなー。 見るからに大勢で騒ぐのなんか嫌いだって顔した、うみの。 そういうのが好きそうに見えるクセになかなかその手の誘いには 応じない、はたけ。 この二人を誘えって、オンナノコ達がうるさくてよ。 「ミズキ君、うみの君達と高校一緒だったって言うじゃない。誘 ってよ。絶対だよ。でないとコッチもミス木ノ葉、連れて行かな いからねー」 ときたもんだ。 こっちの大学受験して、合格したぞと喜び勇んで田舎から出てき たら、何故かアイツらも同じ大学受けてたってだけの話なのにさ。 ……特に仲が良かったワケじゃないんだがなあ……奴らと。 うみのはいい。文武両道、結構そのどっちもイケているクセにそ れを鼻にかけない、いい奴だ。 だから、俺も普通にクラスメイトとして接していたけどな。 問題は隣のクラスだった、はたけ。 コイツは成績はいいけど見た目毛色が変わってるし、噂じゃ不良 仲間がいるとかいないとか。まあ、あまりお近づきになりたくな いタイプだったんだよなー。 うみのとはたけの仲がいいのは、幼馴染みだからだって聞いて納 得したさ。でなきゃあんまり考えられない組み合わせだもんな。 で、何とか渋るうみのを説得して、飲み会に参加する事を了承さ せた。うみのに、はたけも引っ張ってきてくれと頼み込んで。 これだけで俺の仕事は半分終わったようなものだった。 うみのは約束通りはたけも連れて来てくれた。 あれだな、高校の頃は制服だったからそれ程思わなかったけど、 何だかはたけの野郎は雑誌のモデルみたいだな。男の眼から見た って、何だかカッコイイっつーか。くやしいけど、垢抜けていや がる。 うみのも大学生になってから前より大人びて、いい男っぽくなっ てきているしなー。 ちえ、女の子達が連れて来いって騒ぐワケだよ。 俺だって、結構モテる方なのにさ。俺を含め、他の野郎どもは今 回引き立て役かよ。アホくさ。 あ〜あ、ミス木ノ葉のお目当ては、うみのの方か。熱い視線を向 けちゃって。 なのに当人達は女の子の秋波なんざものともしねえ。バチアタリ 共めが。皆はあんまり気づいてないかもしれんが、アイツらあく までも表面にこやかに、でも絶対に相手を自分の方に踏み込ませ ない。 変な奴らだ。こんな、合コンみてーな場所じゃあ男は可愛いコを ゲットする事しか考えてねえってのが普通なのにな。 ケッ。モテる男はガツガツしねえってか? 奴らのそういう余裕のある雰囲気も、女の子にはイイんだろうな あ。クソ。 そうこうしているうちにアルコールも回り始めて、お約束のよう に『王様ゲーム』が始まった。 番号と王様って書いた割り箸を皆で引くゲームだ。今回のコンパ は総勢12人。 結構人数がいるから盛り上がった。 その回に王様になったのは、酒の所為で頬をピンクに染めた女の 子だった。彼女は定番中の定番を口にする。 「んじゃあ〜、5番とぉ、えーっと、8番がキッス〜! マウス トゥマウスで〜ディープ!」 ………ディープかよ。可愛い顔してコワイなあ、女って。もしも 野郎同士だったりしたら地獄じゃねーか。あ、俺7番だ。セーフ。 「5番誰〜?」 「俺」と無表情に答えたのは、王様ゲームが始まった途端に帰ろ うとして、「逃亡禁止」と皆に抑え込まれたうみのだった。気の 毒に。 女の子達は一斉に自分のクジを見てガッカリした表情になった。 え? …って事は…… 「……8番は?」 「はーい、オレ〜!」 元気よく手を挙げたのは、はたけ。うわ、『地獄』のパターンか? ………ちょっとだけ気の毒のような………ってオイ。奴はさっさ と立ち上がって(彼らの席は離れていた)他の野郎の膝をまたぎ 越し、うみのの席に行ってしまった。 「……こら、カカシ。お前酔ってるだろ」 しな垂れかかる相手に、うみのは顔を顰めている。 ま、そりゃ幾ら仲が良くて奴のツラが綺麗でも野郎は野郎だもん なー。わかるぜ。 「えー、オレ酔ってないよ〜ん」 ………いや酔ってる。酔ってるって、お前。 女の子達がキャーッと悲鳴(つうか歓声)をあげる中、はたけは うみのにキスしやがった。 ……あー、もしかしたらうみのも結構酔ってるんじゃねーか? ディープかどうかはわからんが、結構ちゃんとしたキスしている みたいな感じ。 後で勘定をする幹事役の俺は酔うわけにはいかないから、ちっと 羨ましい。 「やーん、ちょっとビジュアルいい〜〜っ!」 「グッジョブ王様ーっ」 ああ、酔った女の子達大はしゃぎ。あいつらアレか。腐女子かよ? うみのははたけを抱えるようにして立ち上がった。 「悪い、マジもう抜けるわ。コイツあんまり顔に出てないけど結 構酔ってる。自分の足で歩けるうちに連れて帰りたいから。…ミ ズキ、会費で収まらなかった分があったら後で払うから、言って くれ。じゃ、悪いけどお先に」 えーっという女の子達のブーイング。 だが奴等が抜ければ、女の子の方が多いという男連中には有利な 状況が出来上がる。もちろん野郎どもは誰一人イチ抜けするうみ の達を止めたりはしなかった。 快く手を振って彼らを送り出す。 「おう、気をつけて帰れよー」 「あ〜ん、またねぇ〜うみの君、はたけ君〜」 女の子達は少々不満げながらも、皆の前でキスした男達が二人で 消えるというシチュに想像力をかきたてられて萌えているご様子。 男同士でちょっと仲がいいとすぐホモ扱いしやがるからなぁ、女 は。(何故だ?)うみの達も気の毒に。 それにしても、はたけの奴があんなに酒に弱かったなんてな。 ちょっと可愛いかも、なんつってな。 俺は幹事としての役目を果たすべく立ち上がった。 「さあそんじゃ、王様ゲームの続きと行こーっ!」 夜はこれからさ。 |
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ 同人誌『こねたねた』のネタ募集にて頂いたお題で書いたSSSでした。 『黄昏の異邦人』にこの小ネタをふまえたエピソードが出てまいりますので、WEBにもUPして おいた方がいいかと思いまして。 ミズキくん初登場です。…ちゃんとイルカ達のクラスメイトでした。トラックの運転手じゃなくて。(笑) (06.12.25)
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