+++ びじんさん +++

  

ボクの名は、サイ。
………本名は他にあるのか無いのか不明だが、原作にはサイと
いう名前で出ているので、そう名乗っておく。
実はこの度、友情というか、人間関係なるものに目覚めて、そ
の手の指南書まで読んで研究中だ。
というのも、今まで自分と同じくらいの年齢の人間とあまり接
触が無く、勝手がわからないからだ。
でも、ナルトくんやサクラさんと、これから『仲間』としてや
っていく気ならば、ごく一般的な親しい人間関係というものを
築いた方が任務もやりやすくなるだろうし。
それに………絆とか、つながりとか。
ボクにもそういう間柄を他人と築けるということを確かめたい。
だから、ボクは頑張る。
多少面倒くさくても、『付き合い』というものは大事らしいの
で、サクラさんのお誘いでカカシ先生のお見舞いにも行った。
その後、ナルトくん達とは同期だという人達と焼肉店までお付
き合い。これも今までには無かった経験だ。
人付き合いの指南書には、他人との心の距離を近づけさせる方
法として、愛称やあだ名で呼ぶのも良いと書いてあったので、
早速実行してみたのだけど、これがなかなかに難しい。
あだ名なんて第一印象とか、その人の特徴でいいとサクラさん
も言ったのに。
サクラさんをブスって呼んだら怒られたし、秋道くんは明らか
におデブだからそう呼ぼうとしたら、ナルトくんが凄い形相で
止めるし。
一応考えて、山中さんのことを美人さんって呼んだら、当の本
人には大ウケだったのに何故かサクラさんのボディブローをく
らってしまうし。
………本当に難しい。
これなら、ビンゴブックの暗部でも暗殺する方が余程簡単だ。
ああそうか、なら余計に頑張らなくては。
難しいからって避けていたら『根』の名がすたるというもの。

焼肉店から出たところで解散になったので、ボクはまた図書室
でも行こうかと思ったのだが、ナルトくんに声を掛けられたの
で足を止める。そう、仲間なんだから、彼が「来い来い」と手
招きするのにも素直に従おう。
ナルトくんは、コソコソと小さな声で耳打ちしてきた。
「お前よ、アレはまずいって! サクラちゃんといのは、昔っ
から色々と張り合ってんだから。…サクラちゃんをブスって言
って、いのを美人さん、はナイだろー。そりゃ怒るって、サク
ラちゃん」
仕方ない。ナルトくんには本当の事を言おう。
「………なるほど。…でも、女の人は特徴を素直に言うと怒る
じゃないか。だから山中さんの時は印象の逆を言ってみたんだ
けど………そしたら怒られないみたいだから………」
ナルトくんは、あぐ、と口を開けた。………何かの動物に似て
いるような………今度調べて、ナルトくんのあだ名にしてみよ
うか。
「…………サ、サイ………? ちょーっと聞くけどよ、お前が
素直〜に『美人』って思うのって…………誰なんだってばよ…
……?」
ふむ、とボクは一瞬考えた。
そこで脳裏に浮かんだのは、先刻病院で会った、銀髪の上忍。
「…………カカシ先生、とか……かな?」
ボクがそう言った途端、ナルトくんは「ほべぁっ…っ」とか何
とか妙な奇声を発し、目を丸くして顎を落とした変な顔のまま、
凄い勢いで3メートルほど後ろにすっ飛んで。
そして、そのままバックステップでボクの視界から消えていっ
てしまった。
………意外に器用なんだな。
しかし、妙なリアクションだ。
彼の問いに対して、ボクは素直に答えたのに。
ボクは、完成する前の作品に対しては、まだ評価は出来ないと
思っている。
人間の造作においても然り。
二十歳前の人間の顔は、まだ完成されているとは言えない。
発展途上のものを美しいとは思えないのだ。
その点、カカシ先生はもう大人で、上忍で、完成された人間と
しての『美』というものを持っている。
だから『美人』だと評価したのだが―――
やはり、ボクの芸術家としての感性はナルトくんには理解でき
ないのだろうか。

相互理解への道はまだ遠く険しいようだ。
 
 
 
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というわけで、珍しく原作ネタ。JC35巻ですね。
ジャンプ本誌を殆ど読まないので、ネタ的タイムラグはご勘弁ください。(笑)
もしも同じようなネタを既に書かれている方がいらしたら、ごめんなさい。
人間関係を模索するサイが可愛くて。(笑)でもやる事なす事的外れで、墓穴を掘るあたりの
悲しさに親近感を覚えます。(爆)
誰かな、この子に 『人が傷つきそうなコト・嫌がりそうなコトは言っちゃいけません』 って教えて
やってください。(出番です、イルカ先生!)
ある意味すごい天然というか、純粋な子なんでしょうね。天然腹黒。
………ハラといえば、忍者がハラなんか出して戦っちゃいけません。危ないし、冷えます。
 
(06.11.04)