+++ ひとでなし +++

  

珍しくカカシが私の部屋に遊びに来た。
「ねえ、紅ちゃん」
このコがこんな声で話し掛けてくる時は大概相談事。
「何よ、カカシ。……ダンナとケンカでもした?」
カカシはううん、と首を振る。
「んじゃ、チドリちゃん?」
始めから相談事だろうと決めてかかっているような私のセリフ
を、カカシは否定しなかった。
「違うって。………ねえ、紅ちゃん。どうしよう……」
「だから、何よ」
カカシは声を落としてボソリと言った。
「……オレ、女の子に告白された」

いけない。
一瞬、大爆笑するとこだったわ。

このコが女だって事は、ごく一部の人間しか知らない。
男性と仮定してこのコを見た場合、少し細いものの結構美形っ
ぽくてカッコイイ。
それに大陸に名を馳せるエリート忍者。つまり、お値打ちもの
のイイ男ってことで。
女性が恋する条件をだいぶ満たしているワケね。
それでも今までコイツに告白、なんて勇気あることをする女の
子がいなかったのは、このコの持つ雰囲気の所為だった。
一言で言えば、『怖い』ヒト。
無愛想で他人を寄せ付けない雰囲気の男に「好きです」なんて
告白するのはさぞかし勇気が要ることだろう。
本性知っている私は笑っちゃうけど、確かに今までカカシはそ
ういう感じの『男』だった。
ところが、あのダンナと付き合い始めた途端にその近寄り難い
雰囲気が薄くなったのね。
何となく、声を掛けても大丈夫そうな感じになったわけ。
恋をした所為で艶も出てきたし。
加えて、子供が出来てからこのコの雰囲気は更に柔らかくなっ
た。
なるほどね、と思う。
ついに、勇気ある女の子が『写輪眼のカカシ』に告白したわけ
だ。
「……何て?」
私は笑いを抑え、真面目に訊いてみた。
「………『好きです』って」
「…それはまたストレートね。で、アンタはどう応えたの?」
「そんな事言われても困るから、正直にそう言った。困るって」
そりゃーね。
……かの偉大な火影様だった四代目もさ、かなりの美形でいい
男だったけど。忍具の扱い方はこのコに教えても、女の子のあ
しらい方は教えなかったでしょうしね。
フツウに考えりゃ必要ないし。
「で?」
「………泣かれた」
ゴメン。
やっぱ、笑っちゃう。
「でね〜、ここからなのさ、紅。……その子ね、泣きながら食
い下がってくるの。『一回でいいんです。情けをください』って。
『もしも子供が出来ても、貴方に一切ご迷惑は掛けません。他人
にも、貴方の子供だという事は言いません』って」
「そりゃ……随分思い詰めているわねえ……一回でいいからアン
タに抱いてくれって?」
「…そ。……参ってんのよ、しつこくて」
「………そうね」
カカシはハア、とため息をつく。
「その女の子、くノ一?」
「うん」
………そりゃあ、十中八九、『写輪眼のカカシ』のタネ狙いね。
うまくカカシとつき合えればよし、ダメでも子種はゲットした
いってところだわ。手管を心得ているくノ一なら、確実に妊娠
するように持っていけるもんねえ……
「一回やれば満足するって言うんなら、幻術でもかけて誤魔化
しちゃおうかなーとか思ったんだけどさ、よく考えたらそれっ
て凄くイヤなことだし」
「幻術で誤魔化すのは相手に悪いって?」
カカシは首を振る。
「それもちょっとあるけど。……だってさ、幻術掛けるにして
も、どうしても自分の体験が反映するじゃないよ! オレが知
っているのは…イルカ先生だけだよ? 彼の抱き方しか知らな
いんだもんっ!」
………言いたいことはわかったわ。
たとえ幻でも、イルカがその子を抱くみたいでイヤなわけね。
可愛いこと。
あ、ちょっと面白いこと思いついた。
「……ダンナに正直に話して、協力してもらえばいいじゃない」
「え?」
「もうつき合っている相手がいるって彼女に言うのよ。ウソじ
ゃないでしょ? で、イルカ先生に頼んでとびっきりの美女に
でもバケてもらえば? 負けたと思ったらもうしつこく言い寄
ったりしないんじゃない? その女も」
カカシは一瞬固まっちゃったけど、やがて膝を打った。
「……そっか。したら、偽装だけど人間関係におけるウソは無
いって事だ!」
「相手がイルカちゃんなら気兼ねなくイチャつけるでしょ?
アンタも」
たとえ変化してたってさ、ダンナだもんね。
「わかった! ありがとう紅! イルカせんせに協力してもら
うよ!」
「どういたしまして。…頑張ってね」
カカシは晴れやかな顔で帰っていく。
その勇気のある女の子には悪いけどさ、想像しただけで顔が笑
っちゃうわ。
相手が悪かったわね、マジで。
そうだ、アスマならビデオカメラ持っているわよね。借りに行
こっと。
うふふ、楽しみだわァ。
イルカちゃん、どんな美女に化けるかしらね。
 
 
 
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この場合、ひとでなしは紅姐さん。(笑)
でもイルカ先生があっさりとそのテに乗るかどうかは疑問。
カカシちゃんは溺れるものは藁にもすがる、で紅さんの提案に乗っちゃいましたが。

これは『ひとげのむ』に『考えてみればイルカ先生も女の子とか、妙齢のお嬢さんとかが恋敵
だったりしたことも(現在進行形も)あるんじゃないか』とご感想コメントでを頂いたので、
それじゃあ・・・と書いてみたもの。
カカシさん、独身時代は対外的にとってもクールだった模様。(特にハナのいい女性には。)
割とフツウに初対面の挨拶をしたイルカ先生には信じられないかも・・・
 
(05.03.31)