+++ いけいれん +++
何で? どうしてよりにもよってあの人なんだよ。 他にもいるじゃないか中忍! アカデミー忍師だって他にもいるし! 三代目の陰謀だな? 絶対そうだ。 あンのスケベジジイ。 イルカ先生の可愛い女姿がまた見たかっただけじゃないのか。 いや、先生のアレはどうやら彼の母親の姿を模しているらしいからな。 …ジジイ。もしかしてイルカ先生のおっかさんに横恋慕……はねえか。親子ほどトシが違うのに。 ……いや、自来也様なんざ、幾つになっても若いねえちゃんがいいらしいし……って、これは大抵の男がそうか。 あー、そんなんどっちでもイイのよ。 問題はね、オレのイルカ先生がカワイコちゃんにバケて、あろう事か遊郭なんぞに潜入している事なの。 ももも、もしもあーんなコトとかそーんなコトとかするハメになったらどうするワケ? あの人妙に真面目だからさ、「任務だ」と思ったらやるよ? 色仕掛けでも、何でも。 真っ向体当たりが信条みたいな人なんだもんなー。……そういう所も好きなんだけどね。 でも今回は任務の種類がヤバイって! 出来ることなら今すぐ彼の所へ行って、守りたい。 でも、それは叶わない願いだ。 だって、オレは今……… 「何ボケっとしてやがる! 集中しろ、カカシ!」 ―――クマと任務中なのよぉ。クマと。(涙) ああ、オレは何故今任務中なんだろう。 これもジジイの陰謀か? 「カカシ!」 「わーかってるよ、うるせえな。やりゃいいんだろ、やりゃ」 任務とあらば、オレだって何でもやるさーチクショウ。 この少人数(上忍2人、中忍6人。8人しかいねえのよ)で城落としでも何でもなー…… 城って言っても、天守閣も無いようなちっさい可愛いお城だけどね。城は城だし、生意気にでっかい堀があったりしてさ、他にもトラップは満載。……結構手強いかもねえ。 でもそんな自分の任務よりもイルカ先生が心配でしょうがない。 ああ、何だか胸の辺りが痛ぇ。 これが心痛ってヤツかしら。 無事でいてください、イルカ先生〜……… 生真面目な恋人の身を心配しつつ、オレは印を切った。 「………胸と腹の違いもわかんねーのか、お前は」 …………うるせえよ、クマ。任務中に倒れなかっただけでも褒めろよ。ずっと痛かったんだからさ。 「安静にしていてください、はたけ上忍。たぶんもうすぐ薬が効くと………思いますので」 たぶん、ね。 毒も薬も生半可なモノなんざ効かないオレに、鎮痛剤投与したってムダ。気休め程度にしかなりゃしない。 でも、だからって何もしないわけにもいかんよね、忍医もさ。 キリキリと痛む腹を押さえつつ、病院のベッドに寝転がっているしかないなんて、情けない。 病名は、胃痙攣。 いつぞやのイルカ先生とお揃い。 そう思うとこの胃の腑を抉るような痛みも何となく愛しいような。 ん、アレね。やっぱ、ある程度デリケートな人間がかかる病気なのかも。(誰だそこで笑う奴は) オレが腹を抱えてベッドでゴロゴロしていると、勢いよく病室の扉が開け放たれた。 「カカシ先生っ! 任務で倒れられたって……だ、大丈夫ですかっ」 ああ、イルカ先生……っ!! オレの為に息せききって駆けつけてくれたんですね。 開け放たれた勢いそのままに飛び込んできたイルカせんせーに答えたのはクマ…いや、アスマだった。 「だいじょーぶだ。ただの腹イタだってよ。…まー、胃痙攣ってヤツだな」 「イ……ケイレン?」 イルカ先生の眉がきゅっと寄せられる。経験者だけに、この痛みを察してくれているんだろう。 嬉しいなあ………イルカ先生がオレを心配してくれている。 嬉しいです、イルカ先生。ホントーに。 嬉しいんですけどねっ……でも……でも…っ…そりゃないでしょー……… アンタ、その格好でここまで来ちゃったんですか。 着物の裾を乱した(ついでに襟元も緩んでいる)黒髪の美少女に、オレは内心アタマを抱えた。 「くぉらアスマッ! にやにやしてオレのイルカ先生を鑑賞してんじゃねえっ!」 目つきがイヤラシイんだよ、このクマ! 「イルカ〜。バカが何か言ってるぜ?」 「カカシ先生、怒鳴ったりしたらいけませんよ。安静にしなきゃ」 イルカ先生はいつもの肉厚なごっつい手じゃなくて、小さな柔らかい手でそっとオレの額に触れてくれる。 うわ、複雑だけど嬉し〜…イルカ先生のごっつい手で撫で回されるのは大好きなんだけど、これはこれでナンか萌える。 「こんな姿で来てしまってすみません。また火影様に変化固定の術を掛けて頂いているんですが、今回は時間が来れば術は解けるようになっているので―――もう少しだけこのままなんです。明日の朝には元に戻れますので」 「イルカせんせ……そんな恰好で……あ、危ない目には遭いませんでしたか…?」 怖々と伺うオレに、イルカ先生は微笑んで首を振った。 「貴方が何を心配なさっているかはわかっていますが、大丈夫ですよ。ターゲットのオヤジにちょっと押し倒されましたが、すぐに一発お見舞いして眠って頂きましたから。……あんな脂ぎったオヤジにヤらせてたまるもんですか、気色悪い」 美少女は腰に手を当て、ケッと吐き出すように毒づいた。 可愛らしいお姿なのに、まことに雄々しいポーズです、せんせ。 ああでも良かった。 嘘をついているようには見えないから、きっとイルカ先生は無事だったんだろう。 その脂ぎったオヤジに押し倒されたとしても。…………押し倒され………押し……… オレの腐れ脳は、目の前の可愛いイルカ先生が脂ぎったオヤジ(きっとハゲでデブでテカテカしてんだ。偏見だが、きっとそうだ)に押し倒される図を瞬間想像してしまった。 そしてムカつくよりも、何故かその『押し倒されている美少女(イルカ先生)』っつう絵に下半身が反応しそうになる。 それはマズイだろ、オレ! オレが押し倒したいぜ〜チクショウとか思っちゃマズイって! イルカカ的に!(ん?) いてててて………ッ……混乱する思考をかき乱すかのごとく、また痛みだすオレの腹。 「カ、カカシ先生! 大丈夫ですかっ」 イルカ先生が慌ててオレの背中を擦ってくれた。 ………ああ、すみません先生、ご心配掛けて。 脂汗が噴出したのが自分でもわかる。きっと顔は蒼褪めているんだろう。 ………うう、相当痛いです。死にそーに。 胃痙攣ってこんなに辛かったんですね、せんせ。 これって、ヨコシマな妄想の報いかしら。 すみませんっ……二度と女の子のイルカ先生にあーゆー事やらこーゆー事とかしたいなんて妄想しませんからっ! マジ勘弁してくださいカミサマ。 でもオレの背中を行き来する華奢な指が、嫌でも妄想を駆り立てる。 痛いんだから萎えろよ、オレ。 ムダなところで元気だな。(涙) 男ってこんなに悲しいイキモノだったのかと今更ながらにウンザリしながら、オレは朝まで胃痛に耐えたのだった。
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ イルカ先生も、女体変化のカカシの所為で過去に胃痙攣を経験しております。 これは酩酊独走の『恋人たちの正しい(?)午後の過ごし方』と連動したお話でございます。 初出は、同人誌『こねたねた』の書き下ろし。 ………ま、カカシさんも野郎には変わりないので…………^^; (08.05.26)
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