+++ だから +++
「なあ、イルカ。オレさ、欲しいものあんだけど……」 「ダメ」 ………ナニ? その速攻却下。 「まだ何も言ってないじゃんか」 「ダメったらダメ」 「せめてオレに希望を言わせてくれても……」 イルカはじろっと新聞の陰からオレを見た。 「言ってもムダ。コタツは買わねえ。以上だ」 ………ちくしょう。お見通しか。いや、『冬のあったか家電特 集』なんて通販のチラシを見ながら言ったんじゃバレバレだよ な。 「イルカに買えなんて言わないよ。オレがバイト代で買うって 言ってんのに、何でお前が文句言うのさ〜。冬はコタツで蜜柑! 日本の常識じゃないかよー」 「でかい家具・家電類は相談、合意の上ってのが同居のルール だったろ?」 「………だから相談してんじゃないか………」 「だから。俺は、コタツなんて鬱陶しいモノこの家に入れたく ないって言ってんだ。却下。あんなもの、お前のスペースには 入らないだろ? リビングしか無いじゃないか。邪魔だ」 確かにね。 それぞれの『部屋』は元々一つの部屋を二人分に間仕切りして いるだけだから6畳も無い。ベッドと机、本棚でもう結構いっ ぱいいっぱいだけど。 「ええい、だから相談してんのに〜! イルカの実家にはあっ たじゃないか」 「だから嫌だって言ってんだ。いいか、カカシ。アレはな、悪 魔の発明品だ。人間を堕落させるんだ」 ………イルカが、『悪魔』だって。珍しい言い回しだなあ。 ………………あ。 「………いったんハマると出て来れなくなるから?」 「その通り。わかってるじゃないか」 コレはもしや、ひょっとして。 「んで、コタツの周りを必要品が囲んじゃうんだよね」 「………あれは掃除もしにくいんだ」 イルカ、埃アレルギーみたいなところもあるもんなあ……汚い 埃っぽい部屋にいるとだんだん具合が悪くなるらしいの。 「あのさ」 「何だよ」 「………イルカが心配してんのは、オレが堕落すること? そ れとも自分が堕落しそうで怖いの?」 イルカはギロリと睨む。 「……………俺だってな、コタツでまったりすんのは嫌いじゃ ないさ。でも、アレはハマったが最後じゃないか! 冬場はベ ッドから出るだけでも気力が要るんだぞ」 ………あー、それ以上余計な気力を使いたくないわけね。てか、 コタツから出るのにそんなに葛藤するのかよ……… イルカって時々ヘンだよな。 「ヘンな奴ぅ。真冬に裸足で歩き回ってるクセに、寒いの嫌な んだ」 「俺は靴下が好きじゃないんだ」 わがままだな〜。 ああ言えばこう言う。 ガッコの奴ら(特に女ども)は、イルカのこんな所は知らない んだよな。 イルカは新聞に顔を埋めてボソボソと続けた。 「寒いのが嫌って言うより…コタツから出た時の感じが…なん か、嫌なんだ。すうっと薄ら寒くて。………なんか、お前が先 にベッドから出て行った時の感覚に似ている。急に寒くなる感 じが」 オレは一瞬真っ白になった。 ちょっとーっ!!!! きっ…聞きましたか奥さん―――っ!!! うわうわうわ、なんかスゲエせりふ聞いちゃったぞおっ! 何かたとえがヘンな気もするけど、そういうのは置いといてっ 「………だから、嫌なの?」 「………………ああ」 「オレが一緒のベッドで寝るの、嫌じゃなかったっけ?」 「………………冬ならOKだ」 あ〜…まあ、夏は暑いわな。野郎二人でくっついて眠るのは。 「じゃ、冬の間はいいの? オレ、一緒に寝ても」 「いいよ。…その代わり、コタツは無しな」 「うん!」 ………いけね。ついうっかり「うん」って言っちゃったよ。 見れば、イルカはニンマリ笑ってる。 あああっちくしょう、また上手いこと丸め込まれてしまった! ………いいよ。 今年の冬はオレ、イルカの湯たんぽになってやる。 一冬一緒に寝てやろーじゃねーか。 嫌だなんて言わせるものか。 でもオレの方が体温低いんだけどね、実際。 +++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ カカシくんと寝てしまったコトが既にイルカくんにとって『悪魔の誘惑』だったわけですが。 ソレには気づいているのかなあ? ふふふのふ。 コタツ購入の野望はお流れ。 (06.10.22) |