+++ あつい +++

  

ああ、暑い。
夏なんだから、当たり前。
―――って言われりゃその通りなんだが。
ここ数年の異常なまでの暑さは何なんだ。
日本はいつから亜熱帯になったんだ?
気温も高いが、日本は湿気だな。
ハワイに遊びに行った時は、そんなに辛くなかったぞ。
それは、気温は高いが湿度が低い所為だったんだと今更気づく。
ああ、暑い。
口に出すと更に暑い。
イルカさんはアレか?
『心頭滅却すれば火もまた涼し』ってヤツ?
………って訊いたら、「バカ言うな。暑いわ」と返ってきた。
ああ、そう。
やっぱ、お前でも暑いの。………ふうん。
イルカに言わせれば、オレの方が余程涼しげな顔をしているらしい。
色彩と顔立ちの所為で、そう見えるんだと。
………バカ言うな。暑いわ。
夏の陽射しはオレの天敵だ。
ガキの頃から嫌って程辛さを体験している。
少しでも日焼けしようもんなら、後でエライ目に遭うんだよな。
まさに、火傷。
ヒリヒリして、風呂も辛ければタオルケットの縁までオレを攻撃しやがる。
それに、この季節の陽射しは前が見えねえほど眩しい。
なのに、『子供だ』という理由だけで、炎天下に「外で遊べ」と放り出され。
当然、サングラスも許されない。
(と言うか、ガキ用のサングラスなんて洒落たもん、ド田舎には無かった)
ああ、何かイロイロ思い出してきた………クソ、ヒトには個人差ってものがあるんだ。
真っ黒に日焼けして、夏休み明けにポロポロめくれる薄い皮をものともしないヤツらに、オレの気持ちなんかわかるもんか。
なーにが、「オマエ全然焼けてないじゃん、やーいモヤシっ子〜」だ。
皮膚の色が変わるまで焼いたら、オレは病院行きだぞ。
「………眉間にシワ寄せて、何唸ってんだ?」
「………この暑さで、ガキの頃思い出して気分悪くなってるとこ」
ああ、とイルカは笑う。
「子供の頃の夏休みか〜………懐かしいなあ。よく、神社の境内で遊んだな。……あそこ、木陰で涼しかったから」
「………あー………うん、そーだね………」
イルカは、日焼けしてもヘッチャラタイプのおガキ様だったけど、オレの『事情』をきちんと理解してくれた数少ない友達だ。
そして猫並みに『涼しい場所』を感知する能力があった。
家から追い出されたオレの手を引いて、「こっちなら日が当らない」と木陰の多い場所に連れてってくれたっけ。
そこまでの道のりが日陰一つ無いカンカン照りだと、家から雨傘まで持ってきてくれた。
周囲のガキどもにからかわれようが、それこそ涼しい顔で炎天下に黒い雨傘を差して。
………オレを、護ってくれたんだ。
そこまで思い出し、オレは急に嬉しいような、くすぐったいような、情けないような、でもありがたいような………複雑な気分になってしまった。
シャリシャリシャリ………と、涼やかな音が聞こえてくる。
「カキ氷、食べるだろ? 今日は豪華だぞ。白玉にずんだ餡のフラッペだ」
ああ、オレは本当に昔っからコイツに甘やかされている。
「おー、いいねえ、食べる食べるッ」
怠惰に寝転がっていたソファから飛び起きるオレに、イルカは苦笑を浮かべた。
うーん、お前、オレのこと食い物で釣れる単純おバカとか思ってねえ?
………ま、あんまり間違ってもいないけど。
イルカの作るもんなら、大抵ウマイし。
けど、何となく悔しいから、イルカの広い背中にぺったりくっついてやった。
「わー、美味そ」
途端に不愉快そうなイルカの声。
「……………暑いぞ、コラ」
ふふふん。
普段さんざんっぱら、自分が言われているセリフを言い返す。
「夏なんだから、当たり前」
そして、自分からひっついておいて、「あー…くっつくと暑いわ、やっぱ」と離れたオレの頭に、イルカの軽いゲンコツが落とされた。


 

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………暑中お見舞い申し上げます。
あまりにも暑いので、手が勝手に 『あつい』 と書き出しておりました。(笑)
マジに汗をたらしつつキーボードを打つ。私の部屋は亜熱帯。ダラダラダラ。
皆様、脱水と熱中症にはご注意です。
(08.7.27)