+++ ひとでなし・2 +++
「………というわけなんです、イルカ先生。迫って来たのが男 なら問答無用で叩きのめせばいいだけなんですが、女の子相手 にそんな乱暴出来ませんし。どうか協力してください」 真剣なカカシさんの眼に、俺はたじろいだ。 話はわかった。俺が女に変化してカカシさんの『彼女』になり すまし、言い寄ってきている女の子をかわそうというのは。 だがしかし。 それはあまり感心できない対処法だと思う。 こういう問題は、小細工を弄すると後で自分の首を絞める結果 になったりするものだし、相手の女性にも悪い。 「………カカシさん、落ち着いてください」 「落ち着いています」 「いや、落ち着いて聞いてください。……ええと、俺もですね …貴方と結婚する前にそういう事がなかったというわけじゃあ りません。同僚のくノ一に似たような事を言われた経験があり ます」 カカシさんは一瞬ポカンとしたが、俺の言っている意味を理解 するや、突然泣きそうな顔になった。 「つつつっつまり、女の子に一晩でもいいからって誘われたん ですかイルカ先生その子喰っちゃったんですかチドリには異母 兄弟がいるんですかーっ」 ………何でいきなりそこまで行っちゃうんですか……だから落 ち着いて聞いてくれって言ったのに。 「…落ち着いて、カカシさん。……俺は喰ってませんし、貴方 が産まなきゃチドリに兄弟は出来ません。…女性の方は、男な んて後腐れなく女の子をつまみ食い出来るチャンスがあったら 迷い無くそうする生き物だと思ってらっしゃるようですが…い や、確かにそういう男は多いですが。…カカシさん、貴方俺が そういう事をする男だと思っているんですか?」 カカシさんは頬を薄っすらと赤らめて下を向いた。…可愛い。 「…いいえ……ごめんなさい。…ちょっと混乱しました」 「ならいいのですが。…あれは、貴方とお付き合いを始めた頃 ですから、俺の気持ちは貴方にしか向いていなくて。正直にそ う伝えました。…俺にはもう心に決めた女性がいます、と」 カカシさんの頬の赤みが増す。ああ、本当になんて可愛い…… 「そう言ったら、その人は諦めてくれました。……カカシさん、 貴方もそう仰ればいいのです。心に決めた相手以外とは付き合 う気も、寝る気も無いのだと。下手な小細工する必要は無いで すよ」 俺の言葉に、カカシさんはこっくりと頷いてくれた。 「……そうですね……本気で告白してくれた人に、偽装で断る なんて、いけない事でした。オレ、イルカ先生が相手になって くれるなら嘘をついたことにはならないような錯覚をしていま した。…ちゃんと、本当の事を言って断ります」 そうです。 本気の告白には本気で答えなくてはいけません。 それが誠意というものでしょう。 でもね、カカシさん。 じゃあ貴方は誰が好きなんですかと訊かれて、何もバカ正直に 「イルカ先生」って答えることはなかったんですよおぉぉぉお おぉぉ……… カカシさんにフラれた女の子が泣きながら親友とやらに自分の 『悲劇』を訴え、「相手がホモじゃ仕方ないわよ」と慰められ た、という話は何故かあっという間に広がってしまい。 おかげで俺は、ホモの恋人を振って美人と結婚した顰蹙な男に なってしまいました…… 『ホモの恋人』と『結婚した美人』が同一人物であることを知 っている人達はハラ抱えて笑っていますが。 「ごっごめんなさい…っイルカ先生…」 …ああ、もういいです。 そんなに謝らないで、カカシさん。 どうせ、俺の同僚連中は前からそう思っていたらしいし。 カカシ上忍の方はまだお前を忘れられないらしいな、なんてや たら同情的に肩を叩いてくれやがっていますよ。ハハハ。 ちなみに、カカシさんの方は『けなげにも恋人の幸せの為に身 を引き、かつ未だに純粋な愛を彼に捧げている』とかで女の子 の間では株が下がるどころか上がっている模様。 ………女性の思考回路は…俺にとって永遠のナゾだ…… そして俺がコトの『真相』を知ったのは、その年の内輪の忘年 会で紅先生のビデオが上映された時だった。 アンタだったんですねっ紅先生! カカシさんに妙な入れ知恵 なさったのは! 「イルカ先生がどんな美女になって登場してくれるか楽しみに してたのよぉ。残念。…でもま、これはこれで傑作な面白ビデ オよね」 …じゃないでしょうっ!! まったくもうっ! ビデオまでこっそり用意して、俺が女に変化してカカシさんの 彼女のフリをするところを撮るつもりだったなんて!!! 悪魔かアンタ。 モニターにはカカシさんが女の子に問い詰められ、「オレはイ ルカ先生が好きなんです」って答えてしまい、それを聞いた女 の子が顔を引き攣らせて身を翻し、駆け去って行く場面(しか もリピートやらなんやら駆使した効果入り)が何度も映し出さ れ、その度に爆笑の渦が沸き起こる。 ひとでなしの集団ですかアンタら。 カカシさん、貴方まで一緒に笑ってんじゃありません、コラ。 +++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ この場合、ひとでなしは上忍連中。 お気の毒なのはイルカ先生。 そして『ホモ』だと勘違いされたカカシさんは、その後アタックしてきた野郎どもをその 言葉通り問答無用で叩きのめし、操を守り抜きましたとさ。 いずれにせよ、避けて通れぬ騒動かもしれませぬ。 イルカ先生は既婚者だと周囲の人間も承知していますが、写輪眼のカカシさんは花の 独身男ってコトになっていますからねえ・・・(笑) ちなみに忘年会で上映されたビデオは、その後誰かの手によって消去された模様。 『続きが見たい』と言ってくださった方が思ったよりいらしたので安心してUP。 ありがとうございましたv (05.04.01) |