+++ ひざまくらや +++

  

………寝ちまった。
コレはあれだな。………何となく、でかい猫に膝に乗られた挙句、眠り込まれた時の感覚に似ている。
動くに動けねえ。
ガキの頃オレが世話になっていた親戚のウチは、おばさんが動物嫌いで犬も猫もいなかったけど、イルカの家にはいつも2〜3匹の猫がいた。
オレが一番よく覚えているのは真っ白な毛並みで、もう十年以上―――つまり当時のオレよりも長く生きていたばあちゃん猫だ。
そのばあちゃん猫と、庭に来る奴らに気まぐれにエサをやっていたら何時の間にか居着いてしまった茶白のブチと灰色の猫と。
この3匹とよく遊んでいた。
オレはどっちかってぇと犬派なんで、犬……出来たらシェパードとかゴールデンレトリバーとかハスキーとか……とにかくデカイ犬に触りたくて仕方なかったんだけど、この際猫でも構わなかったわけだ。
動物の暖かい身体や柔らかい毛並みは魅力的だったから。
ばあちゃん猫は、トシの所為か少し遊ぶと疲れるらしく、ヒトが油断していると膝に乗っかってきて寝てしまう。
ちょうど、今オレの膝に頭を乗せて寝てしまった男のように。
こら、イルカ。人間の頭って、体の中じゃ一番重いんだぞ。
お前、脳みそいっぱい詰まってるだろうしさ。………脳みそか。
そういや、寝ている猫の耳の中に、好奇心で指を突っ込んでみたことあるんだけど、何だか結構奥まで入るんだよな、あれ。
両耳にそーっと入れたらさ、右から入れた指と左から入れた指の先がくっつきそうでコワかったっけ。
…んで、あんなにちっこい頭だろ? …オマエの脳みそはどこにあるんだ? とか素朴な疑問が湧いちまったよ。
だからといって猫の脳天カチ割って、中を見てみたとかいうご猟奇なハナシにはならんから安心してくれ。オレはそこまで変態さんじゃねーから。(って、誰に話しかけてんだ? オレ)
オレってさー、どうも見た目アヤシイらしいんだよね。田舎にいる頃、小学校で飼っているウサギが悪戯された、とか、ガラスが割られた、とか、そういうワケのわからん事件が起こると、必ずと言っていいくらい、オレは犯人候補として噂になっていたらしい。実際、学校の先生に呼び出されて事情を聞かれたり、警察らしきヒトに質問されたりしたもんなー。
ま、この髪にこの眼だ。おまけに眼の上のデカイ傷痕。
見た目で浮いてたのは認めるけどね。
オレを犯人扱いするような噂が流れる度、自分の事のように怒ってくれたのは、こいつ。
オレが動物好きなの知っているから、余計怒ったみたいだった。
オレは犯人じゃないから、お前が怒らなくてもいいんだよって言ったら、根拠もなくただの偏見で犯人じゃないかなんて言われたんだから、もっと怒れって逆に怒られたっけなー……。偏見か〜。
見た目プラス、両親ナシだから?
あー、そうね〜非行に走る要因は結構揃ってたねえ、オレってば。
でも、オレはグレる気なんかなかった。
だって、お前がいたもん。
オレの為に泣いたり怒ったりしてくれちゃうんだもん、お前。
そのお前を悲しませるとわかっているような真似、出来ねーって。
ああ、もしかしたらオレってば、その頃(中坊だよ)からコイツに惚れてたのかしらん。
「………マジ? 変態さんじゃん…」
「誰がヘンタイ?」
思わず声に出してしまった独白に、膝の上から反応があった。
「あー、起きてたのかよ。どけって、重いから」
「枕は動くな」
でかい猫は勝手なことをほざき―――チラッと片目を開けてオレを見上げ、くすっと笑って片腕をオレの腰に回してきた。
「で、誰がヘンタイ?」
「…お前だっ!」
ああ、ちくしょう。オレきっと、赤くなってる。
「動くなよ、枕」
「………寝心地良くねーだろ? クッション取ってやっから、頭どかせって」
「ん〜? 俺、お前の膝がいい」
×××××!!
 あああ、オレたぶん真っ赤だドちくしょー!
「男の膝枕がいいっての?」
「………どうせ、ヘンタイだからな」
ごろんと寝返ると、ちょうどヤツの鼻先がオレのジーンズの……あああっ…バカ野郎が鼻先をヒトの股間に突っ込むな! そこまで猫の真似せんでいいから!(注:猫は隙間があるとそこに鼻先を突っ込みたがるイキモノなのだ)
「ちょっ………待てって…それ、ヤバ………」
「あー、悪い」
イルカはあっさり頭をずらす。
ん? オレに悪戯したいんじゃなくて、マジに膝枕して欲しいだけなわけ?? 変なヤツ。
「………お客さ〜ん、膝枕十分千円で〜す。今ならオプションで耳かき三分三百円ですけど、どうします?」
「……またずいぶんボッタクリやがるな、最近の膝枕屋は」
「そういうご時勢なんですよ」
なんたって、正座してる女の下半身を『膝枕』として真剣に開発し、商品にしちゃう世の中だ。通販雑誌で見て笑っちゃったぜ。
新商売・膝枕屋。いいかも。
問題は、客がコイツくらいしかいそうもねえってトコロだけど。
「膝枕屋」
「なんでしょ、お客さん」
「オプションは五分な。お前の小指でいいから」
………マニアックな客だな。
「それは倍額になりますけど、よろしいでしょうか」
「アコギな膝枕屋め。………今夜、ハンバーグにしてやるからそれで手を打て。後はツケだ」
「お客さんにはかないませんねえ。スパゲティと目玉焼きもつけてくれたらチャラにしときますよ」
「よし。商談成立」
………やっぱ商売にはなんねえや。
オレはヤケクソで膝の上に乗っている男の髪をぐしゃぐしゃとかき回す。
ああ、猫や犬の手触りには程遠いけど、これはこれでイイかもしんない。
 
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同人誌『こねたねた』のネタ募集にて頂いたお題で書いたSSSでした。
ええと、カカシがイルカに膝枕をしてあげる、がお題だったかな?
新商売・膝枕屋。
………結構スキです、こういうノリは。(笑)
(07.4.14)