+++ いちご +++

  

なあなあ、と床に座り込んで新聞を読んでいた相棒が声をかけて
くる。
「何だ?」
「これ、安い。苺狩り日帰り6980円」
…苺狩りだ? バスツアーだな?
「行きたいのか?」
「温泉にも入れるってよ。」
……イタイ所を突いてきやがる。
そうさ。俺は温泉が好きだ。
だが。
「………それはいいが。たぶん周り中オバちゃんだらけだぜ?」
「……………」
「ガキ連れとか」
よくテレビでそういうツアーの紹介をしているが、若い男が二人
で参加しているっていうのはまず見ない。大抵は子育てを終えた
ご婦人方が連れだって参加しているとか、子連れのママさん達と
かだな。いいとこ、OL、女子大生。
野郎は、奥さんに引きずり出されたダンナ連中くらいだ。
「…………行きたいか?」
「………………んにゃ…やめとく……」
その声は、思いっきり沈んでいた。
苺食い放題。
そして大きい風呂。
広告を眼にした時、一瞬にしてその『お楽しみ』を思い描いて
しまったのだろう。

仕方ねえなあ……

俺は椅子から立ち上がり、床に新聞を広げている相棒の所に行っ
てその頭に手を置く。
「一人、6980円だろ? 二人で14000円近い。
…14000円分苺買ったら、どれだけ食えるよ」
ご近所のスーパーでワンパック大体390円前後。
ざっと計算したって、30パック以上ある。
そんなに食えるか?
「……そっか……」
「苺食うだけならな」
「温泉はあ?」
「隣の駅の近くにスーパー銭湯が出来たって話だぜ? 露天風呂
にサウナつきの」
う〜む、と相棒は唸った。
銭湯と温泉は似て非なるモノである。
風呂というくくりでは同じだけど、違う。
泉質とか、情緒とか、そういう物を抜きにしても違うのだ。

んな事ァわかってるんだ。
つか、そういうことに拘るのは実は俺の方なのだが。
「…じゃあ、その銭湯行かねえ? で、帰りにスーパーでイチゴ
いっぱい買っていい?」

だああっ…もう、んな事潤んだ眼で可愛らしく聞いてくんじゃね
えっっ…でかい図体しやがって可愛いなんて反則だぞ。てか、い
くつだ貴様。

俺は無言で奴に足を引っ掛け、フローリングの床に転がしてやっ
た。
「何すんのよ〜イルカさんったら〜〜」
「お前が誘うもんだからつい……」
「なっ…誘ってねえよっ!」
あ、真っ赤。…反則その2。
 
 
 
野郎二人でスーパー銭湯。
ま、それも悪くはないだろう。


 
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そろそろイチゴ狩りでもなかろうかと思われますが、UP。
少し前まで、苺の旬って5月頃だと思ってましたが。
最近の『イチゴフェア』って2月ごろやってるような・・・?
大学生のイルカさんも温泉好き。
そしてやはり昼間から喰われるカカシさん。(笑)これもイチゴ狩り・・・???
(05.04.16)