+++ あいさいべんとう +++

  

今朝起きたら、カカシさんが隣にいなかった。
………確か夕べは一緒に寝た……はずなのだが。珍しい。
低血圧なのかもしれないが、彼女は朝に弱い。
上忍任務が入っている時はさすがにきちっと起きてくるが、
子供達の引率のような仕事だとどうも緊張感が足りないら
しく、なかなか覚醒しないのだ。俺は首を傾げた。
任務が入っていたとは聞いていない。
緊急の任務が夜中に入ってしまったのだろうか。
カカシさんは俺を起こすまいとして気遣いながら出て行っ
たのか―――などと考えていたら、台所の方から音がする。
もしかして、まだいるのか?
「カカシさん?」
寝巻きのまま台所を覗くと、カカシさんが振り返って微笑
んだ。
おお、可愛い。似合いますよ、そのピンクのエプロン。
「おはようございます! イルカ先生!」
「おはようございます。…どうしたんですか? 任務入っ
たんですか?」
彼女は少し赤くなって、もじもじと両手の指先を絡ませる。
「え…いえ、違います。あの……オレ、たまには朝ごはん
作ろうと思って…その…」
そうか。
俺は朝には結構強い方だから、先に起きてメシの仕度する
くらい何とも思っていなかったが。
きっと、カカシさんは気にしていたんだろう。
それで頑張って起きて、メシを作ってくれたのか。
無理しなくても良かったのに、という言葉は飲み込んで、
俺は素直に礼を言う事にした。
だって、せっかく頑張ったのに『頑張らなくても良かっ
たのに』
なんて言われたら…俺ならガッカリしちまう。
俺が喜んでいる事を素直に伝えた方が、彼女だって嬉し
いだろう。
「やあ、もうメシ出来ているんですか? 凄いな、あり
がとうカカシさん」
俺は彼女の頬にキスした。だって本当に嬉しかったから。
実を言うと、ちょっと夢見ていたんだな。起きたら朝飯
のいい匂いがして、嫁さんがにっこりと朝の挨拶をして
くれるっていうこのシチュエーション。
カカシさんはとても嬉しそうな、くすぐったそうな顔で
笑った。
「美味そうな匂いですね。すぐに顔洗ってきます」
「はいっ」
うん、いい朝だ。一日頑張ろうって気になる。
実は朝起きた時に彼女の可愛い寝顔を見るのももの凄く
幸せな気分になって、俺にとっては一日の活力になるん
だけどな。
要するに、俺はカカシさんがいれば幸せなのだ。
結婚前は料理が不得手だと言っていたカカシさんだった
が、ヨネさんに教わりに行ったり、俺のやり方を見たり
して、最近は結構上手になってきている。元々、器用な
人なのだ。
(それで何で裁縫だけは上手くならんのかが不思議なん
だが)
そして、今日彼女が頑張ったのは朝飯だけではなかった。
なんと、早番で出勤しようとした俺に、彼女は真っ赤に
なりながら包みを手渡してくれたのである。
「あの…お、お弁当……作ってみたんです……良かった
ら……」
良いも悪いも…っっ!!!
これってこれって、憧れの愛妻弁当じゃないですかっっ
!!!
俺は感激のあまり言葉に詰まって、無言で彼女を抱き締
めた。
ああ、俺って幸せ者だ。こんなに可愛い奥さんに弁当作
ってもらえるなんて。
俺はどもりながらやっとこさ礼を言って、弁当をそっと
カバンに入れ、見送ってくれている彼女に手を振りなが
ら出勤した。
今から昼飯が楽しみだ。


待ちに待った昼休憩。こんなに昼飯が待ち遠しかったの
は久し振りだ。
ドキドキワクワクしながら弁当箱のふたを開けると、彩
り豊かな弁当が現れた。これはマジにお世辞抜きで凄い。
きっと、雑誌かなんかで見て研究したんだろう。
工夫を凝らした何種類ものおかず。
そして白飯の上にはピンクのハート!!
これだよな〜! 新婚じゃなきゃ出来ないこのお約束の
模様に感動しちまう。
以前新婚だった同僚がこの手の弁当を食ってるのを見た
時に「アホか」と思ってしまったのは、たぶん羨ましか
ったんだろうなぁ……俺。
アホじゃありません、カカシさんっ! ピンクのハート、
嬉しいですっ! 貴女の愛が感じられますっ!!
ああ、顔面土砂崩れ。
通りすがりに弁当を覗き見た同僚にからかわれながら、
俺は一口一口味わって食った。
愛妻弁当。
カカシさんの手作り弁当。
朝の苦手なカカシさんが一生懸命俺の為に早起きして作
ってくれた、記念すべき愛妻弁当第一号。
あぁっ! しまった。写真撮っておけば良かった! 
俺のボケ。
ん〜、でも美味いなぁ。母ちゃんの弁当も美味かったけ
ど、嫁さんの弁当ってのは格別なものなんだなあ。ああ、
もう食い終わっちまった。もったいねえ。
そして、ガキの頃からの弁当を食う時のクセで、避けて
おいた梅干を一番最後に口に入れた俺は思わず手で口を
覆ってしまった。
「……ッ…ゥ!」
……人間、口に入れた物が予想外の味だった時は結構シ
ョックを受けるものだ。
いや、梅干にしちゃちょっと変わった色だとは思ったん
だが、何せ『初めての愛妻弁当』で俺は舞い上がってた
もんだから…迷わず食っちまったワケで。
吐き出さなかったのは奇跡的かもしれない。
とにかく何とか『ソレ』を飲み下した俺は、お茶を飲ん
で深い息をついた。
せっかくの美味い弁当だったのに。最後の最後でエライ
目に遭っちまった………
―――意図はわかったんだが……彼女の。
きっと、俺に良かれと思ってした仕業だという事もよっ
くわかるし。
でもね、カカシさん。

梅干代わりに兵糧丸を弁当に仕込むのはちょっとナニで
す。(涙)

色からみて、栄養剤代わり程度の成分の兵糧丸なんだろ
うけど。
激マズ……ッッ……なわけで、アレは。
俺は目じりにたまった涙をそっと指先でぬぐった。

帰ったらやんわりと教えてあげよう。
……弁当に梅干を入れる本来の意味と目的を。

 
 
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『イルカ先生BD企画・小ネタ3本勝負』第一弾。
……とりあえずおめでとう先生!!!
でも誕生日ネタではないのですが。(笑)

おっべんとう♪ おっべんとう♪ ピンクのハートの愛妻弁当!(<ベタ過ぎ)
カカシさん頑張る! 卵焼きにから揚げにタコさんウインナー!ブロッコリで彩りのバランスも
クリアして。きっとミニトマトも入れました。仕上げはもちろん兵糧丸です!

………………今度からデザートに一口大福とか、ミニプリンをつけてあげてください。
イルカ先生そういうの結構好きみたいです。(笑)
 
(05.05.26)