+++ にんにく +++
「最近好み変わったかね? イルカ先生」 イルカのご贔屓のラーメン屋だと、あの銀髪の上忍が教えてく れたここ『一楽』のオヤジが人のよさそうな顔で笑いかけてき た。 確かにウマイと思う。小さな店だが、手伝っている娘さんとや らも結構可愛いし。 案外イルカの奴、この娘の顔見たさに通ってたんじゃないか? あの男とデキちまう前から通ってたんなら、あり得る話だろう。 なんたって、若い男なんだから。 「そうですか? 俺、そんなにいつも同じもの頼んでましたっ け」 イルカは年配の人間に対して雑な口の利き方はしないから。 (エライぞ)俺も合わせてやらなきゃな。 「前はラーメンには半チャーハンをつける事が多かったけど、 最近は餃子って方が多くなったかなー、と思ってな。いや、 気分も好みもあるんだろうけどよ」 うん、イルカはラーメン自体には特にお気に入りを作らない で、色々なものを注文していたらしいから、俺もそこは気を 遣わずに好きなものを食っていた。 そうか、なるほどね。そういや俺はここの餃子が気に入った から結構よく頼んでたな。 「最近餃子にハマッてるんですよー。色々食ったけど、やっ ぱココのがウマイなって」 オヤジは途端に相好を崩す。 「そーかそーだろ! 嬉しいねえ、イルカ先生にそう言って もらえると! よっしゃ、サービスで特別にもう一皿焼いて やるか。食うだろ?」 お、やったー! 儲け! 「本当っすか? 嬉しいなあ。ありがとうございます。じゃ あ、同僚にも宣伝しておきますよ」 「そうこなくっちゃ。わかってるじゃないか、先生」 オヤジはいそいそと餃子を焼きにかかった。 ……でもアレだな。 ってコトは、イルカの奴俺がココで食うのがわかってるから 自分は食わないでいるのかな。 ラーメンばっかじゃ栄養偏るものなあ…… なーんてボーっとしてたら、後ろから背中を軽くどつかれた。 フン、来やがったな。 「……またココでしたか、イルカ先生」 苛立ちを抑えた男の声が頭上で聞こえる。他人の眼があるか ら、罵倒したくても出来ないでいるんだな。イルカの身体だ から、思いっきり殴ることも出来ないらしい。 ざまァみやがれ、お気の毒様。 「…あはは、ついね。…すみません、好きなもので」 俺はうんとイルカの口調を真似てやった。案の定、銀髪の上 忍はすぐ言い返せなくて黙ってしまう。 はは、可愛いね。ホントに上忍か? お前。 マジ、どこが良かったんだろうねえ、イルカは。こういうガ キっぽい可愛げのあるトコか? それともツラか。…確かに 造作はいいけどな、この若造。 「オヤジさんが餃子サービスしてくれるんですよ。貴方もい かがですか?」 見上げて、ニッと笑ってやる。冷笑に近い、皮肉っぽい笑い。 イルカがこういう顔をこの男に見せることはまず無いだろう。 果たして上忍は嫌そうに眉を寄せた。 上忍に気づいたオヤジが愛想よく「お、カカシ先生。先生も 食っていきな。んで、上忍のお仲間に宣伝してくれや」と椅 子をすすめる。 「…いや、でも悪いよ、オヤジさん」 へえ? 遠慮してやがる。もっと図々しい野郎かと思ってた んだけどな。 「いいって。いつも贔屓にしてもらってるしよ」 「んじゃ、オレにもラーメン下さい。そっちは払うから。… 塩、お願いします」 「あいよ、塩ね。やあでも、別に餃子だけ食ってっても良か ったのに」 上忍は俺の隣に腰を下ろす。 「あはは、ここでスープのいい匂い嗅いだらハラ減っちゃっ て」 そう言いながら俺を横目でギロリと睨む。 「……食ったら『返せ』よ、ジジイ」 オヤジには聞こえないだろう小声。俺はすまして答えてやっ た。 「夜までには返すって」 オヤジがサービスしてくれた餃子を口に放り込むと、ニラと にんにくが味覚と嗅覚を占領した。 ああ、そっか。 俺は唐突にイルカが餃子を食ってなかった理由に気づいた。 そーか、にんにくか。 わあ、おとめちっく。笑えるぜ。 でもまあ、コイツも食うなら今夜は大丈夫かな―――イルカ がキスしても。 クスクス笑い出した俺を、上忍が胡散臭そうに眺めていた。 +++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ WEB拍手で頂いたお題を書いてみました。 お題は「秋水おじいちゃんに振り回されるイルカカ」だったのですが、振り回されているのは 主にカカシさんだけ・・・(笑) イルカ先生のフリしてラーメン食べに行っちゃう秋水じいちゃん。 こういう場合、「彼らなら口臭をモトから消去できる薬草くらい知ってるんじゃないか」とか いうツッコミをしたらいけません。^^; ネタですから。 小ネタなので大きな騒ぎは書けませんでしたが、こういうのでもよろしかったでしょうか? 拍手及びリクありがとうございました! (05.02.05) |